甘く、舐める ころろ、と何か硬い物同士が当たる音がする。何の音かと音のする方を探れば、どうやら隣を歩いている坤の薬売りが口内で飴を転がす音らしい。どうやら飴はそれなりの大きさをしているようで、坤の片頬をまぁるく膨らませている。
確かに、何やら懐をゴソゴソと漁っているな、とは思っていたがまさか飴を取り出していたとは。
二人がこのように連れ立って歩いているのは、次なるモノノ怪退治の場へ赴く為であった。とはいえ同じモノノ怪を斬りに行く訳では無いので、こうして隣を歩くのも現し世へ降り立つまでの残り僅かな時間の話。
離の薬売りが十翼の館から出立しようとした際、運良く坤の薬売りも次の仕事へ向かう所だったようだったので。それならば『そこまで』とどちらともなく隣へ並び立ったのだ。
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