食欲ロルフは美味しそうに食事をとる。
煮ても焼いても、なんでも食べる。好き嫌いとかないの、とオーシュが聞くと、別にないといと、もぞもぞと普段はむつりと結んだ大きな口を開いて、プリプリと油の滴る焼いた肉をかぶりつく。
食べる飲み込む。ふんわりと鼻をくすぐる匂いに、なんだか腹が減ったような気がする。おかしいな、ちゃんと昨日街で買ったパンとクロエの食べたのに、なんて思っていると、じっと不躾な視線に気がついたのだろう。
「食べないのか」
肉を飲み込み、ロルフは「向こうに行って取ってくればいいだろう」言った。それにいらないよ、とオーシュは冷ややかに返す。
「お前みたいにゆっくり飯を詰め込んだら、その分本を読むがなくなるじゃないか
」
そうか、とロルフが言うと、とそれきり何も言うつもりはなかったようで、もぞもぞと食事を続けてやがて「ご馳走様」といつものように皿の前で手を合わせた。
そんなこともあったな、とオーシュは集めた落ち葉にせっせと灰の中に芋を仕込むロルフをみつつ振り返っている。何をしているのと言えば、「芋を焼く」のだ、と若干の楽しそうにロルフは言った。
火付要因として呼ばれたのかと思いきやそう言うわけではなかったようで、オーシュは火付石でせっせと落ち葉に火をつけたロルフを他所に本を読んでいる。
(焼き芋ねぇ…)
お前の中で、蒸すしか選択肢がないと思ってた。と言えば、ロルフは俺だって他の芋料理ぐらいは作れると言う。
焼いてるのも煮るのも大きな違いはないが、とオーシュは思ったがそれ以上は特に言うことはなく、好きなようにさせていた。枯れ葉の中に投入されれている枝は燃え上がることなく、赤く発火している。
ぷかぷかと煙がのんびりと上がって、平和だな、なんて日頃の慌ただしさが嘘のように、オーシュは思う。
食料の問題もあり、今日は早めに進軍を切り上げて、各々自由な時間を過ごしている。今頃、駐屯地にいない連中は今頃街で遊んでいるか、食料の調達に出ているのだろう。
「今から間食して大丈夫なわけ?」
「たまにはいいだろう」
どの道、夜まで時間があるし、他のやつにもやればいい。
などとウキウキとしてロルフは木に腰掛けて落ち葉を棒で突いている。余程食べたかったのか、ロルフは機嫌がいい。
「それは僕も含まれてるの」
進軍が終わって、昼も過ぎた時間帯だ。正直言って、腹が減っているかと言われれば、微妙である。どうしようかな、と言う意思を込めて、ロルフを見るとロルフは肩をすくめた。
「俺はお前と食べたくて誘ったつもりだったんだが…。食べたくなければ無理強いはする気はない。他のやつに配ればいい話だ」
(それは僕に食わせるために作ってるんじゃないのか)
漠然ともやりとしたまま、紙に視線を落としている。関係ないのであればここにいる必要もないが、腰を上げるタイミングも逃してしまったので、そのままそばに居着いて、いる。流れる時間がゆったりしている。熾火なこともあって、煙たいこともない。どこかで剣を打ち合う音がする。ロルフは弓の手入れをのんびりとしている。オーシュも
「お前は、昔は本当に飯を食わなかったな」
ポツリ、とこぼした言葉に本に集中しかけていたオーシュは顔を上げた。
「そうか?」
「昔はもっと薄っぺらかった」
「それ、僕が太ったって言いたいわけ?」
「いいや、違う。すっかり旅慣れたようでがっしりしていると思ったんだ」
「まあ、毎日毎日歩いて、ゼノイラの軍団と戦ってれば、多少も体力はつくだろう」
「食事量が増えなければ体力をつかないだろう」
「そりゃあ──」
そばに食べる奴がいたから、
別に口にだしても良かったがなんとなく口籠る。ロルフはそれに気がつくなことなく、出来た、と言って芋を灰の中から取り出した。
「焦げてないな」
興味本位で穿り出した芋を見れば炭になってはいない。意外だと思って言えば、そうだろう、などとどこか嬉しそうに言う。
試しに一つ、取り出したロルフはうまい塩梅なのだろう、いただきます。と一口食べた顔が微かに綻ぶ。のんびりと食べる友人に「どう?」と、聞けば、「甘くてうまい」と口にした。食べた芋の黄金色は鮮やかな黄色をしている。ふわりと湯気が上がっている。堅物の表情がゆるゆると緩み、もへもへと食べ、口を大きく開き、オーシュの視線に気がついて、伏せていた目を上げた。
「食うか?」
「え?」
食べたいんじゃないのか、と首を傾げる。
「ずっと見てたろう」
「あぁ…。それは確かに無作法だったかもね」
「問題はない。芋に魅力があるのは確かだ」
嬉しそうにさらにロルフは灰の中から芋を突いて、取り出しわずかに笑みを浮かべて渡してくるのを、条件反射のように受け取ってしまった。中にはやはり多少焦げ付いてはいたものの、綺麗な赤紫の色をしていた。
受け取ると手が温まる。中から黄色い中身が見える。心なしか、腹が減ったような気がする。皮をめくっていると食えるのに、と一言飛んでくる。
「いいんだよ、僕は皮を剥いた方が好きなんだから」
そっちの方が美味しいし、といえばそうか、とどこか腑に落ちないようで皮のついたまま芋をかぶりつく。
別に真似をするわけではないが、少し皮を捨てる量を減らして、いただきます。と、一言口にする。ホコホコとした甘さの中に、皮のなんともいえない食感が混じって、やっぱり芋の皮なんか食べるもんじゃないやと、オーシュは思った。