モブ⚰️(冒頭のみ)1
道を誤ったと気づいた時には遅かった。コレルを根城にしているバグラー達にとって、砂漠の地は彼らの庭も同然だった。
ヴィンセント達は夜道を駆け、交戦し、退却を試みては追いつかれ、また交戦を繰り返す。富裕層でもない一行が、こうも執拗に付け狙われる理由はひとつしかない。
「逃がすな! 貴重な賞金首だ!」
「古代種は殺すなよ、50万ギルだぞ!」
バグラーが揚々と叫んだ。悪趣味な改造を施されたバイクがけたたましい音を立てて行く手を阻む。背後には戦車のようなモービルが迫っていた。彼らは本気だ。
「くそっ、相手してやろうじゃねえか!」
「も、もうムリ! アイテム使いきっちゃった!」
「魔法も使えないよ……!」
進み出るバレットに、ユフィとレッドXIIIがしがみついた。自慢のガトリングガンにほとんど弾が残っていないことを全員が気づいている。先の連戦でポーションも、魔力も尽きた。
今にもへたり込んでしまいそうなエアリスをティファが支える。クラウドが二人を背に庇うが、その横顔にも疲労の色が濃い。
「クラウド」
ヴィンセントは低くささやいた。
「私が奴らを引き受ける。皆を連れて逃げろ」
クラウドはちらとヴィンセントのほうを振り返り、すぐに眼前の敵へと視線を戻す。
「だめだ。誰も置いていかない」
「今は理想を語っていられる状況ではない」
「あんただって、そろそろ弾切れだろ」
「ああ、──他のものを使う」
今度は振り返らなかったが、クラウドの肩がぴくりと強張るのがわかった。意図は正しく伝わったらしい。
バグラーが三名、こちらに飛びかかってくる。手前の一名に向けて、ヴィンセントは最後の銃弾を撃ち込んだ。命中。絶命。女性陣を狙った一名をクラウドが斬り、残り一名をティファが叩く。三名、撃破。
それでも、砂漠のならず者は怯まない。金に目が眩んだ彼らは仲間を呼び、徒党を組んで、数でこちらを制圧しようと目論む。パーティはとうに限界だ。
ヴィンセントは銃をホルスターに戻した。
「行け、クラウド」
弾かれたように駆け出したクラウドの一撃が、突破口を開いた。敵の合間をすり抜けたケット・シーが皆を誘導する。殿を務めるシドの槍が追っ手の数人を薙ぎ払った。
それでも追いすがるバグラーの背にヴィンセントは手を伸ばす。捕らえた、そう思った瞬間に男の肉は裂けていた。鋭い悲鳴は、咆哮は、誰のものか。この獰猛な爪は、牙は、果たして誰のものだったか。内側から溢れる獣の気配。筋肉が膨張する激痛。骨格が作り変わる恐怖。濃く、芳醇な、血の匂い。──リミットブレイク。
ふと、彼方へと駆けていく青年と目が合った。
夜目にも輝く魔晄の色。振り返るなと伝えたくなって、直後にはなにを伝えたかったのかを忘れていた。薄れゆく自我を受け入れながら、ヴィンセントは仲間達の無事をそっと願った。
それも間もなく闇に溶けた。