この学校に来て3度目の春「谷地さん、」
-仁花ちゃん、どうしたのー
「」
「どうかした」
「いえ、はい。」
一度だけ、清水先輩の声が聞こえた。その声を求めて振り返ったってきっとそこには清水先輩はいないのに。
不思議そうに首を傾げている目の前の山口君だって今では立派な主将になっている。
「…3年生になったんだなって。」
清水先輩の声が聞こえた、とは言わなかった。
言っちゃいけないと思ったから。
泣いても笑っても、私たちに残された時間はもうすぐそこまで終わりが近づいている。
「確かに、あっという間だったよね。」
山口くんはそう言って笑みを浮かべる。
「今までは先輩方がすぐ傍にいてくれたので、いざ自分が最高学年だという自覚が…」
「うん、少しわかる。心許ないよね」
「あの田中さんたちがすんなり卒業していくなんて思わなかったし。」
「ツッキー、失礼だよ。」
二人で会話をしていると、通りかかった月島くんが会話に加わる。
ーやっちゃん、大丈夫ー
ーやーっちゃんっー
ー仁花ちゃんー
ーおいこら、影山日向、やっちゃん困ってるだろーがっー
2人の会話はもちろん耳に入っていた。
でも、目を閉じると優しい先輩たちの声がどうしても頭の中をよぎる。
「谷地さん」
「…なんで、泣いてるのさ。」
「ごめんね、やっぱりちょっと不安、なのかな…。」
目を丸くした2人がこっちを見てくる。
恥ずかしいし、あまりにも失礼すぎる自分の行動に涙腺に腹が立つ。
「……やっちゃん。」
「ツッキー」
「別に、泣いたっていいんじゃない……谷地さんが泣いてたって支えられないバレー部じゃないでしょ。」
「そうだね、ツッキー。俺も安心してマネージャー業に専念してもらえるよう日々精進します。やややややっちゃん。」
「山口、うるさい。」
「ごめん、ツッキー。」
「ははっ。」
それでも月島くんは気にする素振りもなく、ただ先輩たちが呼んでくれていた愛称で私の名前を呼び山口くんと一緒に優しい言葉をかけてくれた。
「この場に、日向がいなくてよかったね。いたらきっと大騒ぎ「山口、呼ん………あああっ谷地さん大丈夫月島になんか言われた」「うるさ。言ってないし、ね、やっちゃん。」ツッキー、煽らな「はぁぁあああっなんで月島が谷地さんのことやっちゃんって呼んでんの」日向落ち着いて。」
「山口は呼んでないよな」
「………………呼んだ。」
「やややややや谷地さんって。」
「ツッキー」
拝啓、お世話になった先輩方。
春の風が桜の花びらを運んでくる季節をこの校舎で迎えるのも遂に3年目になりました。
私は、というと先輩方の声が聞こえない体育館に寂しさを覚えたりもしましたが、彼らと同学年で良かったと心から思う日々を過ごしております。