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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    10話くらいで終わりたいとか言ってたのに、少し先の話に性的なシーンを入れたので予定が狂って10話で終わるの無理になりました。ネイP次いつ書くか分かんないし、どうせならって……。

    #ネイP
    nayP
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl

    【ネイP】解剖台で夢を見た/03.新しいラベル 「石室の標本について、何か分かったか?」
    「報告書の通り、特段変わったことはありません……何しろ前例がないので、手探りで。慎重に進めています」
     ムーリは頷き、引き続き任せる、と研究室を出て行く。ケースの観察窓を覗かれなかったことに、ネイルは胸を撫で下ろした。研究者としては、それが正しい振る舞いだ。以前ネイルがそうせずにいられなかった、無闇に観察窓の蓋を開ける行為は、暗闇で保管されていた検体にどのような影響を与えるか分からない。
     ネイルの返答は、完全な嘘ではなかった。このような現象に、前例があるはずもない。腐敗せず、硬直もしない遺骸など……ただし「変わったことはない」という部分は、真っ赤な嘘だ。
     石室の標本はもう、標本ではない。さりとて、それを報告できようか? おそらく、上層部の判断で、もっと大きな研究所へ送られることになるだろう。戸籍もない古い時代のナメックが、「呼吸する標本」……良くて「実験動物」として扱われることなど、目に見えていた。
     標本だった者が目を覚まして、三日経った。まだ話せず、立ち上がることもできない。なんせ、少なくとも七百年間、石室の中だったのだ。とはいえ、はじめはスプーンで一口ずつ飲ませた水も、背中に手を添えて助け起こし、コップから飲むことができるようになった。嚥下の力が弱く、赤子のように少量ずつではあるが。
     ベッドの端に腰掛けて、ネイルは眠っているらしき面差しを見つめる。こうして瞑目していると、標本ケースの中にいた時とまるで変わらない。ただ、今では二人の間は強化アクリルに遮られておらず、手を伸ばしさえすれば、滑らかな頬に直接触れることができる。
     「……今日は遅くなったな、悪かった」
     囁く声に応えるように、閉じられていた瞼がゆっくりと開く。仮眠室のほの明るい照明が、寝そべったままの膚を妖しく滑り、寝起きの涙に潤んだ双眸に、別の意味を与えてしまいそうになる。横たわったまま首が傾けられ、こちらを見つめる瞳の焦点が合っていくのを、ネイルはじっと見守った。
     「水は?」
    「……」
     ネイルは水の入ったコップを差し出す。寝そべった同族は暫くそれを見て、首をほんの少し横に振った。飲めないのではなく、要らないのだ。きちんと意思の疎通が出来る。間違いなく、生きている。
     「少しは頭がはっきりしてきたか? 私はネイル、ここはお前を匿っている部屋。今は、エイジ……」
     話しながら、ベッドと向かいの壁際にある机にコップを置いた、その時だった。
     「……ネイル」
     囁きよりもかすかな、吐息のような声。思わず振り返ると、ベッドの上から、まっすぐなまなざしがこちらを見ている。標本ケースの中では引き結ばれていた唇が、震えるほどゆっくりと開く。
     「ネイル」
     名前を、呼ばれた。
     今度はさっきよりも、厚みのある声として。
     この仮眠室に運んでから……いや、石室から運び出されてからはじめての、意味を持った「言葉」だった。漸くのことで、声を出すということを、言語により他人に何かを伝えるという行為を、取り戻しはじめたのだ。まだ途切れがちで、掠れた声ではあるが……。
     ネイルはこみあげるものを呑みこみ、ベッド脇の椅子に静かに腰掛けた。
     「……そう、ネイルだ。ここにいる。お前が眠るまで」
     応えるように、シーツの上に置かれた手がわずかに持ち上がった。ネイルがすぐそばに手を差し出すと、指先がそっと触れる。握るというにはあまりに弱い力だが、体温が感じられた。
     「なぜ石室にいたのか、いずれ訊けると良いんだがな……どこから来たのか……それに、お前の名前も……」
    「……」
    「なんだって?」
     ネイルは目を見開き、わずかに開いている口元に耳を寄せる。頬をくすぐる吐息に紛れて、かすかに、ピッコロ、と聞こえた。
     「そうか……違う世界……。よかった、これで標本と呼ばずに済む。ありがとう」
     触れていた指先をネイルが握ると、ピッコロはほんの少し、目元を和らげた。たぶん、笑ったのだろう。回復の兆しは慎重に、だが確実に、現れていた。


     数日が経ち、ピッコロは壁に凭れて座ることができるようになっていた。
     「寒くないか?」
    「寒くない」
    「なぜ石室にいたのか……自分が何者か、思い出したか?」
    「思い出せない」
     会話は終始、こんな調子だ。それでも、長い時間座っていられるようになったし、水も、コップ一杯を自分で飲めるようになった。
     ネイルは毎晩、他の職員が皆いなくなってから仮眠室へ下りる。初めの頃、ピッコロは大抵、眠っていたが、段々と目が覚めていることも多くなってきた。のみならず、自ら身体を起こして、壁に背中を預けていることもある。
     ピッコロが起きていれば、まず水を飲ませる。それから体温と脈を確かめ、濡らして絞ったやわらかいタオルで清拭を施す。首筋から鎖骨を辿り、胸元から脇腹へ。肩から二の腕、手首から指先へ。解剖台でも美しく感じた身体だったが、こうして触れていると、なお目が離せなくなる。
     ピッコロはされるがままで、何も言いこそしなかったが、全身がわずかに緊張しているのが分かった。この感覚の繊細さは、龍族の典型だが……闘いに最適化された骨格や筋繊維は、戦士型の理想系だ。とはいえ、下半身の構造という決定的な違いから、「闘える龍族」と分類するしかない。
     ネイルは黙したまま、鎖骨の下へと濡れたタオルを滑らせる。しっとりと湿る肌は、冷たいというわけではない。内に熱を宿しながら、体温の「仕組み」自体が異なるように感ぜられる。
     「ネイル」
    唐突に、手首をそっと掴まれた。
     「なんだ? まだ終わっていない」
    「でも……くすぐったい」
     掠れるような声で訴えられ、ネイルは答えに詰まった。抗議というより、甘えのような物言いだ。
     「……もう終わる、我慢してくれ」
     ネイルは一瞬だけ手を止めたが、表情は変えなかった。淡々と腹部に手を添えると、皮膚のすぐ下で、呼吸にあわせて内臓が微かに動く。鼓動ともわずかに異なる律動。くすぐったいと訴えた身体が、かすかに身じろぐ。
     解剖台の上でいくらも触れて、内部まであらためたのに、反応があるということがここまで心乱すことなのか……眠っていた頃は、ただ〝観察する〟身体だった。けれど今、肌がわずかに震え、息が跳ねるたび〝触れてしまった〟という実感が湧く。まるで、自分が何か不適切なことをしているような……足元が確かでなくなるような気持だ。
     最後に心音を確かめると、やっとのことで「今日も生きている」と安心できる。しかし今日は自らの心音こそ喧しくて、正しく聞き取れないような心地だった。
     ある時、ネイルは何冊かの本を仮眠室へ持ち込んだ。植物や動物の図鑑、画集に、風景や建築の写真集……ベッドで取り出して見せると、ピッコロは目だけで表紙を辿り、最後にネイルの顔を見た。
     「昼間、ここは退屈だろう? 息をするってことが、生きるってことじゃない」
     一番上にあった写真集を捲りながら、ピッコロは肩を竦めた。
     「ありがたいが……字も読める」
    「ああ……そうか。尋ねておけばよかったな。じゃあこの本たちに飽きたら、難解な哲学書でも買って来るよ」
     冗談めかして答えながら、ネイルは舌を巻いていた。見せられた数冊の本から、ネイルが何を意図し、これらの本を選んだのか、即座に理解した。七百年の眠りから覚めたばかりで朦朧とした部分があったものの、本来は聡明なのだ。
     ピッコロの選んだ植物図鑑と、画集だけを枕元に残し、ネイルは残りの本をいちど机に移す。
     「ネイル」
     振り向くと、ピッコロは壁に背を預けたまま、図鑑の表紙を軽く手で撫でた。
     「ありがとう」
    「……どういたしまして」
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    summeralley

    DONE10話くらいで終わりたいとか言ってたのに、少し先の話に性的なシーンを入れたので予定が狂って10話で終わるの無理になりました。ネイP次いつ書くか分かんないし、どうせならって……。
    【ネイP】解剖台で夢を見た/03.新しいラベル 「石室の標本について、何か分かったか?」
    「報告書の通り、特段変わったことはありません……何しろ前例がないので、手探りで。慎重に進めています」
     ムーリは頷き、引き続き任せる、と研究室を出て行く。ケースの観察窓を覗かれなかったことに、ネイルは胸を撫で下ろした。研究者としては、それが正しい振る舞いだ。以前ネイルがそうせずにいられなかった、無闇に観察窓の蓋を開ける行為は、暗闇で保管されていた検体にどのような影響を与えるか分からない。
     ネイルの返答は、完全な嘘ではなかった。このような現象に、前例があるはずもない。腐敗せず、硬直もしない遺骸など……ただし「変わったことはない」という部分は、真っ赤な嘘だ。
     石室の標本はもう、標本ではない。さりとて、それを報告できようか? おそらく、上層部の判断で、もっと大きな研究所へ送られることになるだろう。戸籍もない古い時代のナメックが、「呼吸する標本」……良くて「実験動物」として扱われることなど、目に見えていた。
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