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    いちとせ

    @ichitose_dangan

    @ichitose_dangan ししさめを書きます。

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    いちとせ

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    ししさめ 無自覚に獅子神さんのことが大好きな村雨さんが告白する話。

    #ししさめ
    lionTurtledove

    誓いは突然に 一日の業務の終わり、カルテの記載をまとめているときに端末が震えた。グループチャットで獅子神が「真経津に頼まれてローストビーフ作ったから食いたい奴は来い」と送ってきていた。「私の分は取り分けておいてくれ」と返信した。
     大学病院の業務量は定時に終わるようにはできていない。そもそも定時まで手術が入っており、その後から病棟業務が始まる。今日も2時間ほどの残業を行う予定だったが、そこから獅子神宅に向かったのではローストビーフは跡形も残っていないだろう。取り分けを頼んではいるが、あの面子の手練手管に獅子神が対抗しきれるかというと恐らく不可能だろう。少なくとも今のところは、だが。幸い病棟患者に大きなトラブルはなくカルテ記載さえ終わればよい。少し急げば予定を繰り上げることができそうだ。一段階情報処理のギアを上げて30分ほど巻いて業務を終えた。後日職場では村雨先生が何らかの連絡を受けた途端、鬼気迫る様子になりタイピング速度も倍になった、もしや彼女ではとやや尾鰭のついた噂が流れたが、誰も真相を確かめようとはしなかった。

     仕事を終えた村雨は「今から行く」とチャットを送り獅子神宅へ直行した。庭に面した大きな窓からは室内の光が漏れている。インターホンを鳴らすと真経津が扉を開けた。獅子神は手が空いていなかったらしい。通いなれた廊下を通りリビングへ行くと想定通り叶、天堂もローストビーフに釣られて来ていた。既に食事を終えて、持ち込んだゲームやトランプで遊んでいる。
     キッチンで何か作業をしている獅子神と視線が合う。普段通りの様子に見えるが、村雨は獅子神の脈拍が110~120/分であることに気が付いた。
      トレーニングをして心肺機能を高めていることもあり、平常時の獅子神は徐脈気味だ。現在の脈拍自体は正常範囲であるが、前述の傾向を鑑みると現在獅子神は軽度の緊張または興奮状態にあると言える。
     発汗はしているが匂いは薄い。よって恐怖による興奮状態ではない。瞳孔は僅かに散大しているが、部屋の照明は点灯しており暗くはない。
     以上のことを総合的に判断すると、獅子神はこの中の誰かに懸想している。対象者は不明。
     村雨はどうしてか、酷く不愉快な心地になった。獅子神はおもしろい男である。世話焼きで気遣いができなんのかんのと人の頼みを聞いてしまうお人好しだが、それと同時に敵を執拗に追い込むことが出来る冷酷さも常識的には関わるべきでない賭場への執着もある。この中の誰が獅子神の想い人であれ、この場にいるような人間であればそれを放っておくことはあるまい。獅子神の恋情は成就してしまうだろうと村雨は予想した。しかしそれで獅子神が幸福になるかというと如何にも危うい。この場にいるのは良くも悪くも常軌を逸した人間たちであり、素直な獅子神はおもちゃのように弄ばれて捨てられてしまうのではないか?もちろんそれも含めて獅子神の人生であるが見て見ぬ振りをして獅子神が傷つくままにするのは臓腑が縮むように痛む。
     ここは一肌脱ぐしかないか。自分が獅子神に付き合ってくれと言う。獅子神は断るだろうが、自分が獅子神に好意を持っていることを提示しておけばあの3人の中の誰が相手でも獅子神を簡単に捨てるようなことはしなくなるだろう。自分への優位性を示し続けたいという性格の悪さには信頼が置けるが故。村雨はそう心に決めたものの空腹を満たすことが先決と判断し、獅子神にローストビーフを要求した。
    「多めに取っておいたけど足りなかったら言えよ。適当に何か作ってやる」
    「猛獣たちから守り通したのか。よくやった」 
     獅子神が盛りつけた皿を運んできて村雨の前に置き、獅子神自身もテーブルについた。頬杖をついて嬉しそうな顔をしている。
    「あなたも今から食べるのか?」
    「いや、お前以外はみんな食べ終わってる」
     そうか、と村雨は食事に手を合わせた後、大事に一口ずつ肉の味を噛みしめ始めた。低温で丁寧に加熱したのだろう、しっとりとして一切のパサつきが無い。肉質は柔らかく非常に美味だった。獅子神の言った通り十分な量が確保されていたため村雨は満足するまで腹を満たすことが出来た。
     さて、腹ごしらえもしたところで。真正面から獅子神を見据えて言った。
    「獅子神、私と付き合ってくれ」
    「……え?!……さ、先を越された……」
     獅子神は目を白黒させ驚いた表情になったがそれはじわじわと笑みに変わっていく。獅子神の元に、向こうで遊んでいた3人がバタバタと走り寄り口々に「獅子神さんおめでとう!」「だから言っただろ、上手く行くって!」と拍手をしたり背中をばしばし叩いたりした。
    「……?あなたは私のことが好きなのか?」
    「そうだよ!え、意趣返し的なやつで先回りしたんじゃないのか?」
    「なるほど。対象者は私だったのか……」
     獅子神の質問には答えずに村雨は一人で納得している。何にせよ獅子神が傷つく事態は避けられそうだった。他の3人と違って自分には責任感があるし、獅子神が幸福になるよう自分が手を尽くすことに疑いは無かった。
    「ユミピコ、晨君、今日はこの辺でお暇しようぜ」
     にやにや笑いを浮かべた叶が2人に呼び掛ける。
    「そうだね、ボク達お邪魔だもん。じゃ、またねー」
    「神はいつでも見守っている」
     常に無い迅速な撤収だった。普段はグダグダと片づけたり片づけなかったり、片づけている途中に散らかしたりするのだが。気を利かせたつもりだろうか。
    「村雨、オレさ、すっごい嬉しいよ。これからよろしくな」
    「ああ、こちらこそ。責任は取る」
     獅子神が照れたように笑った。
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    いちとせ

    DONEししさめ 無自覚に獅子神さんのことが大好きな村雨さんが告白する話。
    誓いは突然に 一日の業務の終わり、カルテの記載をまとめているときに端末が震えた。グループチャットで獅子神が「真経津に頼まれてローストビーフ作ったから食いたい奴は来い」と送ってきていた。「私の分は取り分けておいてくれ」と返信した。
     大学病院の業務量は定時に終わるようにはできていない。そもそも定時まで手術が入っており、その後から病棟業務が始まる。今日も2時間ほどの残業を行う予定だったが、そこから獅子神宅に向かったのではローストビーフは跡形も残っていないだろう。取り分けを頼んではいるが、あの面子の手練手管に獅子神が対抗しきれるかというと恐らく不可能だろう。少なくとも今のところは、だが。幸い病棟患者に大きなトラブルはなくカルテ記載さえ終わればよい。少し急げば予定を繰り上げることができそうだ。一段階情報処理のギアを上げて30分ほど巻いて業務を終えた。後日職場では村雨先生が何らかの連絡を受けた途端、鬼気迫る様子になりタイピング速度も倍になった、もしや彼女ではとやや尾鰭のついた噂が流れたが、誰も真相を確かめようとはしなかった。
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