ここだけの話「それで、相談って?」
アバンは茶を差し出してたずねた。マトリフは神妙な顔をしたまま、あたりを視線だけで見やる。アバンは向かいに腰を下ろしながら、安心させるように言った。
「大丈夫ですよ。ハドラーなら夕方まで帰ってきませんから」
マトリフは口を曲げたまま小さく頷いた。その様子はいつもの飄々としたマトリフではない。マトリフは突然にアバンを訪ねてきたと思ったら、真剣で重苦しい雰囲気で「ちょっと相談に乗ってくれねぇか」と言ったのだ。
マトリフの相談なら珍しくない。ガンガディアを伴侶としたマトリフと、ハドラーを選んだアバンは境遇が似ているために、お互いによく相談し合っていた。
だがマトリフの話といえば相談というよりも惚気話だった。マトリフはいつもガンガディアとの生活における些細な出来事をアバンに愚痴りに来るのだが、聞いているアバンからすれば他愛のない惚気なのだった。
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