長義と長谷部と悪役令嬢モノ「随分と熱心に、何を読んでいるんだ?長義」
「ああ、悪役令嬢モノの小説をね」
「…意外なジャンルを読むんだな」
「挿絵のヒロイン、勝気な目元に前髪を真ん中で分けていて、その髪がちょっと目元にかかるところとか、髪や瞳の色とか…少し長谷部に似ているなと思って」
「王太子の右腕的な奴じゃなくてヒロインなのか」
「このヒロインには前世社畜のサラリーマンだった記憶があってね」
「社畜のサラリーマン」
「ああ、若くして過労死からの転生だ」
「世知辛いな」
「性根に染み付いたワーカホリック具合が長谷部を連想させるものがあって、そこも味わい深いというか…」
「…。前世社畜のサラリーマンがヒロインで成り立つのか、その物語は」
「ああ、この経験を活かして宮中の些細な業務改善から始まり、やがて腐敗した貴族の弾劾へと繋がっていくんだ。そしてそのヒロインの相手役が銀髪青目の王太子」
「銀髪青目」
「正直自分だと思って読んでいる。有能で申し分ないし」
「そうか」
「最初はサラリーマンの記憶がある長谷部がなかなか受け入れてくれないが、王太子の俺も大層諦めが悪くてね。何度も押してやっと心を通わせ…」
「ヒロインのことを長谷部と呼んでるのか。やめろ」
「いいじゃないか、どうせ相手役は俺みたいな王太子だ」
「…はあ。まあ好きにしたらいい」
「ただ、そう思えばこそ冒頭でヒロインに婚約破棄を告げた元婚約者が心底不快な存在でね…適当な理由こじつけてさっさと断頭台に送ってしまえば良いのに」
「思考まで完全に王太子に染まってるじゃないか」
「面白いよ。長谷部も読むなら後で貸そうか?」
「まあ…業務改善のくだりは興味がある。読み終えたら貸してくれ」