虹と紫陽花「……虹には性別があるんだよ」
雨水をとっぷりと吸い込んだ独特なコンクリートの匂いのする通学路で、私は彼にそう話しかけた。先ほどまでザアザア降っていた天気雨がようやく止んで、校舎から出て二人で並んで帰っていた時の話だ。
「何それ。生物じゃないのに男も女もないだろ」
あなたは私の与太話に、さしたる興味もなさそうな声でそう呟いた。眩いばかりの日差しに照らされた桔梗色の髪がキラキラ光っている。その様はまるで、水の滴る紫陽花のようであった。
「夢がないね」
「生憎俺はリアリストなんでな。ロマンティックを求めるなら違う男に話してやれ」
紅色の瞳をフッと細めながら、そう言ってあなたは意地悪そうに笑う。その全てを見通すような瞳が大好きで、とても気に食わない。
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