12月31日午前8時過ぎ。
ピコーン
「ん? 何だろ?」
テーブルに置きっぱなしのスマホから通知音が鳴った。
仕事着のボタンを外したままリツカはスマホを手に取り、画面を確認した。
(……メッセージアプリの通知だ。朝から誰だろう……)
「えっ? カルナからだ!」
カルナは高校生の時からの友人で、社会人になっても時々連絡を取り合ってご飯を食べに行ったりしている。
(今回も夕飯を食べに行こうかな?)
リツカは改めてカルナとのメッセージ画面を開いた。
『星を見に行こう』
スタンプもなく、一文だけ送られてきた。
「お、おう」
リツカは苦笑いを浮かべながら呟いた。
(いつもと同じで理由が書いてないけど……まぁ、年末年始は見逃し配信のドラマ見る予定だけだったから見に行こっ。帰りにラーメン食べるのもありかな)
『いいよ』
OKのフォウくんスタンプも一緒に付けてリツカは返信した。
「さてと、準備して仕事に行こう」
リツカはスマホの画面をオフにし、仕事へ行く準備を再開した。
*
午後8時過ぎ。
「か、カルナ?」
帰宅したリツカの家の前にバイクに乗ったカルナが立っていた。
「おかえり、リツカ。仕事納め……といったか。お疲れ様」
カルナは笑みを浮かべながらリツカを労う。
「えっ? う、うん。ありがと……じゃなくてどうしたの?」
「? 星を見に行くから迎えに来た。リツカ用のヘルメットもあるぞ」
「そ、そうじゃなくて! 朝のやつ、今日の話だったの?」
「? 今日見逃したら次はいつになるか分からん。念には念をだ。貼るカイロも持ってきたぞ」
カルナは言いながら貼るカイロをカードのように広げた。
(……うーん。日付聞かなったわたしも悪いけど……まぁ、いっか)
「どうした?」
「……ううん。何でもない。着替えてくるからちょっと待ってて。外寒いし部屋で待ってる?」
「いや、このまま待っている。焦らず着替えてきて大丈夫だ」
「ありがと。すぐ準備するから」
リツカは部屋に入ると急いで私服に着替え、寒さ対策用に厚手のジャケットを着込んでカルナの元へ向かった。
*
バイクを走らせて一時間は経った。
目的地は山の方面らしく、町からどんどん遠ざかり街灯がまだらに点在している道を走って行く。
「…………」
「…………」
更に一時間経った。
目的地に向かう途中で車とバイクに会うこともなく、山道を進んで行く。街灯の数も減ってきており、闇が広がっている。
「……着いたぞ」
カルナが呟く。
バイクは小さな駐車場らしき場所に停まった。
「……ありがと。わぁ……町が綺麗……!」
バイクから降りたリツカは驚きの声を上げた。
二人の周囲に人工物がないため、遠くにある町の明かりが光り輝くように見える。
「リツカ、空も見てみろ」
カルナが空を見上げながら言った。
「………………すごい」
リツカは小さな声で呟いた。
自分が住んでいる場所で見る星空とは違い、多数の星が肉眼で見える程夜空に輝いていた。
「……星の海みたい」
「……あぁ。どこまで泳げるか試してみたいものだ」
「ふふっ。カルナらしいね」
「む。リツカも泳いでみたいと思わないか?」
「うーん……あんまし泳げないから歩いて行きたいかな」
「そうか……泳げなくても歩くことなら可能か……」
「カルナ? どうしたの?」
「……いや、すまない。考えごとをしていた。ところで、リツカ。最近はどうだ?」
「最近? ……そうだなぁ、仕事は特に問題なく終わったし……カルナは?」
「オレは帰る家が欲しいと思っている」
「ん? 今なんて言った?」
「転勤が決まってな……帰る家にリツカがいると心強いのだ」
「ん? ん? カルナ、どういうこと?」
「ん? 言わなかったか? 転勤が決まったんだ。年明けに新居へ引越しする」
「えぇっ!? 初耳だよ!」
「なにっ。 ……そうか。転勤と言われ動揺し、リツカに言い忘れてしまったのか……そうか、そうか。なら改めて言おう。リツカ、オレと一緒に住まないか?」
カルナはリツカの手を握りながら告げた。
「えぇっ!? 一緒に住む……って、えっと……それって付き合うってことだよね?」
「ん? オレたちは付き合っていないのか?」
カルナは首を傾げた。
「へっ?」
「ん? 違うのか? 今、オレとリツカは遠距離恋愛……という状態だと思っていたが……違うのか?」
「ち、ちが…………うじゃない。わたしだって……カルナのこと……す、好きだし……」
顔を真っ赤にしながらリツカは答えた。
「! そうか。すまない……オレが一方的に話を進めていたようだ。…………リツカ」
「な、なに?」
「好きだ。お前を生涯愛し護ることをこの星に誓う」
カルナは握っていたリツカの手をほどき、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
(! も、もう……ホントにカルナは自分に正直なんだから……!)
「うん……! わたしもカルナが好き……!」
顔を上げると頬が紅潮したカルナと目が合った。
「来年も良い年にしよう」
カルナが笑みを浮かべ、リツカも笑顔で頷く。
声を出さずとも二人は互いの唇を重ねた。
二人を見守る星空にたくさんの流れ星が落ちた(良いお年を)