ジェオ誕とは全く関係ない片思いイーくんのお話飲めない酒を猫のようにチロと舐めただけですっかり出来上がった友人を前に、イーグル・ビジョンは辟易としていた。
手元のグラスはぬるい。
オートザム産の―だいぶグレードの低い―酒を口に含む。上等なボトルをヤケ酒のために開けてやるには惜しい。
ジェオがため息をつく度に苛立ちは募るが、お開きにしましょうとは言いださずイーグルはただ彼の愚痴を聞いていた。
「今度こそうまくいくと思ったんだけどなあ」
ジェオがこぼす。
逞しい腕をクッションにし、机につっぷしたままジェオは重く顔を上げた。イーグルの顔を覗き「何がいけないのかねえ」と次いで零した。
ジェオのため息がテーブルの上に鈍く白い円をつくる。
「教えてくれよモテ男様」ジェオがそう続けると、イーグルは自分の苛立ちがじわりと濃くなるのを感じた。
「いけないってことはないと思いますけど」
発した後でその口調の淡白さに自分でも驚く。本音ではあるのだが、あまり心をこめられなかったのだ。
それでジェオが機嫌を損ねるということはないが、イーグルは自分の態度にちょっとした罪悪感を覚え、それを取り繕うように「お相手はなんと?」と、聞きたくもない問いを投げた。
「いつものあれだよ」
ジェオはテーブルから体を起こし、指を親指から一本ずつ曲げて言った。
「もっと他にいい人がいる、甘やかされて自分がだめになりそう、自分より料理がうまいのはへこむ、でかすぎる…あ! 変な意味じゃねえよ! 身長が、な! 目を合わせるのに首が疲れて大変らしい」
交際相手から告げられた別れ言葉を呪いのように吐き出し、4本の指が折りたたまれた後、ジェオは「なんなんだよ」と酒を舐めた。
「だから僕はやめておいたほうがいいって言ったんですよ」
「は? んたこた言ってねえだろ」
「言いました」
「言ってねえって! あの時お前『お似合いだと思いますよニコッ』て笑って言ってたじゃねえか」
笑みの擬音を口にした時、ジェオがイーグルの表情を不自然に真似たので、イーグルは小さく吹き出した。
「ジェオには僕の顔がそんなふうに見えてるですか」
相好を崩したイーグルに、ジェオもつられる。
ジェオは笑いながら「そういうこった。お前が言ったことはよっく覚えてるよ」と言った。
イーグルは、覚悟を決めたように残った酒を一気に飲み干し、グラスの底をテーブルに押し付けた。
立ち上がり、ジェオを見下ろす。
「あんな嘘を信じるなんて、あなたもまだまだですね」
「嘘!? お前嘘ついてたのか! なんで!? 意味がわかんねえ」
目を見張りイーグルを見る。イーグルは、右手の小指を立てていた。その不思議な仕草をジェオはいぶかしんだ。
「僕なら」
イーグルが小指の隣の指を立てて言った。
one
「それなりに身長はあるので目を合わせるのに苦労はしません」
two
「ジェオが作るものならなんだっておいしく頂きます」
three
「甘やかされている自覚はありますがそれでこの通り」
言いながらイーグルは両腕を広げて、自分の姿を、風格をわざと大きく見せるような動作を取った。
「自分のことはそれなりに律しながら生きているつもりですし」
four
「それに、僕には」
腕を下ろす。折りたたまれた最後の指を前にイーグルは躊躇い、そして結局拳を握りしめ、言葉を飲みこんだ。
「後片付け、お願いしますね」
そう言い残し、イーグルは部屋を出た。
扉が閉まる寸前、廊下からこちらを見たイーグルと、もう一度目が合う。
イーグルの口がパクッと動いたのを、ジェオはたしかに見た。
読唇術にはそこそこの覚えがあるがイーグルが何を言ったかはわからなかった。
いや。わかるにはわかったのだが、その言葉があまりに彼らしくなかったので確信が持てなかった。
「バーカ」
そんな言葉をまさかイーグルが言うわけもあるまいし。
end
遅くなりましたがジェオ誕(仮)おめでとうございました。
イー君の片思いとか初めて書いたかも。
た、た…楽しい…!