Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 👏 💚 🎉 💯
    POIPOI 71

    summeralley

    ☆quiet follow

    どうにか10話くらいで終わらせたい……屍姦は書きませんでした、やはり。

    #腐女子向け
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #ネイP
    nayP

    【ネイP】解剖台で夢を見た/02.アクリル越しの視線 この研究所で正式な「宿直」が廃止されてから、五年ほど経つ。
     研究室の真下にある、地下の仮眠室。ネイルだけが鍵を持ち、時おり利用していた。研究熱心なあまり、誰よりも帰宅が遅くなることが多い。今夜も、ネイルのいる部屋にのみ煌々と明かりが灯っている。
     石室の標本は、死んではいない。
     そう感じるたび、ネイルは「死んでいる」証拠がいくつもあると、論理で直感を抑えようとしていた。目の前に横たわるのは、「誰か」ではなく「何か」なのだと。
     その晩、予定していた検査を終えたネイルは、検査機器と記録用の端末を止めて、解剖台の上のN037を見つめた。検査機器の唸りが止むと、検査室はかすかな空調の震えだけを残して静まり返る。
     記録には残さなかったが、ここ数日、検査中の指先に「脈打つような感覚」を覚えることがある。錯覚なのか、自身の動悸によるものなのか、あるいは……。
     本来なら、決して行うべきことではなかった。そもそも、医療従事者でなくとも、強い抵抗を覚える行為のはずだ。そこにあるのが、死因も分からない見知らぬ遺骸であることを、疑っていなければ。
     ネイルは迷わず、横たわる遺骸の胸元に……心臓の位置に、耳を寄せた。消毒液の匂いの、なめらかだが体温のない肌。指を立てればやわらかく沈み、その内の骨格をはっきりと辿ることができる。自らが刃を入れた縫合跡が目の前にあり、ひそやかな記念のようだった。
     呼吸の音すら邪魔で、息を止めた。目を閉じ、聴覚だけに集中する。
     ……拍動も、筋繊維の擦れる音も、一切感ぜられなかった。
     なのに、皮膚の内側に、微弱な圧力があるように思われてならない。確かにそこに、生命の営みと称されるべきものが、存在しているような……。さりとて、それを証拠付けるものは何もない。ほんの僅かな、血の巡りの音さえも。
     ――やはり、これはただの遺骸だ。さんざん検査して、分かっていたことではないか。
     ネイルはゆっくりと顔を上げ、遺骸の胸元を消毒液で丁寧に拭った。では、あらゆる項目の検査をしているのに目立った異常はなく、それでいて腐敗の兆候すら見られないのは何故なのか……。
     どっと疲れが押し寄せ、その日は帰宅を諦め、薄暗い地下の仮眠室で夜を明かした。頭上に眠る石室の標本と、せめて夢で声を交わせるよう祈りながら。
     
     徐々に、ネイルは仮眠室に泊まり込むことが増えていった。初回の解剖より後は、一人で検査に臨んでいる。もともと誰より早く出勤し、誰より遅く帰るネイルが、たびたび職場で夜を明かしていることに、気付く者はなかった。
     仕事は、石室の標本に関することだけではない。解剖医としての通常の仕事……身元不明遺体や特殊死の解剖と調査、死因の特定。医学的所見の記録と、報告書の作成。
     日に三度の温度確認のたび、ネイルは必ず観察窓の蓋を開く。開くだけでなく、部屋に他の者がなければ、物言わぬ遺骸に話しかけるのが、彼の習慣になっていた。
     本来なら、研究対象物として無機的に扱うべき遺骸だ。しかしもはや「標本」とは、思えなくなっていた。
     解剖台の上で触れる時でさえ、検査とは無関係のことばかりが脳裏を過る。
     ――お前はこんな風に、誰かの手に長く触れられたことがあるのか?
     ――石室の中で朽ちていた服を、お前が目にしたら悲しむだろうか……。
     閉じた瞼が開くことはなく、黒真珠を削ったような爪が伸びることもない。口を開けさせ、すみれ色の口腔を観察することは出来るものの、唾液の分泌はない。澄んだ眼球に瞳孔反射はみられないのに、その奥から誰かがこちらを見つめ返しているような気がする。
     今夜も、随分と遅くなった。とはいえ、帰ろうと思えば帰れない時間ではない。ただ、「遅くなった」という理由がほしかった。地下の仮眠室へ泊まり込むための、言い訳として。
     遺骸の存在を頭上に感じると、不思議と安らいで眠れた。
     ケースの温度確認をして、ネイルは観察窓の蓋を開ける。澄んだ新芽色の膚を、研究室の青白い照明が照らしている……整った鼻梁の陰影が頬に落ち、精緻な彫刻のようだ。
     この頬が微笑に持ち上がれば、どんな風だっただろうか。
     今は軽く曲がっている指は、親しい相手の手を、どのように掴んだのだろう。
     「生きているお前に……会ってみたかった……」
     思わず言葉が零れた、その時だった。
     遺骸の瞼が、かすかに震えた。
     見間違いかと目をこらしたネイルの目前で、長く閉ざされていた瞼が、ゆっくりと開いた。
     強化アクリル越しに、はじめてまなざしが交わる。
     驚愕より先に、やはり生きていた、という喜びの感情がネイルの裡に去来した。そして次には、何百年も腐敗しなかった遺骸が蘇ったとすれば、検体としてどのような扱いを受けるのかという恐怖……。
     ほとんど衝動的にケースを開き、目を覚ました同族に語りかける。
     「ここにいては駄目だ、私の家へ……」
    「……」
    「立てないのか?」
     頷くことも、言葉を発することもなく、石室の標本だった者は、ただ目線で答えた。あまりにも長い時間、仮死のような状態にあり、声帯も身体も上手く動かせないのだ。しかし、回復するまでこのケースの中では、明日にも誰かに見咎められるかもしれない。
     身体を抱き上げるのは、ネイルにとってそう難しくはなかった。
     とはいえ、研究棟を出るには警備室の前を通る必要がある。誰かを抱えて横切れば、警備員たちは騒ぎ立て、救急車を呼ぼうとするだろう。そうでなくとも、研究所の担当者へ提出する報告書に書かれたりしては……今の状態で外へ出るのは、リスクが大きすぎる。
     ネイルの足は、自然と地下の仮眠室へ向かっていた。
     階段を一歩降りるごとに、研究所での地位、解剖医としてのキャリアが遠ざかっていくのが分かる。
     しかし、腕の中の体温と、あれほど渇望したまなざしに比べれば、地位もキャリアも、さして価値あるものに思えなかった。


     仮眠室のベッドへ寝かせ、ネイルはシーツを引き上げた。まだ血の巡りが悪いのか、体温が安定していない。自分の上着と、脱いだ白衣もその上に掛ける。
     真っ暗な廊下を抜けて、給湯室で水を注ぐ時、自分の手が震えていることに気付いた。恐怖からではなく、単純な精神の昂りだった。
     仮眠室へ戻ると、横たわった同族は眠るでもなく、じっと天井を見つめていた。暖色の照明だけが、両の瞳に宿っている。体温を測り、脈を確認し、呼吸が穏やかなことを見届ける。
     されるがままの身体に、動かそうとしているのか、時に力の入るような反応がみられた。生きている、確かに。
     「水は飲めそうか?」
     小さな書き物机から椅子を引いて、ネイルはベッドの枕元へ寄り添う。スプーンでほんの少しだけ水を掬い、唇へ含ませる。仰臥のまま向けられた目線が、お前は誰だ、と言っていた。
     「ネイルだ。お前の担当医で……味方だ」
     何度検査しても決して動かなかった瞳と、今はしっかりと、視線が合っている。呼吸のたびに上下する胸に、角のない肩。ほんの少しだけ見える、濡れてひかる犬歯。もう一口分の水をスプーンに掬って差し出せば、薄く口が開き、やわらかく湿ったすみれ色の舌が覗く。
     「色々と尋ねるのは、後にしよう。まずは体力が戻るまで……。誰が味方で、誰が敵か分からないが、私は毎日、必ず来る」
     言葉なきまなざしだけが是をあらわし、ひとつ深く息を吐いたかと思えば、開いていた瞼が閉じられた。標本ケースの中にある時と同じ面差しだったが、今は喉の薄い皮膚が動く。シーツの下の身体が、わずかに身じろぐ。
     ネイルはシーツに手を差し入れ、呼吸のたび上下する胸に触れた。拍動と体温が伝わり、それが生きていることを知らせる……既に確信しているはずなのに、瞑目した横顔を見つめていると、手を伸ばさずにはいられなかった。医師として、研究者としての確認ではなく、もっと原始的な、欲求だった。
     照明を落とし、常夜灯だけを残す。その日ネイルは、横になる気になれなかった。ベッドの傍らの椅子でうつらうつらとしては、目覚めるたびに横たわる身体の脈と呼吸を確かめる。それを何度も繰り返す内に、夜が明けた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💚💜💙🙏✨💚🙏🙏💚💚💚
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    summeralley

    DONE急いで進めてるけど12話くらいにはなってしまいそう……少し先でベッドシーンで丸々一話使ったせいで……。
    ネイPのP、ちょっと子どもっぽく書いてしまう。
    【ネイP】解剖台で夢を見た/04.聴診器の語るもの ネイルは殆ど、家へ帰らなくなっていた。職員がみな帰るのを待ってから仮眠室へ下りるので、それから帰宅となるとどうしても遅くなる。
     元々、仮眠室へ寝泊まりすることはそう珍しくなかった。同じフロアに、簡易的なシャワールームもある。食事は水で事足りる。コインランドリーは研究所の道向かいだ。
     ――家へ帰ったところで、仮眠室の様子が気になって眠れず、警備員が驚くような早朝に出勤することになる。
     自らが切り刻んだ研究対象への執着なのか、単純な個への執着なのかは、判然としなかった。それでも、寝袋を持ち込んで寝泊まりするようになるのは、ネイルにとって自然な選択だった。
     その日ネイルは、どこか浮き足立っていた。
     石室の標本に関する嘘の報告書は問題なく受理され、更に詳しく検査を進めるようにとの文言を添えた、検査項目のリストだけが戻ってきた。それも、時間がかかることを誰もが理解できる検査項目ばかりで、当分の時間は稼げそうに思われる。
    3016

    summeralley

    DONE10話くらいで終わりたいとか言ってたのに、少し先の話に性的なシーンを入れたので予定が狂って10話で終わるの無理になりました。ネイP次いつ書くか分かんないし、どうせならって……。
    【ネイP】解剖台で夢を見た/03.新しいラベル 「石室の標本について、何か分かったか?」
    「報告書の通り、特段変わったことはありません……何しろ前例がないので、手探りで。慎重に進めています」
     ムーリは頷き、引き続き任せる、と研究室を出て行く。ケースの観察窓を覗かれなかったことに、ネイルは胸を撫で下ろした。研究者としては、それが正しい振る舞いだ。以前ネイルがそうせずにいられなかった、無闇に観察窓の蓋を開ける行為は、暗闇で保管されていた検体にどのような影響を与えるか分からない。
     ネイルの返答は、完全な嘘ではなかった。このような現象に、前例があるはずもない。腐敗せず、硬直もしない遺骸など……ただし「変わったことはない」という部分は、真っ赤な嘘だ。
     石室の標本はもう、標本ではない。さりとて、それを報告できようか? おそらく、上層部の判断で、もっと大きな研究所へ送られることになるだろう。戸籍もない古い時代のナメックが、「呼吸する標本」……良くて「実験動物」として扱われることなど、目に見えていた。
    3184

    related works

    recommended works