バイト生 ふたりバイトを始めて数週間。仕事にも慣れてきた頃だった。
ノリの軽い店長が「後輩」を紹介するよ!と1人の少女を連れてきた。
「すすすすスレッタ・マーキュリーです!よよよろしくおねがいしもす!」
かんでる。かわいい。いや何でここに。目の前の現実を受け入れられない。何故彼女がここにいる?夢か。
「こちらボブ君。君の先輩になるからいろいろ聞いてね。ボブ君、スレッタさんをよろしくね〜…ボブ君…?」
「あ…はい。……………よろしく」
「よろしくおねがいしま…す?!?!??!?!」
…………まあそういう顔になるのは仕方がない。残念ながら現実だ、覚悟を決めよう。
意外にも、彼女は「何故自分がここで働いてるのか」ということについては、一切踏み込んでこなかった。
「わたし、も、皆に内緒なんです。びっくり‥させたくて……」
いつも世話になっている彼女の花嫁や地球寮のメンバーに、贈り物がしたいのだという。
「サプライズ…ってやってみたくて。プレゼント贈ったり、贈られたり…憧れてて」
俯きかげんに呟く。好きなものを語る彼女は饒舌で、怯えも吃りもなく瞳を輝かせながら夢見るように言葉を紡ぐ。
「…なのでっ!よろしくお願いします!!いろいろ、教えてください!」
「……………………おう…」
「えっと、ぼぶ…せんぱい…?」
上目遣いでそれはやめてくれ。たのむ。
渡された青いエプロンをひとしきりくるくるとひらめかし、店内ではしゃぐ彼女を軽くたしなめた後、簡単な業務説明に入る。
品出しや在庫管理、接客やアテンダント。簡単そうに見えるが意外にやることも覚えることも多い。
最初はびくびくと戸惑っていた彼女も、2、3日も経つと慣れてきたのか笑顔をみせるようになった。
「せんぱい、教えるの上手ですよね」
すっかり『先輩』で定着した呼び方に違和感を感じなくなってきた。
「…….ああ、教えがいのあるやつが居たからな、問題児は慣れてる」
「ささ最近はそんなに…迷惑…かけてない、です!」
最初は、いろいろ。ありましたけど…
ごにょごにょとむくれている。
少し近くなったこの距離感が心地よい。
「そうだな、お前は頑張ってるよ。偉い」
「!?」
碧い瞳で射抜くように見上げてくる。
目も合わせてくれなかったのに、最近はこの瞳を見ることができるようになって嬉しく思う自分がいる。
…ん?顔が、赤いな………あか、い?
ふと、自分の左手を見る。柔らかい感触。彼女の赤い髪、頭の上。
「……………っすまない!!」
無意識か、最悪だ。
「いいい、いえ、びっくり、しただけで」
「いや、本当に…」
「男の人の手って、大きいんだなぁ…ってちょっと感動しちゃいました」
あなたに褒めてもらえて、嬉しいです。
そう結ぶ彼女に、脳内で頭を抱える。
……そっちも無意識かよ、最悪だ……