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    韮山小田

    大体尻切れ蜻蛉

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    韮山小田

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    キスブラ身内ワンライ2 バームクーヘンエンド

    普段立ち入ることがないという理由だけで、こうも妙な気分になるものだろうか。
    古い古い記憶のひとつに、片手で数えられるだけの回数訪れたことがあった。
    その頃のキースはまだただの子供で、特別なことと言えば人一倍痩せて薄汚れていることくらいだった。
    母が見知らぬ男と出て行って。酒浸りの父はキースなど見えていないかのように振る舞う。空腹を訴えればようやく気付いたというように鋭い舌打ちを響かせて重い拳を打ち下ろした。
    生きるために家を出た。盗みを働くほどの知恵も体力もなかった子供を僅かでも生き永らえさせたのは、ここだった。

     ◆

    「ブラッドもようやく結婚か~俺たちもそろそろかなあ?」
    「どうかねえ。恋人に振られたばっかの誰かさんにはまだまだじゃねえの」
    「うう…。でも、俺が悪いんじゃあないからね、たぶん…」
    自身なさげに俯くディノは、つい先日恋人と別れたばかりなのだという。
    かく言うキースも、結婚を考えるほどに付き合いを続けた女性は一人もいなかった。
    ヒーローにはありがちな話である。
    「『仕事とわたしどっちが大事なの』なんて台詞を聞くとは思わなかったよね…」
    自分からアプローチしたのだという女性をディノはそれはもう大事にしていて、休みの度にデートだなんだと騒いでいたのは記憶に新しい。別れを告げられたのは突然だったろう、浮かれた顔でタワーを去ったディノが暗い表情で戻ってきたのに、正直キースは驚かなかった。
    休日は不定。休みが取れても緊急招集がかかれば即出動。デート中に彼女を放って現場へ駆けつけた回数数知れず。そんなだから、ヒーローはモテる割に恋人と長続きしないし、結婚を考えるのも大体三十越えてから。街の人気者もプライベートとなれば寂しいものである。

    それでも今日、ブラッドは結婚する。
    いつかこの日が来るであろうことは分かっていて、キースたちに輪をかけて多忙な彼の事だから、それはまだずっと先なのだろうと――慰めのような夢想をしていた。

    ステンドグラスを通した光がいくつにも散って、新婦のベールに反射している。白いドレスで全身を包んだ女性はきっとこの瞬間、世界中の誰より幸福に違いない。
    隣に立つ男が彼女をそうさせているのだ。
    薄っすらと微笑みをたたえている見慣れた男の顔を、キースはぼんやりと眺めた。

    かつて。随分と昔。友人を一度失ってから。
    数年の間、キースはブラッドと付き合っていたことがあった。
    友人の喪失を慰め合うように。次第に、ありふれたただの恋人たちとして。愛し合っていた。
    結婚を考えたことはなかったが、ただずっと共にあるのだと疑わなかった。
    その結果が、これだ。

    幼い頃に訪れたのはこの教会ではない。ただ、宗派を同じくするゆえか、同じ時代に建てられたのか、教会とはどこもそうなのか。足を踏み入れて、懐かしさのようなものを覚えた。
    人並みの信仰すら持ち合わせていない。日曜のミサには一度も行ったことがない。
    ただ、幼く弱かったキースを一度でも手を差し伸べてくれた――だから、知らぬ神に祈ろうと思うのだ。
    愚かな未練のせいで、祝福を贈ることは出来ずとも。彼の未来に幸福を、と。
    目を伏せた瞬間、どこからか視線を感じた気がした。
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    韮山小田

    DONEキスブラ身内ワンライ3 「甘い誘惑」「好きだよ」
    この男の常套句である。
    酒精に目の下を朱に染める姿はなるほど昼間の青白い顔よりも魅力的であった。
    男盛りの28という年齢、ヒーローという社会的地位、それなりに整った顔立ちに、骨に響くような低く甘い声。
    腰に手を回されて、付け根のあたりを撫でさすられる。暖かい色の照明の下で二人きり、膝を合わせるように並んで座ってそんな性感を煽るような仕草をされれば、プロの女でさえころりと身を任せるのかもしれない。

    しかしブラッドは初心な小娘ですらない。
    友人のごつごつした指が腰骨を弄るのにも、呆れて手を振り払うだけである。

    「眠いのならベッドへ行け」
    「え~…やだよ…」

    宙ぶらりんになった手を一瞬見つめたキースはしかし懲りてはいない様子だった。同性の友人に対して何が楽しいのか、酔ったキースは大体にしてブラッドにべたべたと絡んだ。
    出会った当初が嘘のようである。
    15のキースは周囲を小馬鹿にしたような目をしていて、それだけパーソナルスペースが広かった。
    しかし年月は彼のかたくなさに勝ったようで、30へのカウントダウンが終わりに近づいてもまだこんなことをしている。
    恋人でもあるまいし、他 1700