【飯P】夢にうつつに君が手の這う 神殿の窓には、鍵がかからない。本来、そう簡単に人が訪れる場所ではないためだ。
それをいいことに、夜更けに悟飯が訪れ、ピッコロの部屋へ……寝台へ忍び込むことは、ままあった。
「……何をしている?」
「眠れなくて……隣で眠らせて下さい。隣に誰かいると、よく眠れるので」
寄り添って眠るだけ……それなら、ピッコロも目を潰れる。
しかし悟飯は布団に潜り込むたび、執拗に身体に触れてくる。じれったいほど弱く、手のひらが腹から背へ。あばらを丁寧に辿り、胸を這い上がる。指先で鎖骨をなぞり、首筋の薄い膚に熱を灯しながら行き来する。
腰骨の頂点から太腿へ滑り、膝までゆっくり撫で下ろされる。脚の内側を丁寧に辿り、また腰の高さまで戻る。
服地越しに伝わる、手のひらの温度に、ピッコロはいつも閉口した。
一通り身体を確かめると、悟飯は満足したとでもいうように眠る。反してピッコロは、奇妙にざわつく心を持てあまし、眠りは遠のいた。
寝台へ入りたければ大人しく眠れと、釘を刺したことがある。しかし「ピッコロさんがいるって実感すると、安眠できるんです」等と甘えられては、あまり無下にもできない。
今夜もそうだった。
さんざ肌を辿った末、満ち足りた様子でシーツを引き上げた悟飯を横目に、ピッコロは天井を睨み付けていた。
――こいつは安眠できるかもしれんが、お陰でこっちは目が覚めてしまう。
「……ピッコロさん」
「なんだ」
寝返りを打った悟飯が、少しも眠気の見えない目で言った。
「もう少し、触りたいな……」
ピッコロの返事を待つことなく、青年の手が伸ばされる。
服の裾から忍び込んだ手のひらは、予想以上に熱い。その熱が、直接肌を滑る。触れるか触れないかの強さの、むず痒いような撫で方。
いつしか、ピッコロの片手が悟飯の肩を掴んでしまっている。知らず息が浅くなり、腰の底に疼きが生じ、指先まで甘やかな痺れが広がる……。
そこで、はっと目が覚めた。
寝台に上体だけ起こしている悟飯と、目が合う。
「どうしました?」
「……夢を……いや……なんでもない」
ため息をつくと、ピッコロの身体から力が抜けた。シーツを引き上げようと手を出すと、勝ち気に微笑した青年が身体を倒し、指と指とを絡めてくる。
「……こういう夢、見たんでしょう」
頬に手を添えられ、唇を塞がれる。
驚きこそしたが、慈しむような体温は心地よく、抗う気になれなかった。唇をやわらかく食まれ、吐息が静かに混ざり合う。
舌から熱が伝わり、背筋が粟立つ。長い口付けに意識を溶かされ、自然と腕が、悟飯の背へ回っていた。
かすかに身体を起こした青年が、鼻先の触れるほどの距離から見下ろしてくる。いつしか悟飯の手が服の裾から差し入れられ、肌に触れていた。夢と同じように熱く、じれったく、執拗に。
「夢では、どこまで許してくれたの?」
「……」
手のひらが身体を撫で、唇が首筋に落ちてくる。薄い膚を静かに這い下り、鎖骨に歯を立てられる。甘い痛みに、ピッコロの抗議は喉の奥で絡む。
途端、目が覚めた。
灯したままの燭台が、灯影を揺らめかせている。窓の外には星空が広がり、晩春の優しい夜風が吹き込んでくる。
身体を起こそうとするも、悟飯にしっかりと腰を抱かれていた。こんなに密着して来るから、妙な夢など見る。腹立たしくなり、ピッコロは青年を引き剥がそうとした。
そして気付いた。悟飯の手が、夢と同じように、服の裾から差し入れられていることに……思わず自らの鎖骨に触れると、うっすらと、歯形があった。
「……悟飯」
眠っているかと思われた青年が、静かに顔を上げる。悪戯っぽく目を細め、勝ち気な微笑がゆっくりと浮かぶ。
「夢で見たのと、同じだな……」
「そう……まだ夢の中ですよ。夢だから、抗わなくていいでしょう?」
身体を引き寄せられ、唇が再び鎖骨に触れてくる。静かに立てられた歯から染み入る疼きに、悟飯を引き剥がそうとしていた腕の力が抜けた。