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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太。季節ものは書いてて楽しいな~

    ##文スト

    炬燵と蜜柑 晩秋。後二ヶ月もすれば今年も終わろうかという頃だった。
     太宰が炬燵を買ったらしい。なので、敦は道すがら蜜柑を六つ程買って袋に入れてもらい、それを片手に太宰のアパートを訪れた。
     炬燵。昔に本で読んだことはあるけれど体験するのは初めてだな。とても楽しみでうきうきした気分を抑えられない。
     チャイムは鳴らさず、渡されていた合鍵で玄関を開ける。
    「太宰さーん、来ましたよー」
    「いらっしゃーい、敦君」
     敦は「蜜柑買ってきましたよ」と云いながら靴を脱ぎ、部屋に上がる。部屋の中央に置いてあった卓袱台が炬燵に替えられている。
    「これが炬燵ですか?」
     四角い卓袱台から四方に布団が生えたような形状をしている。太宰はその布団に両手足を突っ込んでいる。奇しくもその布団は蜜柑の色に似ていた。
    「そうだよ~」
     そう云いながら太宰がうっとりとした顔で炬燵の天板に頬をくっつける。微笑みながら「早くおいで」と言うので敦は蜜柑を天板に置く。太宰の向かい側の炬燵布団をめくってそっと足を入れた。すぐにじんわりとした暖かさが敦の下半身を包む。
    「わっ……あったかい……」
    「そうだろう。この暖かさを知ってしまったら最後、トイレに立つのも面倒になるのさ」
     それを訊いて、本当にその通りかもしれないと敦は思う。それから天板の上の袋から蜜柑を一つ手にとった。八百屋の店主が小ぶりな蜜柑のほうが甘いと教えてくれたので、敦はそれに倣って小さめの蜜柑を買ってきていた。
    「太宰さん、食べます?」
    「敦君が剥いてくれるならね」
     ねえ? と蕩けるような笑みでお願いされたら断れるはずもない。全く本当にこの人は可愛らしいなあ。そう考えながら敦は蜜柑を剥いていく。折角なので丁寧に白い筋も取った。
    「口開けて下さい」
     その言葉に応えて太宰が無防備に口を開ける。敦がそこへ薄皮に包まれた房をひとつ入れてやると太宰はもぐもぐ口を動かした。
    「……うわなにこれ酸っぱい」
    「えっ、すみません。美味しくないですか? おかしいなあ……」
     拗ねたように唇を尖らせる太宰に、敦は慌てる。太宰はほっぺたを膨らませながら敦の目を見据えた。
    「こら。すぐに謝らない。別に君を責めてるわけじゃないんだから」
     これは太宰からよく云われる台詞だった。敦は育ちのせいで何か悪いことがあると自分のせいにする癖がある。太宰はそれを矯正しようとしているのだ。敦は胸元を押さえて頷いた。
    「は、はい」
    「まあ蜜柑が酸っぱいのは本当だから君も食べてみたまえよ」
     太宰は皮を剥かれた蜜柑に手を伸ばすと、敦に一房差し出した。ぱくり。口に含んでみると酸っぱい果汁が滲み出してきた。思わず顔をしかめてしまう。
    「うわ、本当に酸っぱい……」
    「どうせ君のことだから八百屋の店主の口車に乗せられたんだろう。小ぶりな蜜柑のほうが甘いとかなんとか」
     この人はどこまでお見通しなんだろうと思うと、敦は度々怖くなる。
    「さて、ここに酸っぱいであろう蜜柑が五個も余っているけれど、どうしようね」
    「……どうしましょうね」
     二人は顔を見合わせると、くふふと小さく笑う。幸せだなあ、と敦はしみじみ思った。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ポッキーゲームに勝敗なんてあったっけとググりました。付き合っているのか付き合ってないのか微妙なところ。■ポッキーゲーム


     昼下がり、ソファに座ってモクマがポッキーを食べている。そこへチェズレイが現れた。
    「おや、モクマさん。お菓子ですか」
    「ああ、小腹が空いたんでついコンビニで買っちゃった」
     ぱきぱきと軽快な音を鳴らしてポッキーを食べるモクマ。その隣に座って、いたずらを思いついた顔でチェズレイは声をかける。
    「モクマさん。ポッキーゲームしませんか」
    「ええ~? おじさんが勝ったらお前さんが晩飯作ってくれるってなら乗るよ」
    「それで結構です。あ、私は特に勝利報酬などいりませんので」
     チェズレイはにっこり笑う。「欲がないねぇ」とモクマはポッキーの端をくわえると彼の方へ顔を向けた。ずい、とチェズレイの整った顔が近づいて反対側を唇で食む。と、モクマは気づく。
     ――うわ、これ予想以上にやばい。
     チェズレイのいつも付けている香水が一際香って、モクマの心臓がばくばくしはじめる。その肩から流れる髪の音まで聞こえそうな距離だ。銀のまつ毛と紫水晶の瞳がきれいだな、と思う。ぱき、とチェズレイがポッキーを一口かじった。その音ではっとする。うかうかしてたらこの国宝級の顔面がどんどん近づいてくる。ルー 852

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。年下の彼氏のわがままに付き合ったら反撃された。■月と太陽


    「あなたと、駆け落ちしたい」
     ――なんて突然夜中に年下の恋人が言うので、モクマは黙って笑うと車のキーを手にする。そうして携帯も持たずに二人でセーフハウスを出た。
     助手席にチェズレイを乗せ、運転席へ乗り込むとハンドルを握る。軽快なエンジン音で車は発進し、そのまま郊外の方へ向かっていく。
     なんであんなこと、言い出したんだか。モクマには思い当たる節があった。最近、チェズレイの率いる組織はだいぶ規模を広げてきた。その分、それをまとめる彼の負担も大きくなってきたのだ。
     ちらりと助手席を窺う。彼はぼうっとした様子で、車窓から街灯もまばらな外の風景を眺めていた。
     ま、たまには息抜きも必要だな。
     そんなことを考えながらモクマは無言で運転する。この時間帯ともなれば道には他の車などなく、二人の乗る車はただアスファルトを滑るように走っていく。
    「――着いたよ」
     路側帯に車を停めて声をかけると、チェズレイはやっとモクマの方を見た。エンジンを切ってライトも消してしまうと、そのまま二人、夜のしじまに呑み込まれてしまいそうな気さえする。
     チェズレイが窓から外を見る。黒く広い大海原。時 818

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。今度はモさんがうだうだしてる。
    https://poipiku.com/108543/4050417.html の続き。
    ルクアロルクの描写を含みます。
    ■最近の悩み(Side:M)


    「じゃあまたコーヒー淹れてくるわ」
     モクマはチェズレイの空になったカップを受け取って書斎を出た。さっき彼の手にしていた携帯の画面が、遠目でちらりと見えてしまったのを思い出す。
     さすがにここまで共に過ごした上であれを見て、彼が自分以外の誰かとセックスがしたいんだなんて思うほどモクマは朴念仁ではなかった。
     おじさん、求められてるんだなぁ。あんな美青年に。
     ぼうっとそんなことを考えながら、キッチンでカップを洗う。
     きっとチェズレイはどっちも未経験だろうから、俺がネコ側やるのが妥当なんだろう。
     でも、あいつは知らないかもしれないが、セックスなんてのは時としてみっともなくて滑稽なものだ。ただでさえこんな――あの美しい男にこんなおじさんの喘ぎ声だとか痴態を晒すなんて、とてもじゃないができない。我慢すればいいだけの話だなんて言わないでほしい。人生で初めてこれだけ惚れた男に求められて触れられて、抑えられるだけの自信がないのだ。
     それが恥ずかしいなんて可愛い感情ならまだどうにかできた。だが自分が抱えているのは恐怖と惨めさ、とでもいえばいいのだろうか。
     も 853