僕とレオンは何度目かの神威くんの呼び出しにより、工業地区の埠頭にやって来ていた。ただし、現在時刻は朝の五時だ。
「さむっ……」
車から降りると、強めの潮風が髪を揺らした。日中との寒暖差が激しい時期のうえ、海の近くとなれば冬に取り残されたようだった。海はまだ黒々として、生き物のようにうねっている。神威くんは何もない場所で波を眺めながら佇んでいて、僕たちに気づくと眉を顰める。
「なんだ。執事もいるのか」
「当然です! こんな暗いうちからノア様お一人でなんて、考えられません! 神威様、もう少しお時間というものを考えていただけませんと……」
立腹した様子のレオンの小言を聞き流して、神威くんは僕が持っていたキャンバスとイーゼル、画材一式に目を留めた。目を輝かせた彼が僕を見る。僕は苦笑で返す。
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