水飴の声音 言い訳にもならないが、魔が差した、というやつだった。
少しだけ。ほんの気持ち程度。どうしても気がかりで。
坤の薬売りは、もの凄く限定的な形で『心の声が聞こえる』ようになる術を使っていた。仕事においては使うべきでない代物なので、使えはしても使う機会など滅多にない術だった。なにせ理という奴は厄介で、語って聞かせて初めて示されるものであるので。一方的に暴き立てた所で、なんの意味も為さないのだ。
ではなぜ坤の薬売りがそのような術を使っているのかというと、それは簡単な話。仕事とは全く関係の無い、私的な都合という奴であった。
ただ一人の男として、好いた相手の胸の内を知りたいなどという。何とも身勝手で、恋の熱にやられたヒトの愚かさの成せる業であった。最も、普通の人間であればそのような術など使えやしないだろうが。
3121