香りの行先渓谷に落ちる月光が樹冠の杉葉を鋭利に映し出し、木々の隙間を静寂が満たす。暗い林の内は虫の声さえ飲み込み、立ち込める深い霧は闇を広げんと揺蕩う。青々とした緑葉と土。樹林に漂う濃霧と共に辺りを支配する主の香。
荘厳を讃える伏した無音の闇に一つ、金属の擦れる音が立った。
音ともに現れた淡く朧げな霧は、月光をも飲み込む暗闇の上で柔らかな白を踊らせる。散乱する色は甘やかで神秘的な香りで挨拶を告げた。境界の来訪者に杉は葉を揺らし虫は涼やかに歌い出す。
蝶番の軋む音に白の内より鍵を開けた旅人は土へ足を降ろした。穢れを知らない純白と華やかで涼やかな淡色。背後の藤色を手元のランタンへ焚べれば、周囲の闇は奥へと下がる。
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