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    shi_garr_ett

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    shi_garr_ett

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    webオンリー開催おめでとうございます!

    期間中に完成しなさそうなので、超導入部分まで上げます🙇ほんとにすいません。。
    完成したら支部にあげます!
    ※死ネタ

    あいをうて外界を拒絶するような重厚な扉は、長い年月を経てすっかり建て付けが悪くなり、案外間抜けな音をたててひらく。勝己は躊躇いなく屋敷に入ると、迷いなくこの屋敷の主人の部屋に飛び込んだ。
    「きたぞ!とっととおきやがれぽややろう!」
    ベッドの上でこんもりと丸くなった白い物体に飛び乗ると、中からぐぇ、と、くぐもった声がした。
    「・・・・・・う、」
    「おきろ!」
    恐らく腰の当たりであろう丸まったそこに跨りながら、勝己はがばりとシーツを半分はいでやる。ぱらぱらと散らばる赤い髪の下で、形の良い眉がぎゅうと真ん中によって、まつ毛がふるりと震える。けれどその瞼は開くことなく、あろうことかさらに身体を丸めた。
    「おい、今日はおれとてあわせする約束だろうが!」
    ぱちん、と、小さな掌で男の両頬を挟めば、ようやく薄いまぶたがひらいた。
    「・・・・・・待てのできないやつだな・・・・・・」
    挟まれて形を変えた唇は、そんなことを宣う。勝己は耳と尻尾を立てて、今度は押し潰した頬を両端に引っ張る。
    「う・・・・・・わかったから、」
    ようやく素直に目覚めを迎えた男に、満足気に息を吐くと、ぴょんとベッドから飛び降りた。
    「じじいかよ」
    「・・・・・・何年生きてると思ってるんだ」
    ちょっとは労れよな、とぶつくさ呟く声は聞こえないことにしてやる。なんたって今日は待ちに待ったひなのだから。

    一晩で街一つを血の海にしたおぞましい吸血鬼伝説の主役に祀り上げられた男ーー轟は、伝承とはまるで正反対と言っても過言ではないほどに、血を避け、人々を避けてこっそりと暮らしていた。ひょんなことをきっかけにその男の力をみたとき。生まれて初めて「敵わない」と思った。同時に、いつか必ずこの男に勝つのだと心に決めたのだ。それからなんだかんだと関わりを持ち、今やほぼ毎日この屋敷に足を運んでいるわけなのだけれど。いっそもう少し悍ましさだってあっでもよかったのではないかと思うほどにぼんやりとしたこの男は、どんなに勝己が勝負しろ!と牙をむき出しにしたところでのらりくらりとかわすだけ。結局、長いこと手のつけられていない書斎の掃除を担うことでどうにか週に一度だけ手合わせをする機会を得たのだった。

    「今日こそほのおもつかわせる」
    毛を逆立てる勝己の向かい側で、轟がくわりと欠伸をこぼす。
    「なんでそんなに俺に勝ちてぇんだ」
    「お前に、じゃねえ!おれはぜんぶかつんだよ!」
    真っ赤な瞳に夕暮れの太陽の瞬きをいっぱいに蓄えて、文字通り吠えた勝己の言葉に轟はわずかに目を丸めると、ふと口元を緩めた。
    「眩しいやつだな」
    穏やかなテノールが風に揺れて、二色の瞳がぎらりと煌めく。
    「・・・・・・っ」
    いつもは勝己の攻撃を躱すだけだった男が、右手をかざしぐ、と一歩踏み込んだ。ひんやりと冷えた空気はきっと氷のせいだけではない。歓びと、それからほんの少しの恐怖と。身震いをひとつして、それから勝己も形成される氷目掛けで飛び込んだ。

    「いってぇ」
    「がまんしろ」
    「へたくそ」
    頬にべちゃべちゃと消毒液が充てられて、勝己の喉がぐるると不快を訴えるような音を立てる。陶器のような肌に、長いまつ毛。体躯はがっしろとしているけれど、手足は長くすらりとした印象がある。どこか作り物めいた容姿をしている轟の左の瞳を覆う火傷跡はかつて家族に与えられたものだといっていた。傷を与えられたなんて宣うこの男は、吸血鬼なんて特異な肩書きをとっぱらってしまえばどうにも臆病で、それでいて頑固な普通の青年だった。
    「ちったぁ手馴れねぇのかよ。てめぇは」
    歪な形のガーゼが頬を埋める。先程巻かれた右腕の包帯はよれていて、とてもじゃないが患部の保護をしきれていない。出会ってから何度目かの冬が、もうすぐ終わろうとしている。書斎の掃除なんてとっくに片付いたけれど、勝己はかわらず轟の屋敷に足を運んでたいた。

    ぱちぱちと、暖炉の中で薪が燃える音がする。自分にはなかなかその炎を向けないくせに、叩き割った薪には躊躇いなく右手をかざし火をくべる轟が気に入らなくて唇を尖らしたこともあったなと、結局左手と口を器用に使って右腕の包帯を巻き直しながら考える。ちらりと、ソファに腰掛ける轟をみた。ちっとも吸血鬼らしくないくせに、太陽の光が苦手だという最も吸血鬼らしい特徴をもったこの男の屋敷は日没を迎えるころにようやく部屋の暗幕がひらく。どんな仕組みかは知る由もないが、夕暮れの太陽は大丈夫らしい。寒いのが苦手な勝己は冬は嫌いなのだけれど、夜が長いという点だけはひっそりと気に入っている。
    「またそれ読んでんのか」
    「ん?ああ」
    轟の手元には古びた洋館には似つかわしくない写真が多く載った本がある。だいぶよれてしまってはいるけれど。
    「お前がくれたものだからな」
    色違いの瞳を細めて、轟が小さく笑う。最初は気付かなかった表情の機微も、よくみればわかるようになった。この笑い方をする轟の表情は苦手だ。胸がざわざわとして、感情の落とし所が途端に分からなくなる。けれどできるだけ長く、見ていたいとも思う。
    書斎には、多くの本があった。そのどれもが難しくて、幼い勝己には何となく書いてある言語はわかっても、中身を詳しく知ることは出来なかった。ようやく掃除と整理を終えて、誇らしげに胸を張れは、轟はありがとな、と笑った。そうして、欲しいものがあったら持っていっていいぞと言ったのだ。全て読んでしまったから、と。
    その言葉がどうにも気になった。家に帰り、ベッドに転がりながらもずっと、考えていた。そうして思い立ったように立ち上がると、部屋の棚でもいっとう重たい箱をおろし、中をのぞき込む。
    「んー・・・・・・」
    ずらりとならべた絵本や図鑑と、その他の本たちを前に勝己は腕を組み、首を傾げた。図鑑は、あれだけの本を読んでいる男の頭の中に知らない生物がいるかも怪しい。写真付きでみたらまた違うのかもしれないが、なんだか味気ない。漫画は、なんとなく似合わないし、絵本は己のプライド的にも却下だ。あれやこれやと右往左往していた勝己の右手がぴたりと止まる。決して分厚くは無いその本は、いつだったか親戚のおっさんがお土産にくれたものだった。真っ青な表紙をひらけば、短い説明書き以外は少し色を変えた青が広がっている。ぱらりとページをめくればターコイズ色の海の写真が広がっていた。透明度の高いその海の色は、まるであいつの左の瞳のようで。ゆらゆらと揺れていた尻尾がせわしなく動いていることも気づかないほどに、勝己はその写真をじっと見つめていた。
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