わがままを聞いておくれ「れんすけ、」
甘い声が俺を呼ぶ。言い聞かせるような、宥めるような声で、何度も何度も確かめるみたいに呼ぶ。
はたして声音に内包されているのは渇きか、はたまた不安か。こころなしか彼の瞳のルビーがくすんで見える気がした。我慢、させているのだろうか。だとしたら、相当らしくない。そんなの全然柄じゃないだろ。もっと横柄で自分勝手でいてくれよ、なんて。これは俺のわがままだろうか。
欲が頭をもたげた。らしくない彼に応えたいと思った。大丈夫だと、俺は全て受け入れると伝えたくなった。
しかし、頭はうまく働かないし瞼も重たくて仕方がない。まだ応じられていないのに、微睡に沈んでゆく意識はもはや自身の手に負えなかった。せめてこれくらいは、と伸ばした手で鮮やかな赤を掬う。肌をくすぐる温かい色の髪を一房とって、それからキスをした。
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