俺が新世界秩序に来てから2ヶ月が経とうとしていた。
ライラの世話をしながら上司の使いっ走りをし、毎度の如くボスに呼び出される日々。幼稚園にいた頃の方がはるかに大変だったがこっちも比にはならないが心労が酷い。
今日もいつものような1日を過ごしていた。今回なんか10km先の商店にお菓子の使いっ走りに遭った。全くたまったもんじゃない気分で自室に帰りシャワーを浴びベットに寝転んだ。
夜も更けていて、何も食べてないが食べる気分でもないのでそのまま寝てしまおうかと考えていたその時、ドアがコンコンとノックされた。
こんな夜中に来訪してくる奴など1人しかいない、が、今日は約束していなかったはずだが、と内心穏やかではない様子でドアを開ける。
「やあ」
ドアの前に立っていたのはやはりレオだった。
「何の用だ」
「いや、まあ、ちょっと入れてよ」
ずけずけと持ち前の馬鹿力で中まで押し入ってきて、進んだところで振り返ってきた。
明るい部屋でレオをよく見ると、何やら酷いとまではいかない、なんとも言えない顔をしていた。今日昼間会った時はそんな顔していなかったのに。
「ねえ、座らない?」
それ、俺のベットだけど。というのは心にしまい、普段見せない顔のワケを暴き今日の使いっ走りのツケを返そうと思い誘いに乗る。
しばらくの沈黙の後、レオは口を開く
「……実は…不眠症なんだ」
真剣な顔で何を言い出すかと思えば、不眠症。寝れなかったから俺の部屋に来たってか?なぜ?んなことどうでもいいが
「君、教諭やってただろ?」
「つまり、寝かしつけろと?」
「そう!正解!」
指パッチンしてレオが答える。
こいつ、いい歳して他人に寝かしつけさせようとしてるのか?まあ確かに俺なら1分あれば完璧に寝かしつけてみせるが、こいつの寝かしつけなんぞ死んでもごめんだ。
「帰れ」
「ええ〜僕こんなに困ってるのに」
頼ってるのは君だけだよ、と耳打ちしてくるレオに内心キレながら、どうぞお帰りくださいとドアまで連れ出そうとしたところでレオは閃いたような顔で
「そうだ、話、話聞かせてよ。読み聞かせ。子供は寝る前に読み聞かせしてもらうんだろ?」
と言い放つが、お前それ自分が子供だって言ってるのと同じだからな?と思ったがそれより先にレオが持ち前の馬鹿力で俺の手を引き剥がし再び俺のベットに座る。隣をポンポンと叩き、早く来いと言っている。さっきから思っていたが…こいつ、深夜テンションだ。
読み聞かせなら、と渋々レオの隣に座る。俺はスマホをいじり、読み聞かせ動画を再生した。
「ちょっと、それじゃないでしょ」
「へいへい」
しばらくちょっとした話を聞かせた。
「おしまい、さー帰った帰った」
「……ねえ、それ、君の話でしょ」
「さあな」
この話を聞かせたことに別に深い意味はない、ただ、何となく話してやってもいいかと思った、それだけだ。
「うーん、全然眠くならないな〜」
俺の読み聞かせを聞いて尚眠くならないだと?衝撃だったが、それと同時にこいつの不眠症は相当なものだと悟った。
「ねえーーやっぱり寝かしつけてよ」
俺の膝に寝転がってきやがって、俺は負けた。
電気を消し、一台しかないベッドに一緒に入る。こいつとベッドに乗ったことはあるが、こうやってただ寝るだけは初めてだった。
「ほら、ちゃんと寝かしつけてよ」
はぁ、とため息をつきながら、レオの頭を撫でる。成人男性2人で何やってんだろう…と思ったが、考えないようにした。
「…お姉ちゃんと同じ寝かしつけ方するんだね」
ここでリタの話が出るとは思わなくて少し動揺してしまった。
「…は?」
「昔も、よく眠れない日があってね…その度にお姉ちゃんがこうやって頭を撫でて寝かしつけてくれたんだよね」
君の手も、優しいねと呟く。
「今も昔もガキなんだな」
俺にしてはドストレートに煽る。
「流石にお姉ちゃんと離れてからは誰にもしてもらってないさ、僕ももう大人だからね」
どこか寂しそうに語るレオに調子が狂ってしまう。
布団の中で手が当たった。何となく、手を握る。そうすると、何も言わずに握り返してきた。握り返されるとは思わなくてレオの顔を見た。
「すぅ…」
と、寝息を立ててレオは寝ていた。
「なんだよ……」
俺も寝落ちるまでレオの頭を撫で続けた。
翌朝、俺もよく眠れたなという気分で目が覚めると、レオは既に部屋を出ていた。あれから夜中に目が覚めなかっただろうかとかいらないこと考えていたらスマホが鳴った。レオだ。
「やっほーgood morning〜いつまで寝てるんだい?」
時計を見ると午前8時半を指していた。
うわ……うわぁ……レオよりぐっすり寝てしまっていた自分を一旦殴りたい気持ちを抑えて今日もいつものように支度を始めた。