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    8月1日はぱちはじの日とお聞きしたので…!
    なんか、誰かのお手紙を代筆する斎藤さんっていいな、の気持ちで書きました。

    アナログ派な永×デジタル派な斎 素麺、おろし蕎麦、韓国冷麺。
     紙の上に整った文字が並んでいた。
     それを見て、ふと思い出した。
    「おまえ、よく手紙を書いてなかったか?」
     斎藤は手を止めたが、それは束の間のこと。
     白い紙の上、白い手がまた動き出す。
     獣の毛ではなく、金属から滲むインクによって、文字が綴られていく。
    「副長でもないんだし、手紙なんて頻繁に出した覚えはないが」
    「そうか……そりゃそうだな、おまえ地元じゃお尋ね者だし」
     途端、手の動きがまた止まった。
     他意はなかった。なかったが、相手の領域に土足で踏み込んだ自覚はある。
    「喧嘩なら買うぜ」
     苛立ちを乗せた目が永倉を見上げる。
    「そう何度も"主義"を曲げるもんじゃねぇだろ、無敵の剣が泣くぞ」
    「馬ァ鹿、おまえには勝てるって言ってんの」
     べっ、と赤い舌を突き出す。
     生意気だ。可愛げない。
     同時に、どうしてこんなガキ臭さの抜けない男が、自分たちの中で誰より先に人を手に掛けることになったのかとも思う。
    「でも俺、おまえが手紙を書いてるのを何度か見たことがある気がする」
    「そうはいっても」
     言葉はそこで途切れる。
     代わりに斎藤は、少しだけ目尻を釣り上げた。
    「そこに立たれると、影になって邪魔」
     突き放すような声だった。
     文机で書き物をしている斎藤は、座布団の上に正座をしている。永倉は部屋へ戻ってそのまま斎藤の手元を覗き込んだから、照明との間に立ち大きな影を落としていた。
    「悪かったな、それで?」
     隣に座り、改めて尋ねた。
     さっきまでは影の中でも慣れた様子で文字を綴っていたのだ。突然の苦言は、なにか思い出したからに違いない。
     斎藤はしばらく聞こえないふりをして紙面にインクを走らせていたが、二度、三度と問えば渋々というように口を開いた。
    「代筆」
    「代筆?」
    「あの人の」
    「どの人だよ」
    「……局長」
     ──その名前は、永倉の心を容易く尖らせる。
     緊迫した空気をものの数秒で破るように、斎藤が声を張り上げた。
    「おまえがそうなるだろうから、答えたくなかったんだって!」
     決して憎んでいたわけではない。
     ただ、永倉が人生を終えて尚も抱え続けた燻り。
     その最たる原因ではあったのだ。
    「新撰組の局長として方々に文を出してるから、あの人の筆跡は広く知られてんだよ。それで、局長が書いたって知られたくないものは僕が代筆してたってわけ」
     斎藤は今まではぐらかそうとしていたのが嘘のように、ベラベラと聞いていないことまで喋った。
     きっと、永倉の胸の内で逆巻く感情が滲んだ空気を少しでも変えたいのだろう。
    「なんで」
    「なんでそんなことを、とか聞くなよ。それこそ一々尋ねるようだったら、僕は副長から腹切らされてるっての」
    「馬鹿な、そんなことあるかよ」
     考えるより先に出た言葉であったが、よく考えてから口を開いたって同じことを言っただろう。
     土方にとって掌中の珠が近藤と沖田であることは揺らぎない。かといって、意に沿わないからと遠ざけるには斎藤はよく可愛がられていた。
    「馬鹿なことを言ってやるなよ」
     だから殊更に念を押したが、斎藤は物言いたげな目を向けるばかり。
    「なんだよ」
     そのくせ、真意を問えば目線どころか首を捻って顔まで逸らしてしまう。
     頑是無い子供か、愛想ない猫のようだ。
    「……なぁ、さっきからなに書いてんだ」
     機嫌を取ってやろうという魂胆ではないが、永倉は先までと全く異なる話題を選んだ。
    「メニュー表」
    「通りで腹の鳴りそうなもんばっか書いてると思った、今年の夏は俺等も屋台を開くのか?」
    「違ぇよ……いや、夏の特異点は魔境だから僕等が屋台を開く可能性は否定しきれないけどさ。これはそういうのじゃなくて、厨房の人たちのお手伝い」
     よく見れば机の隅には手のひらサイズのメモがある。どうやら、この内容を書き写していたらしい。
    「というかさ、手紙がどうとかよりもずっと先に聞く内容でしょ。おまえ、僕がなんでこんなに料理の名前書き連ねてると思ってたのよ」
    「腹が減り過ぎて今食いたいもん書いてんのかと思った」
    「そこまで飢えてたら飯食いに行ってるっての!」
     机に向かう気分が失せたのか、斎藤はペンを置いた。
    「もう、集中が切れた。この後、冷やし中華始めましたってやつも書かないといけないのに」
    「やけに麺類が多いな」
    「それは……夏といえば、ね?」
     妙な具合の返事に、概ね把握した。
    「斎藤、さては食堂に麺類を増やしてもらう代わりに手伝いを引き受けたな?」
    「ち、が、い、ま、す〜! あっちから夏にあると嬉しいメニューを聞かれたから答えただけ!」
     大声を上げて否定したところで、斎藤がメニュー表作りを引き受ける代わりに優先して好みの料理を増やしてもらった事実は変わらない。もし麺類が苦手なサーヴァントがいたら、うちの組の者が迷惑をかけて申し訳ない限りだ。
    「またなんか失礼なこと考えてない?」
    「ちょっとした謝罪だ」
    「はぁ?」
     食い意地の張った経緯ではあるが、紙面には誰が見ても読みやすいよう神経をすり減らして書いたと思われる几帳面な文字が並んでいる。これなら読み間違いによる事故も起きないだろう。
    「せっかく良い字を書くのにな」
    「い、いいじゃん……食べたい料理の名前ばっかり書く日があっても」
    「あ? そういうことじゃなくて」
     斎藤は自身に関してほとんど綴ることがなかった。永倉のように自伝を書き残さなかったというだけではない。本人が頻繁に手紙を出した覚えがないと言った通り、土方や近藤のように故郷へ向けた手紙だってあまり書いていないのだろう。
    「いつも自分以外のことばっか書き残したんだなぁって」
     専ら後ろ暗い仕事ばかりを任されていた手前、その仕事ぶりすら報告書としても書き残すことなく、生前見たと思った手紙は近藤の代筆であった。今もメニュー表なんて書いて……それがどうも惜しいことのように思えた。
    「いや? これでも公務員だったからね。ちゃんと履歴書とか用意したよ?」
    「履歴書」
     ふむ、と永倉は思案した。
    「おまえが案外ガキっぽいことも、腹が弱いくせに食い意地が張ってることも知ってんだがなぁ」
    「すごい罵倒してくるじゃん」
     そんなガキ臭い男が、刀においては天賦の才を持つ沖田すら差し置いて、真っ先に人を斬ることになった理由。
     きっと斎藤一の始まりすら、永倉は知らないのだ。
    「斎藤」
    「な、なに? まだ罵倒し足りないの?」
    「今度、プロフィール帳でも交換するか」
    「するかよ! というか、そんな古い知識どこから仕入れてくるんだよ!」
    「いや、新しいだろ。平成の産物だぞ」
    「慶応からしたら新しいけどさぁ!」
     斎藤はやれやれと溜息をついた。
    「馬鹿っ八はこれだから。いいかい? 今の時代はブログで見た人は絶対やることって質問集をバトンにしてリレーみたいに回してくんだよ」
    「あー、今はデジタルの時代だもんな」
     プロフィール帳はアナログ過ぎたか。
     斎藤は「自己紹介系は今更だし、やっぱり僕等はお嫁さんもいるから恋人バトンかな」となにやら色々ぼやいている。
     どうせなにを聞いてものらりくらりと躱す気でいるのだろう……そう思っていたのだが、まるで尋ねれば答えてくれるような口振りだ。
     それに。
    「なんだ、俺のことも知りてぇのか」
    「先にプロフィール帳を交換したがったのはおまえでしょ。というか、僕だけ質問に答えさせられるなんて、そんなの尋問みたいじゃん」
     呆れた様子ではあったが、斎藤の言葉に、たしかに永倉のことを知りたがっている意思が見える。
     その事実に胸を温めて、永倉はSAIKAでプロフィール帳を買い求める決意を固めた。

     ──当然、SAIKAにそのようなものは取り扱っていなかったのだが。
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