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    ソファ棺展示作品

    以前オフ会合同誌に掲載させていただいたものです

    #94
    #腐向け
    Rot
    #ロナドラ
    Rona x Dra

    紫梅と氷砂糖  紫梅と氷砂糖       

    「第1回梅仕事大会を開催しよルドくん」
     日が沈み切らぬリビングで、大きく高らかに吸血鬼は謎の大会を宣言した。
     事の始まりは数日前、下等吸血鬼退治の依頼人が報酬だけではなく甘酸っぱい香りのする大量の青梅をダンボールいっぱいくれたのだ。「田舎から送ってくれたんですけど、私ではどうにも持て余してしまって。ドラルクさんはお料理が上手だと聞きましたのでよろしかったらどうぞ」と。
     ドラルク自身も梅を使ったことはなかった、らしいがならなんで貰って来たのか……。
     理由は至極簡単だった。
     料理上手と言われ、できないと断ってしまうことがプライドの高いあいつはゆるせなかったらしい。
     それからは帰ってきてから難しい顔をしてスマホを睨みつけていた。その後は、わざわざ買い物に連れて行かれて重量級の荷物を持たされた。
     そして今日である。新しい食材を前に嬉々として腕まくりをしている。
    「なんだよ梅干しでも作んのかよ?」
    「脳筋ゴリラめ梅=梅干しとは単純すぎるぞ。ヴェー!」
     俺の拳があいつを貫く。当たった瞬間、塵へと変わったがすぐに元に戻っていた。
    「全く、すぐに暴力に訴える。梅酒を作るんだよ。あの大量の氷砂糖と瓶を運んでいて気付かないものかね」
     どうりで重たいわけだ。しかし梅酒なんてどうやって作るんだ。
    「ふふふ、あの大量にあった梅達は洗っておいた。これから君たちにしてもらうことはこれだ」と1本の竹串を渡された。これで何をしろと?
    「梅のヘタをとるんだよ。ほじほじっとね」
    「はぁ?これ全部」
     ダンボールにひしめき合っていた梅達は家の中にあるボウルやら鍋が総動員するくらいの量である。これを全てどれだけかかるのか……大変骨が折れそうな仕事だ。
    「大量だからねぇゴリラの手でも借りないと大変だから……スナッ」
     うるせぇ誰がゴリラだ。
    「じゃあジョンと一緒に頑張って!私は次の準備があるから」とキッチンへと引っ込んで行った。
     残された俺とジョンは作業を始める。山の中から1つ掴み取ってヘタをとる、慣れない作業のため初めのうち何個かは勢い余って梅を串刺しにしてしまった。
     ジョンを見ると自分の爪を爪楊枝の代わりにして上手にヘタを取っていく、「仕方ないなぁ。ヌンのをよく見るんだよ」と、まるで弟にお手本でも見せてやるように教えてくれた。
     ジョンの優しさもあり、20個を超えたら慣れてきて穴だらけの梅を作ることも無くなった。
     一度形にハマったら黙々と作業を進めていく。実を取り、窪んだところに竹串を刺してひねる。ポロリとヘタが取れてボウルに移す、そしてまた次のもの。
     30分もしたところでやっと終わりが見えてきたと思ったら、キッチンからドラルクがやってきた。
    「お疲れー、これもお願いね」
    「はぁ?まだあんのかよ」
    「これはちょっと特別なやつだから別にしておいて欲しかったんだよ」
     特別と言われたそれは先程の青梅とは違い、かなり小ぶりで何より色が全く違っている。。
    「これも梅なのか?もう梅干しみたいな色してるけど」
     色は赤っぽい紫色をして梅干しのようだが果実はまだ固く、顔を近づけると甘酸っぱい香りがする。
    「パープルクィーンと言う品種らしいよ。市場にもあまり出回らないんだそうだよ。この前の依頼人のご実家は梅農家で貰ったのの中に混じっていたんだ」
     ふーん……と言いつつ先程と同じように梅仕事へと戻った。
     今度こそ、目の前の梅を殲滅したところでテーブルの上に大小様々な大きさの瓶、これまた大量の氷砂糖にホワイトリカーが用意されていた。
    「じゃあこれを梅、氷砂糖の順番で詰めていくから」黄緑と透明な結晶の層が瓶の中で層を作りそこに液体がが注がれていく。1つ、2つと完成してふと気付いた、こんな大量な梅酒をだれが消費するのか?
    「おい!こんなに飲めるわけないだろ」
    「クソ造、独り占め前提で話してるのか。お前は原始人か?全部俺のもんだウホ、ってか?おすそ分け用だ。はい、バカー」
     ゴッ、と拳が条件反射的にドラルクに当たる。煽られるとつい手が出てしまった。ドラルクは再生しながら1つの瓶を手渡してきた。先程のと比べると少し小さめのそれの中に紫の梅と氷砂糖が詰められていた。
    「お酒が苦手なお子様にはこれ」
     ホワイトリカーは入っていないそれはパープルクィーンで作られた梅シロップの瓶だった。
    「おすそ分けするには少ないし、今年は暑くなるって言ってたからこれをソーダで割って飲めばいい、疲労回復にもなるし」
     先程まで暴言を吐きまくっていたあいつの口からそんな言葉が出て、こちらも言い返そうとしていた言葉が行き場を失ってしまった。
    「出来上がりは綺麗な紅色になるらしいよ。デザートにゼリーを作ってもいいねぇ」
     そう言いながらジョンと楽しそうに話をしている姿を見て考える。大人になって誰かが自分のために料った物を食べることはなくなった。
     ドラルク自身は自分が作ったものを食べることはない。今はあいつか料ったそのほとんどは使い魔のジョンと俺の腹に入っている。
     少なくとも俺はこいつにとっては体調を気遣う様な相手であり、俺のに関わりのある人達にこうやって手間をかけたものをおすそ分けしようとしている。
     何とも不思議な心境だ。でも、決して嫌ではない。
     氷砂糖を一粒手に取る。氷の様だが、体温では溶ける様子もない。小さい頃に集めていた綺麗な石のようなそれは瓶の中で紫の果実と混ざり、数ヶ月もすればとろりと甘いシロップになる。
    「いつ飲めるんだよ」
    「一、二ヶ月もすれば。この夏いっぱいは楽しめるはず」
     作業中にドラルクはウンチクを話していた。
     梅雨とは梅の雨と書く、この時期に梅仕事をして長雨の季節から夏への季節の移り変わりを感じるのが日本の食の営みなのだそうだ。
     これから梅雨がやってくる。
     じめじめして俺は苦手だけど、梅雨があけたらドラルクの作ったほんのり紅くて甘酸っぱいシロップがある。それだけで今年は長雨の先が楽しみになった。
    「なに?にやにやして気持ち悪いんだけど」
     怪訝そうな顔をするドラルクを「うるせぇ」といつものように蹴散らしてまた瓶の中身に目をやる。
     氷砂糖のような心がじっくりゆっくり溶かされていく。それが甘い甘い時間を作る、積み重ねられて四季を彩る。
     来年も、再来年もそのまた先もこうやって作れたらきっとそれはとても幸せなことだろう。
     でも、直接はこそばゆくて今は伝えることなんてできそうにもない。
     この透明の結晶が溶けきる頃には俺は言うことができるだろうか。
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