悲壮の龍はいずれ伝説とならんあら、バアルの話が気になるの?いいわよ。教えてあげる。
彼は、双子として産まれたの。王となれるのは1人だけ。弟である彼は常に両親から虐げられていたわ。兄はそんな弟を庇ったり、親への不満も言ったりしていたの。ええ、兄に悪意は無く何も悪くない。寧ろ、とても優しい子よ。でも、親から贔屓され、恵まれている兄はバアルにとって憎むべき相手でしか無かった。どんな励ましの言葉も嫌味にしか聞こえなかった。
そんなものなのよ。家族を信じられない居場所の無い悲しい子…だからこそ、私が彼を見守ったの。彼に勉強を教えたのも私よ。初めて会った時のバアルは、口が悪くて幼稚な言葉しか話さなかった。今じゃ想像できない程よ?フフッ…
それからのことは貴方も知っていると思うわ。王とその妻を葬り去ったバアルが玉座に君臨した。
ちなみに、スルトもちゃんと元々は黒龍だったのよ?かつての彼は幼いとはいえ、自我があった。だからこそ両親を殺されたバアルを酷く憎んだわ。まぁ、その時の記憶は消えたのだけれど。
どう?やっぱり彼のことが怖い?大丈夫よ。祖龍の時代が終わり、黒龍の時代の幕が開いた。その幕を開けたのは他でもない、バアルなの。
まあ!私が責務をサボりたいからじゃないのよ!?…バアルは誰よりも努力した。彼は苦しみを知っているからこそ、人々の気持ちに寄り添おうとしているの。とても優しい心を持ってるんだから…家族以外を殺したことなんて無いわ。
人間に危害を与えることも無く、彼は未だに平和なこの世を繋いでいる。
そう、恐れることは無いの。彼こそが、この世の伝説なのだから。