🍇「素手で果物を食すのは、品がない行為だろうか」
あるとき、オレたちはソファセットでフルーツをいただこうとしていた。皿も紅茶も準備して、最後にフォークを持って来たオレを待たず、村雨はそう言って大粒の種無巨峰を口に運んだ。彼がいやに艶かしく指先を舐るものだから、隣に腰掛けようとしていたオレは一瞬、喉を鳴らすも、開き直って「品がないというよりは、エロくて目に毒。何オマエ、今までもそんなことしてきたわけ? よく無事でいられたな」と半ば嫉妬でキレながら返した。村雨は一瞬きょとんとして、それからもう一粒、丁寧に皮を剥いてやった葡萄を真っ赤な唇に近づける。
「無事も何も、あなた以外に私をそんな目で見る者は無かったし、あったとしてもこのカタチを知らなかった私にとって、それはただ不快な挙動にしか映らなかっただろうから、近づく前に排除していたのだと思う。」
なあ、と彼は続け、心拍を上げているオレにしなだれ掛かる。
「あなたが教えた。初めてで唯一だ。私は覚えが良いので、あなたを誘惑する仕草ばかりが上達していく。」
頬が熱くなり、一音も出ないオレに向かい、彼は「正解だろう?」と微笑んで、首に手を回し咥えた葡萄をひと粒、分け与えてくれる。
情けない「大正解」のひと言は、甘すぎる果実とふたり分の吐息とともに飲み込まれた。