「成長痛それとも永遠の痛み」summary:ほんの少しの愛と別れの兆しについて。
#1
指摘されて初めて、夏美は自分がずいぶん背が伸びたことに気づいた。
冬樹がここ数年で急に伸びたせいか、彼に背を越されてからは、少し比べてみては「まあ、パパの背はあなたに譲ったみたいね」とため息をつくだけだった。あるいは女物の服のサイズがまちまちで、クローゼットにさまざまなサイズが混在しているせいで、変化に気づきにくかったのかもしれない。あるいは、あのカエルたちのせいだろう。彼らは毎年変わらない。だから、時の流れを忘れがちだった。
今ではママとでも、頭半分ほどの差しかない—— 実はママに抱きついた時に、こっそり比べてみてわかったことだ。
……じゃあ、この前の夜中に痛くて目が覚めたのは、いわゆる「成長痛」だったのか? 夏美はひざを軽くさすった。その鈍い痛みはもう消えていた。でも、またいつか夜中に訪れるだろう。バカカエルたちの侵略みたいに、不意をついて。
まあ、今は侵略のことで頭を悩ます必要もないけどね。
たまに手伝うくらいで。
#2
高校生になった夏美は相変わらず成績優秀で、多くの部活に所属し、学校の人気者で、多くの同級生の憧れの的だった。keroroたちの侵略を阻止する「地球最後の防衛ライン」でもあり、相変わらずkeroroに激怒することもある。でも、全てが以前と同じというわけではない。
例えば進学で別々の学校になった友達、例えば自分の時間や娯楽が必要になったこと、例えばkeroroの侵略を邪魔するのに以前ほど時間をかけなくなったこと。
彼女は「どうせ成功しないんだから」という態度さえ見せるようになった。keroroはこの態度にカンカンで、結局夏美の阻止なしで行った二度の作戦も失敗に終わった。
keroroが二度目の失敗で泥だらけになり、地面にぺたりと張り付いていたまさにその時――数日間ろくに会っていなかった夏美が、ひょいとその手でkeroroを拾い上げた。
彼女は得逞した猫のような笑顔で、keroroを地面に置くと「バカカエル、成功しないって言ったのに。今はちょっと忙しいけど、冬樹は暇だよ。私がいなくても、あなたたちは成功できないの」と言った。
keroroはこのセリフが大嫌いだった。攻防戦はまだ続くはずなのに、この「もう子供じゃないから遊んでられない」みたいな態度は何だ? 彼の方が年上なのに!
怒りを爆発させる前に、軽く叩かれて風呂に行かされた。文句を聞く時間もないのか?!
#3
Keroroが何度も確認して、彼女が精神的に問題ないとわかった上で八つの戦略を考えてしつこく絡んだ挙句、ママに呼び出されて完全におとなしくなった。夏美は今よく一人で部屋にこもっている。そしてKeroroが最も傷ついたのは、彼女が事前に冬樹に『今家うるさい?うるさいなら自習室に行ってくる』とメールしてきたことだった。
「ひどすぎる!悲しすぎる!この無責任な態度に冬樹殿は傷つかないのか?!」とKeroroは問い詰めた。
「はは、仕方ないよ。姉ちゃんは多分思春期なんだ。軍曹たちと遊ぶのはいいけど、今は彼女を邪魔しない方がいいかも」冬樹はそう答えた。
「つまり、夏美殿が思春期を過ぎれば元に戻る?」
「多分違うよ? 姉ちゃんが思春期を過ぎる頃には大学生だし、もっと忙しくなると思う」
「ゲロ...地球人はみんなそうなるの? 冬樹殿も? あの赤ダルマは最近庭で望妻石みたいに夏美殿を待ちぼうけているけど、ほとんど会えてない。前回秘密基地に来た時、一番長く夏美殿を見てたのに。それで我輩には『もう作戦には参加しない』だって? 我輩は彼のためを思ってるのに!」
「軍曹、私たちはずっと友達だよ」keroroの怒りを鎮めようと、冬樹は言葉を選んだ。「姉ちゃんとは違うけど、私もそうなる。多分数年後には、ママみたいに忙しくなる。軍曹の言う通り、地球人はみんなそう。伍長と姉ちゃんのことは...軍曹、もう放っておいた方がいいよ」
「......冬樹殿、その時も一緒に冒険に行ける? まだ神秘事件に興味を持ってる? 行けるよね? ね? ねえ?」
「行けるよ、軍曹。ただ時間が減るだけ」
#4
その夜、keroroは放心状態で秘密基地に戻り、「地球人を永遠に成長させない」という新たな侵略計画を立てようとした。
駆けつけた冬樹に即否定された
keroroはワンワン泣き出した。「地球人が成長するなんて悲しすぎる! 我輩は耐えられない! ずっと今のままでいいじゃないか!」
冬樹が遮る間もなく、お馴染みの握力と顔が迫ってきた。今回は怒りに満ちていた。
「バカカエル! いつになったらわかるの! あなたたちは宇宙人! 私たちは地球人! 元々違う存在なの! 侵略だって、あんたたち都合で逃げられるくせに! 私たちが死ぬまで待てないの?!」
keroroは今までで最も傷つく言葉を聞いた。
思春期の地球人は酷すぎる。この言葉は間違っていなかった。
keroroは涙目で二日間家事をした後、夏美からプラモデルをプレゼントされても喜べなかった。giroroが最近夏美に会えなくても黙っている理由がわかった気がした。
まったく、これじゃ自分が一番子供みたいじゃないか。
#5
そう、寿命の壁。
これが最近夏美が彼らを避けている理由だった。掃除のチェックは冬樹に任せ、侵略も防衛線も適当になり、宇宙人と線を引く坚决な態度を見せていた。侵略者だからではなく、ただ彼らが宇宙人だから。
ただ彼らが宇宙人だから。それだけの理由で。
keroroはこの事実を受け止めると、冬樹に抱きついて泣いた。
#6
「そんなに深刻じゃないよ。姉ちゃんはただ考える時間が必要なんだ」冬樹は懐に潜り込むケロン星人を軽くたたいた。
「でも、でも冬樹殿はそう思わない? 我々は宇宙人で、あなたたちは地球人。我々は――きっと……」keroroはその言葉を口にできなかった。
「そうだよ、軍曹、私たちは別れる」keroroの表情が険しくなるのを見て、冬樹は急いで続けた。「その日が来るまで、軍曹たちとの友情を諦めない。姉ちゃんも...多分本心じゃない。ただ考える時間が必要なんだ。彼女の決断がどうなろうと、私には変えられない」
keroroは黙った。駄々をこねても無駄なら、時間を止める装置でも密かに取り付けるしかないのか? でも、そうしたら本当に終わりだ。アンドロイドや意識転送、サイバー化...考えれば考えるほど、どれも実現不可能に思えた。地球人は脆すぎる。小説にある「寿命の分け合い」なんて宇宙にも存在しない。kururuに発明できる? 地球人の寿命が尽きる前に?
「軍曹、顔色が悪いよ」冬樹がkeroroの頬に触れた。「怖がらないで、軍曹。私は別れが来るのを恐れていない。君と知り合えただけで、この上ない幸せだ」
でも我輩は怖い、冬樹殿。怖いよ。出会ってまだそんなに経ってないのに。ああ。地球人の尺度では、我々の知り合った時間は彼らの寿命の中で大きな割合を占めてるんだ。心の中で思ったが、口には出さなかった。
「死を恐れてばかりいたら、生きられない。今日姉ちゃんが言ったことは、軍曹も初めて気づいたことじゃないでしょ」
そうだ。初めてではない。ただ誰もこんなに直接的に言わなかった。そして毎回、深く考えないようにしてただけ。
#7
「死を恐れてばかりいたら、冒険もできなかった。思い出も作れなかった。軍曹が地球に来た時、地球人と友達になるなんて考えてた?」
「まんざら考えてなかったわけでもない」
…と、口には出した。
軽い笑いが返ってきた。「じゃあ軍曹は、将来私やみんなと別れるからって、友達になるのをやめる?」
「やめるもんか! 絶対に!」
「そうだよ。私も同じ」
少しの沈黙の後、今度はケロロが先に声を上げた。
「それじゃ...夏美殿は本当にずっとこんな感じ? 我輩...ちょっと寂しい。ほんのちょっとだけ」
「姉ちゃんがどう考えるかだよ。もし彼女が決心したら、誰にも変えられない。それとも軍曹が直接寂しいって伝えてみる?」
「嫌だ! 絶対嫌!」
「じゃあ一緒に待とう。姉ちゃんが考えるまで」
「......最後の最後に、我輩は伝える。もし彼女が聞かなかったら...我輩は...本気で地球を侵略して...見返してやる...」
地球人は返事をしなかった。豪語した本人が泣き疲れて眠ってしまったから。
#8
実際はそんなに深刻じゃない。
夏美は最近ちょっと忙しいだけ、忙しいというより彼らを避けている感じで、「地球最後の防衛ライン」として一生keroroたちと戦い続けるべきか、次の「防衛ライン」を育てるべきか悩んでいた。魔法少女アニメみたいに後輩を育てる...いや、考えがそれた。
彼らを見れば見るほどわからなくなる。冬樹に相談しても、弟のようにうまくはいかない。母親に話すには、こんなことで煩わせたくない。ここ数年費やした時間とエネルギーは十分だ。自分の時間が必要で、普通の生活を捨てて一生彼らと綱引きするわけにはいかない。冬樹のように神秘事件に夢中でもないし、彼らに近づかなければ宇宙技術に関わることもない。
彼らを見るとイライラするから、しばらく会わないことにした。
最近は大人しいから、ちょっとの間なら大丈夫だろう。
最初はそう思っていた。keroroに叫ぶまでは。
そこで初めて、自分がどれだけ長い間彼らを放っておいたか気づいた。自分が何を恐れているのか理解し、冬樹にだけ伝えて慌てて逃げた。
keroroの表情を見る勇気はなかった。きっと傷ついただろう。でも彼が大人なら、こんなこと考えたことないのか?
他のメンバーの表情も見られなかった。冬樹によると侵略会議は途中で、他のメンバーはまだ賛否を表明していなかった。
みんな子供なのか? それともバカカエルの独りよがり?
わからない。地球人の自分がこんなことを考えるのはおこがましい? 宇宙人ですら考えてないことに。
眠れない。ふくらはぎがじんじん疼いて、不意に訪れは簡単に不眠症にさせた。あのカエルたちの侵略みたいに。いや、侵略の方がまだましだ。少なくとも不眠症にはならない。
考えながら笑ってしまった。彼女は別れが怖くて、深い絆を断ち切れなくて、この侵略者たちが失敗して去っていくのを恐れていた。地球人としてどうすることもできない問題に。
彼らとの関わり方について、もう一度考える時間が必要だった。人生は不変じゃない。彼女も、彼らの関係も。
少なくとも彼女はまだ若い。簡単に後悔を残したくない。
ただあいつが泣きすぎて、冬樹から助けを求められた。このままでは弟が参ってしまう。カエルが泣きすぎて脱水症状にならないか、卵で目の腫れを抑える必要があるか心配だ。
もう一つわからないことがある。ぼんやりとして、捉えどころがない。
愛について。
#9
愛は世界で最も奇妙なものだ。
少なくとも今でも、確かな定義を提示できる人はいない。「この定義なら100%愛だ」と断言できる人は。
愛は複雑で、混沌としていて、理解しがたい問いであると同時に、シンプルで、純粋で、ストレートな答えでもある。全ての問題に答えられるが、全ての問題の根源でもある。だから必死に証明しようとしてもできないものもあれば、簡単に手に入るものもある。
#10
恋愛。
この話題は、いつだって新鮮味を失わない。
みんなからかいたがり、励ましたがり、幸せな恋愛を見たがる。
みんな批判したがり、評価したがり、とんでもないドラマを見たがる。
思春期では、愛は天よりも大きい。
だからよく見かける、愛のために全世界に反抗するカップル、愛さえあれば全て解決できると思い込む人たち。
でも現実はドラマじゃない。
だからしつこく付きまとったり、二股をかけたり、愛のためと称して自分を傷つけたり、自己満足に浸ったり、「愛」という名目さえあれば全てが説明できるような気がしたりする。
だから万人の憧れの的である彼女にも聞かれる。
「好きな人は? あるいは、理想の恋愛対象は?」
#11
好きな人? 今はいない。
理想の恋愛対象...まだ考えてないかな。
えー、そんな答えずるい! 今考えてよ!
うーん...じゃあしっかり考えないと。
#12
好きな人は今はいない。
心境の変化か、恋愛暴露で炎上した配信者の事例を見すぎたせいか、三郎先輩への態度は、憧れから単なるファンとしての肯定に変わっていた。「確かに良い友達だけど、恋愛対象としては合わないかも」そんな感じ。
不良っぽいのが好きな年頃は過ぎた? 夏美は頬杖をついた。大人になるって好みも変わるってこと?
彼女はまだ恋愛に憧れている。
ただ彼女以外の主人公が、不確定になっただけ。
「そうね...最低限の礼儀と人柄は必須かな。価値観が合う人? それだけで...こんな感じ?」
「えー、それって最低ラインじゃん! ずるいよー!」
その時は笑ってごまかした。
口では最低ラインと言っても、みんな知ってる。多くの人がその最低ラインすら満たせないことを。
でも彼女たちも夢見る。完璧でドラマチックな恋愛を。
#13
眠れないなら、考え続けてもいいか。
あ、優しい系が好き。気持ちを察してくれる、理解できなくても楽しませようとしてくれる。一緒にいて安心できる、頼れる、たまには甘えたい。でも世話役も悪くないから、お互いに役割を交換できるのがベスト。
行動派がいいかな? 家に籠もりがちなのは、冬樹一人で十分。一緒に運動できる人、冬樹とママと仲良くしてくれる、あのバカカエルたちも受け入れてくれたら...いや! なんで彼らのこと考えてるの!
考えれば考えるほど非現実的。
こんな人に出会えたら...十大感動恋愛物語が作れそう。愛する人のために宇宙侵略者を受け入れるなんて。いや...そういう問題じゃない? バカカエルたちは結構人気あるし。
でも付き合ってから「実は宇宙人の友達がいるんだ」なんて言ったら変人扱いされない? でもバカカエルたちを受け入れられない人とは絶対うまくいかない! あの連中は必ずどこかに現れる! それに! 恋愛のため友達と絶交なんて、男惚れしすぎでできない!
待って! 友達じゃない! 侵略者よ! 侵略者!
...「地球最後の防衛ライン」であることを受け入れてくれる人なんている? 守ってくれるかどうか以前に、バカカエルたちの侵略に巻き込まれないか心配!
ああ! 全部あいつらのせい! 考えれば考えるほどイライラする! 卵を茹でて冷蔵庫に入れて、ホットミルクでも飲むか! もう考えない!
暗闇の中キッチンに向かい、電子レンジの音が止むのを待つ間、庭から微かな光が見えた。
...あいつ、まだ起きてる?
#14
giroroは庭で何かを書いていた。
少なくとも夏美がミルクを持ってそっと窓を開けた時、彼は慌てて数枚の紙をテントの下に押し込んだ。「keroroか...また来たのか」と呟きながら振り向くと、長いこと会いたかった人と目が合った。
「夏...夏美?! こんな夜更けに...まだ起きてたのか? 眠れないのか?」
「うん、ちょっと」夏美はカップを抱え、このところ座っていない専用の石に手を当てた。ほこりはない。安心して腰を下ろした。「giroroも起きてたじゃない。何考えてたの?」
何を...giroroは小さなライトを明るくし、その答えを伺うように横目で見た。深夜に焚き火はしない。誰も話さなければ、庭の分子ひとつひとつが静かだった。
「別に」これだけじゃそっけないか? 話したくないみたいに。本当の理由は言えないから、もう一つの事実を。「keroroが最近夜中に起こしに来て、わけのわからないことをベラベラしゃべる。でも今夜は来なかった」
返ってきたのはくすくす笑い。彼女が目を細めて笑う間、彼は一瞬だけ堂々と見つめられた——クマが少しある、昨日よりひどい? 前より背が伸びたか、0.5? 0.3センチか。髪が伸びた、最近出かける時急いでいて、三つ編みの長さが一定じゃない、0.66センチ伸びたかな。
彼女が笑い涙を拭う前に、空を見上げた。星がきれいで月が...あれ、曇ってる。緊張を紛らわすため、テントからナイフと砥石を取り出した。
再び静寂が訪れる前に、金属を研ぐ音が空白を埋めた。
#15
「バカカエル、何話してた? 侵略計画? プラモの発売日? それとも...あの会議の内容?」
「『地球人の寿命を固定して現状維持する』?」
「そう、それ」
「ふん。あいつは妄想ばかり。侵略の進捗はゼロだ」
「あなたは変わらないわね、地球侵略ばかり。言っとくけど、私がいる限り絶対に成功させない! さっさと諦めたら?」
「今更そんなこと言われてもな。ろくでなしの隊長一人でもうんざりだ」
短い、突然の沈黙。
ミルクを啜る音と研ぐ音が口論の終了ベルだった。
「giroroはどう思う?」
「何を?」
「宇宙人と地球人が、たとえ友達になっても、時間の概念が全然違うでしょ」夏美はカップの中のミルクを見つめ、少し回した。「それだけじゃない、割に合わないと思わない? 感情や記憶が、宇宙人にとっては大した時間でもない人たちに占められて。早く去っていく奴らがずるいと思わない?」
研ぐ音が一瞬止まり、また始まった。
#16
「夏美、我々は軍人だ。軍人にとって戦争は避けられない。つまり、死は常に隣り合わせ。1時間後か、明日の朝か、戦争では予測不能だが必然だ。keroroは内心わかってる。ただ地球のごっこ遊びに夢中で、怠け癖がついて一時的に忘れてただけだ。心配無用、明日訓練に引っ張り出して目を覚まさせる」
研ぐ音が一瞬強まり、元に戻った。
「君の言う宇宙人と地球人の友情は、馬鹿げているが、地球人の手腕は認めざるを得ない。このくだらない友情ゲームにおいて、早死にしないことと侵略の邪魔をしないこと以外、我々は何も意見を持たない。感情を注いだ者が責任を取る。結果を受け止められないなら、関わるな」
「相変わらずの戦争狂の意見ね」夏美はカップを持ち、大きな一口を飲んでから続けた。「あなたの言う通り、感情を注いだ者が責任を取る。もう考えない。侵略は私が地球にいる限り、夢のまた夢よ」
「...好きにしろ。どうせ君には勝てない」
「やっとわかったのね。でも訓練はほどほどにね、バカカエルを傷つけたら家事はあなたがやるから」
「...うるさい! わかった!」
楽しそうにミルクを飲み干し、照れ隠しに力を込める小さな宇宙人を見る。続けて「実はgiroroって優しいところあるよね」と言おうとした。
突然、思い当たった。
優しい系...?
#17
「夏美? どうした?」さっきまで楽しそうに、何か言いたげだったのに、急に黙って。体調が悪い?
「あ! いや、別に!」少し慌てすぎた。何か秘密を暴かれたみたい。怪しすぎる——話題を変えよう!
「あの、その、恋愛の話! ふと思い出して! giroroには好きな人いる?」
「な、何?! 好きな人だって? い、いない! 地球侵略が第一任務! なんでそんな話を?」
「い、いや、別に話すつもりじゃ...クラスでよく話題になるから! だから、ちょっと気になって?」
私のこと?! giroroはこの考えの衝撃度を、写真整理中に夏美の顔が全部kururuに変わっているのを発見した時の恐怖に匹敵すると誓った。
違う! giroro落ち着け! 冷静に!! 戦士の精神を見せろ!
「...何が...気になる?」
「えっと...理想の恋愛対象? 恋愛観? わ、私は冬樹の調査で聞いてるだけだよ! 宇宙人の恋愛観とか! 答えたいことだけ答えて! 無理しなくていいから!」
何言ってるんだ私! 夏美は今すぐ縮小薬でカップの下に潜り込みたい気分だった。こんなでたらめ、誰が信じる?
#18
信じる者がいた。
例えばこの庭住まいの大艦巨砲主義戦士。
怪しいが、彼は信じた。他に説明がつかないから。
夏美が自分に好意を持っていると信じるより、この調査の方が現実的だ。少なくとも失望しにくい。何度も失望してきたから、そろそろ身の程を知るべきだ。
そうは言っても、前者の可能性を期待していないわけではない。
いや、心底期待していた。
「理想の恋愛対象...い、いない! そんなこと考える時間があれば銃の手入れをする! 恋愛観...答える必要ある? 君...いや冬樹は、本当に知りたい?」
別に知りたかったわけじゃないが、この態度が逆に聞きたくなった。
「知りたい」
「...わかった」
まるで決死隊に行くような表情は何だ。普通「恋愛なんてkeroroに聞け」で済む話じゃないのか。石とナイフが下ろされ、軽い音を立てた。
#19
「侵略者にとって、恋愛は不要で無意味だ。愛の情けなど侵略の役に立たん」
ほら、やっぱり。安堵の息をつこうとしたが、彼はまだ話し続けるようだ。
「だが人間として、感情は制御不能な要素だ。誰にも変えられず、止められない。だから恋愛も完全に禁止ではない。侵略と生活に支障がなければ、他人の感情状態に干渉しない。余計なお世話か、その人が君をとても気にかけている場合を除いて」
まじめで包括的な答え。深夜のラジオ番組じゃないのに。場違いだ。
「夏美、君は...」
どうした、言いづらいことか。
「好きな人ができた? それとも、誰かに言い寄られている?」
冬樹の調査だなんて、冬樹が聞きたければ自分で聞く。どうして彼女に? どんな恋愛観? 誰に感じた? 三郎? 小雪? それとも...それとも――彼女自身?
「全然。好きな人、いない。言い寄られてるのも、多分ない? あなたが今まで付き合ってくれて、まあまあ信頼できるから教えてるの! 内緒よ」
...付き合って? 信頼?
あれ?
#20
ないと言ってるが...悩んでいるんだろう、学校を調査すべきか? それとも? もっと詳しく聞く? やめておく?
研ぐ音が再び響く。
「giroro」
「ん? 何だ? 言え」
「もし私が恋愛して、相手があなたたちの存在を受け入れられなくて、それでも愛していて別れたくないとしたら、どう思う?」
キーッという鋭い音がして、その後静寂が訪れた。
なぜ侵略者にこんな質問を?
わからない、ただ聞いてもいい気がして、聞いただけ。
この質問は詰問だ。もしあなたたちの存在が私の未来や選択に影響を与えたらどうする? 答えられないのが普通だ。彼らはすでに存在し、彼女の一生に影響を与えている。彼女は今更「いないものにして」と言っている。ひどすぎる。
「夢見るんじゃない」と怒鳴られてもおかしくない。
長い沈黙。もう答えはないかと思った。
「もし...もしそれが君の選択なら」言葉が九死に一生を得たように、かすれた声で出てきた。「君はもう私を、私たちを、この仲間を必要としていない証拠だ。それでも君を支持する。言っただろう、君の選択は全て尊重すると。君が望むことなら」
#21
――可能なら、私の全ての感情を理解し、全ての選択を尊重し、全ての私を受け入れてくれる人。
これが夏美の恋愛対象に対する最高の理想だった。
全ての思いと感情を理解し、全ての考えと選択を支持し、全ての、ありのままの私を受け入れてくれる。
...絶対どこかおかしい。
全ての条件を、彼女が考えもしなかった人物が満たしていた。
#22
彼の言葉は続く。
「他のメンバーを説得して日向家から離れ、新しい侵略基地を探す...君が本当に、彼を愛しているなら」
「それだけは絶対ダメ」彼の言葉を聞いて最初に思った。特にこの宇宙人が本当にその可能性を考えているように見えた時、無性に腹が立った。恋愛のために彼らと絶交すると思ってる?「そんな人は存在しない。あなたたちは、私の目の届かないところに行ったら地球がどうなるかわかったもんじゃない。だから考えないで。しっかりここにいなさい」
「...侵略は止めない」
「だからダメだって! もう遅い! 寝る!」
自分でも何に怒っているのかわからないが、とにかく部屋に戻る。頭が混乱している。
不機嫌に帰っていった。その後は何の音もなかった。
#23
ドアが閉まる音の後、giroroはようやく日向家のリビングから視線を外し、手の物に目を向けた。
一道の傷。使用には支障ない。テントの下から慌てて押し込んだ数枚の紙を取り出す。押しつぶされて皺になっていた。データも間違っているし、新しい紙に書き直すか。
地球最強の女戦士、地球最後の防衛ライン、日向夏美の最新観察報告。最近少し不眠気味。小さな注釈:原因不明。地球人の不眠原因は複雑、香袋、香り、薬物が治療と緩和に役立つ、贈って使用後の状態を観察してみる。地球人の睡眠を利用した新侵略計画も可能。
彼女はあの発言に激怒した。鉛筆を握りしめ、わざと怒らせたわけじゃない。彼らが去らないという答えに、侵略計画を変えなければ、彼らは永遠に敵同士だと考えていた。つまり、侵略を続ける限り、夏美は完全に離れない。
彼女がまだ彼らを気にかけている喜びと、地球への責任感を見た安堵、どちらが大きいかわからない。少しの悔しさも、彼らが彼女を繋ぎ止める理由がそれだけだという。
身長変化、髪の伸び、温度感覚と聴覚...
恋愛、話題。
冗談じゃない。彼女は何を考えている?
三郎への憧れが薄れたのを見て、心から喜べなかった。三郎がいなくても四郎五郎が現れる、見知らぬ他人は三郎より調査が難しい! 彼女は誰を好きになった? 彼女が彼らを避けているこの期間に?
もしかして、彼女が避けているのは...
宇宙人を受け入れられない誰かを愛してしまったから?
「ぽきっ」、哀れな鉛筆は真っ二つになった。
違う。違う。彼女の言葉を信じる。仮定の話だ、もしもの話だ。たとえ本当だとしても、本当だとしても――
彼に何ができる?
#24
彼は彼女にずっと無力だった。
彼女を拒めない、無視できない、傷つけられない。
ただ惨めに、哀れに、頑なに片思いを続けるしかない。他人から見れば余計で、荒唐無稽で、理不尽なことだとわかっていても。
彼が彼女を愛するなんて、最初から理不尽だった。
もし本当にそうなら、もし必ずそうなるなら。
それでも君の選択を支持する、私にとっては君が幸せならそれでいい。
#25
地面に落ちた半分を拾い、折れた部分を削ればまた使える。
手に残った半分は、木のささくれが掌に刺さりそうになっている。
鉛筆はまだ止まらない。
それまでに、この人物が現れる前に、全てが手遅れになる前に。
私は彼女を愛するのを止めない。
誰もこの刹那のユートピアを奪えない、この無敵に見えて脆い夏を代わりにできない、つまり誰も彼の愛を止められない。
彼が筆を止めることを学ぶ前に、彼女が気づく前に、全てが取り返しのつかないところまで行く前に。彼は彼女を愛し続ける、たとえ未来に別れが待っていても。たとえ私たちの生命の川が全く違っても、今この瞬間を君と共に歩めるなら、それがこの上ない幸せだ。
どうか早く審判の場に足を踏み入れないで、どうか私の気持ちに気づかないで、どうか愛させて、お願いだ、愛させて。これだけが欲しい、多くは求めない、君を困らせない、ただ見ていればいい。
この小さな権利を奪わないで、君を見られる時間は長くない、君は気づかない、私はこの時間が必要だ。それは別れの後、私の骨の隙間になり、血肉の記憶になり、幸せな夢になる。
それまで、どうか愛させて。
#26
字を書くだけで出血するほど馬鹿じゃない、ただ跡が残った。
...いや、書きすぎて、ささくれが刺さった。
血は出ていない、小さな傷だ。
すぐ治る。
全ては元通り、小さな傷と後悔は今宵の闇に埋もれればいい。
たぶん、別れが来るまで、誰も触れない。
#27
「予期せぬこと」は、大抵「予期せぬ出来事」の前触れだ。
夏美はもう彼らを避けなくなった。むしろ、以前よりもしつこく干渉するようになった。
keroroがプラモを組み立てているスペースにビーンバッグチェアを2つ置き、よく冬樹と一緒に本を読みながらkeroroの怠惰ぶりを批判し、またkeroroと口論するようになった。
以前の態度に戻ったように見えたが、それは他のメンバーに対してだけ。
今度は彼だけを避けるようになった。
なぜ? あの夜、何かまずいことを言ったのか? 彼女を怒らせるようなことをした? それとも、まだあの発言を引きずっているのか?
考えても答えは出ない。基地の壁に頭をぶつけて死にたい気分だった。
keroroは立ち直ると、面白半分で彼の困り様を眺めていた。こいつ! 訓練不足で調子に乗ってやがる! 今日は救急室行きまで殴りに行くぞ! と思ったが、少しやっただけで冬樹が仲裁に入った。ここは秘密基地か? 地球人の観光名所か? 冬樹は仲裁が終わると、今度は夏美に謝るよう勧めてきた。
そうしたいのは山々だ! だが夏美は最近、彼を見ると以前より速く逃げるようになった! 同じ空気を吸うのも嫌がるみたいに! どう謝れというんだ!
やはり基地の壁に頭をぶつけて死んだほうがましだ。
#28
謝罪の機会はすぐ訪れた。
夏美が突然髪を切り、突然keroroと大喧嘩し、彼がちょうど外出先からイライラしながら戻ってきて、無能な隊長を叱ろうと窓を開けた瞬間に、この光景を目撃したからだ。
ショートカット...? ショート? ショート?!?!
頭がフリーズした。無礼にも窓をバタンと閉めた。
これで明白な謝罪理由ができた。
#29
怒らないで。全部私が悪いんです。どうかお許しを...
どうか、私を無視しないで。嫌わないで。
消す。くしゃくしゃにして捨て、新しい紙と勇気を取り出す。
許してください。
#30
こうして日向家は平穏を取り戻した。こうして、小さな、しかし天地を覆すほどの愛と別れの兆しが育まれた。こうして、彼らの物語には定められた結末などないのだから。
だから彼らは決して幕を閉じない。
【END】
---
【あとがき】
私のつぶやきです。興味のない方はスキップしてください。
この文章を書いた経緯です。
ここまで読んでくださり、同人女の妄想にお付き合いいただきありがとうございます。
ケロロにおける寿命論に悩まされたので、思い切って書きました。
幸い、すべてはまだ兆しの段階です。愛も、別れも。
自分の基準に合うキャラクターには自然と好感を持ちます。しかし、愛は基準ではありません。愛の起源は複雑でも、愛そのものはただの愛です。夏美がgiroroへの感情に「愛」が含まれていると気づく前、これはまだ芽生えたばかりです。
愛はただの愛です。どんなに偉大な愛も、結局は愛でしかありません。
寿命論を書きながら、自分でも何が書きたいのかわからなくなりました。考えたことをすべて詰め込んだ感じです。
CPものに他のキャラクターを登場させるべきではないかもしれませんが、私は欲張りなのでCPもCBも書きたいと思いました。keroroを弱気に書きすぎたかも? 原作ならもっと陰湿なはず(?)
それに、ケロン星人は死生観を持っているはずです。戦争ものだし、日常の裏では死人が出る戦闘もあるでしょう? それとも、穏やかな日常に目がくらんで、別れや死を考えたくなくなったのか。
寿命論を書けば書くほど、作者が年齢を設定しない手法の巧妙さに気づきます。設定を変えず、変化を考えず、ただこのまま描き続ければいいのです。
悩むのは考えすぎる読者だけ。
途中で、冬樹が女の子になった回でkeroroが「夢成長促進銃」を使って前日の状態に戻したことを思い出しました。もしkeroroが地球人にこの銃を使い続ければ、永遠に「前日のまま」でいられるのでは? そうすれば寿命論は回避できる?
……考えすぎると怖いですね。
ともあれ、愛と別れの兆しを書きたかっただけです。
最後に、ここまで読んでくださりありがとうございました。