化粧によって一層整った顔。ふわりと広がるドレスの裾。三面鏡に映るマスターは今、日常的に戦闘に出ている士官学生とは思えない程遠いおとぎ話の美しい姫のような儚さを纏っていた。
「綺麗っす。マスター」
鏡に映るマスターの後ろで立っている自分は果たして上手く取り繕えているだろうか。何とか出せた声は確かに本心なのに、本当に言いたいことは喉の底につっかえて上手く出てこない。
ほんとう?とマスターが柔らかく微笑むのを見て黒くなりきれない感情が心の中をぐるぐると回り始める。これでも表情を引き締めているつもりなのだろうが、隠しきれていない彼女の嬉しそうな顔の起因は実の所自分では無いことがこんなに恐ろしく、焦燥に駆られるとは思いもしなかった。
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