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    みずなら🥃

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    本編後の🍋が、🍊を失っても淡々と日常を続けるお話。🐞も出てきます。安定の不運ポジ。
    (※パーソナリティdisorder系🍋注意)

    #🍊🍋

    We Never Fail 俺は、やっぱりどっかおかしいのかもしれねえな。

     朝が来れば起きる。メシを食って歯を磨いて身支度をする。その日その日の仕事をこなし、夜にはまたベッドに潜る。目を瞑って、夢も見ないで、深々と眠って、そしたらまた朝が来て、起きる。その繰り返しだ。
     あいつは死んだのに。
     最後に握った手は、固くて冷たかった。死んだ体特有の手触り。
     傷口も見た。破れて焦げた皮膚も、そこらじゅうに飛び散った血の跡も、何も言いやしねえ唇も、だらしなく閉じたまま俺を映そうともしねえ目元も。
     あいつは死んだのに、俺は、日々を繰り返してる。
     食えるし、寝れるし、働ける。二人分が一人になったから厄介なことはあるが、それだけだ。

     メールをチェックして、セキュリティのかかった添付ファイルを確認して、依頼内容と依頼相手を頭に叩き込む。ついでに、依頼者に関していくつか調べて可能な範囲で裏取りして、余計な面倒事が隠されてないか確かめる。それが済んだら提示されてる報酬額を見て、割に合うと思えばOKの返信を送る。
     全部、タンジェリンがやってたことだ。でも今は、俺がやってる。
     コードネームはあれからずっと変えてない。いつも、仕事の度に代わるそれを考えてたのはあいつだ。仕事が全部済んで、根城に帰って、エールなんぞを開けて「今回も俺たちは最高だったな、“〇〇”」とあいつがニカッと笑って、俺の肩を抱いて頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。それがその都度のコードネーム解除のお決まりの合図みたいになってたから、だから、俺は今もレモンのままだ。
     【双子Twins】が一人になったと知れて、いっときは依頼はがっくり減った。それでも、今まで俺たちに回ってきてたような“他の誰の手にも負えない厄介な案件”を持て余した奴が連絡してきた時は、俺は今まで通り請け負った。仕事が片手落ちになるんじゃないかとバカな想像をして報酬を渋ってくる手合いには、「バーガー屋のバイトじゃねえんだ、頭割りだの時給制だのってもんでもねえだろ、結果は今までどおり出すんだからケチんじゃねえよ」と言い置いて、実際に抜かりなく依頼を片付けてみせた。金に執着があったわけじゃねえが、そうした。
     報酬を渋られるのも、仕事の質が落ちるのも、【双子】が疎かにされてるみてえで我慢がならなかった。意外と細かいことまでマメだったあいつの分も立ち回るのは手間ではあったが、嫌ではなかった。
     さあ、今日も仕事の時間だ。
     オートマと、リボルバー、一丁ずつをショルダーホルスターに突っ込んで、ジャンパーを羽織って、ドアを出る。

    * * *

    「……あ」
     目の前で頬をひきつらせていびつな笑みめいた顔を浮かべている男に、レモンは怪訝な視線を送る。
    「同業者か?」
     眠たげに見える目元に“邪魔をするな”という剣呑な意志を込め、眼を眇める。
    「いやいや! まさかまた忘れたのかよ? あんなことがあったのに──」
     “しまった”、と口元を抑え、軽率な発言を後悔するような表情で反応を伺う幸薄そうな男。どことなく見覚えのある造作と、その不用意な発言で、レモンは思い出す。
    「ああ、あんた。あー……そうだヨハネス」
     ヨハネス、と呼ばれた男は、“そうそう”とでも言いたげに小さく頷く。それから、自分の方を向いている銃口にちらりと目線を送りつつ、そろそろとレモンに問いかけた。
    「ええと……もう、怒ってないんだよね? その──」
     言い淀んだヨハネスの言葉尻をレモンが拾う。
    「あんたのせいで、タンジェリンが死んだことか?」
     ばっ、と明らかに警戒した反応をヨハネスが見せる。が、彼の予想に反して、レモンは落ち着いた様子で淡々と言葉を紡いでいた。
    「うん、そう……」
     油断させようという作戦なのか、と内心身構えているヨハネスの心を知ってか知らずか、同じ調子でレモンは話し続ける。銃を持つ手はぴくりとも動かさないまま。
    「まあそりゃめちゃくちゃムカつくけど、あんたちゃんと謝ったしな」
     表情の読み取りにくい顔を、ヨハネスはまじまじと見つめる。深く澄んだようなレモンの眼球の白黒のコントラストにふと呑まれそうになり、慌てて強く瞬きする。
    「それに、タンジェリンは死んだけど、“いる”から」
    「……君、もしかしてオバケとか見えちゃう人?」
     おそるおそる口を挟んだヨハネスを、レモンは一笑に伏す。
    「何言ってんだ、そんなもんいるわけねえだろ」
     真っ白な歯を見せて大口を開けた笑い顔に、困惑しながらもヨハネスはつい警戒を緩める。
     が、続いて繰り返されたレモンの言葉に、警戒とは違う緊張と怖気おぞけが彼の背を駆け上がった。
    「あいつは死んだけど、“いる”んだ」
     いっそおそろしいほど穏やかな表情で、当たり前のこと、例えば「お湯は熱いよな」とかそんな幼児でも知っていることを言うような調子で、レモンは微笑む。
    「……どう、いう──?」
     訝しみ、同時に何かわからない空恐ろしいものを覚え、ヨハネスは口の中の渇きを感じながらそれだけ呟く。
    「あんたには分からねえか。あいつと会ったの、あの日だけだもんな。でも、俺にはわかる」
     知らない人が見たら人好きのしそうな微笑を浮かべたまま、レモンは話す。淡々と、滔々と。
    「タンジェリンは今こう言ってる。『ファック! こいつのせいで俺がどんな目に遭ったか! お前も見ただろレモン、ああクソ、なんで銃もナックルもねえんだ?! おいレモン、お前、代わりにこいつを撃てよ!』」
     声真似をするでもなく、表情を歪めるでもなく、よく響く低音の声が紡ぐ台詞にヨハネスが怯えの色を見せる。
    「う、撃たないよね……?」
     レモンの手にしっかりと握られたオートマ銃は、照準をぴたりとヨハネスの眉間に据えている。
     ふっと、綻ぶように唇の端を緩めて、レモンは答えた。
    「いや、俺はあんたを撃ちたいとは思ってねえ。どうあれ、あんたは謝った。潔く謝れるのはいいことだ。過ちを認め、許すことが成長だって、俺はトーマスからそれを学んでる。だからちゃんと謝ったあんたを、殺しちまうのは良くない」
     レモンの構えていた銃口が地面へと逸れ、明らかにほっとした気配がヨハネスの全身から溢れる。が、レモンは間髪入れずに続けた。
    「でもな」
     変わらず穏やかな表情。
    「タンジェリンはこう言うんだ、『なに寝ぼけたこと抜かしてんだ いいか、こいつはこんな優男ヅラしてやがるが、芯の芯はディーゼルだ。俺を信じろ、とりあえず撃て。あとはそれから考えろ』ってな」
     瞬間、レモンが纏う雰囲気に、ヨハネスのよく知る不穏なものが混じる。殺気だ、と、考えるより先に肌で察したヨハネスは身構え、懐に忍ばせている武器に手を伸ばすが、その時にはレモンが新たに取り出したリボルバーが再び彼を見据えていた。
    「だから俺はお前を撃たなきゃならねえ。悪いな。俺はタンジェリンを信じてるからよ」
     優しい微笑み。
     容赦ない銃口。
     そのコントラストにくらくらする。底の見えない白と黒の眼に、吸い込まれる。
    「君……やっぱりイカレてるよ」
     錯覚に呑まれそうになるのを、そんな呟きを発することで辛うじて耐える。
     ヨハネスも素人ではない。どうすればこの場を切り抜けられるか、無意識にも近いレベルで算段を練っている。その彼の経験と本能が、限界値の警鐘を鳴らし続けている。
     この男はヤバい。
     イカレ方にも色々あるが、これは、どうしようもなく、ヤバい。
     冷や汗の止まらないヨハネスに、幼子の笑顔にも似た、無邪気な微笑みが答える。
    「知ってる。ガキの頃からどうやらそうなんだよ」
     リボルバーの引き金にかかっている指に力がこもる。わずかなその筋肉の動きを、戦いに慣れてしまっているヨハネスの視力が拾う。
    俺たち・・・は、だから、一緒にいる・・んだ」
     銃声。
     リボルバーが、オートマに比べ引き金を引くのに多少時間のかかる構造であることが、ヨハネスを救った。弾は頬を掠ったものの、命中はせずに轟音の名残だけを彼の耳に残す。衝撃で眩む脳をなんとか奮い立たせ、相変わらず不運なのか幸運なのか分からない己の運命を思いながらヨハネスはその場から逃げ出す。

     一瞬、追おうかどうかと逡巡したレモンは、結局リボルバーをまたホルスターに収めた。
     あの男を殺るのは、今回の依頼の本筋じゃない。優先順位は仕事だ。俺たちは決してしくじらねえ【双子】なんだから。
    わりいな。外しちまったわ。リボルバーは慣れねえ」
     でもお前の・・・分なんだからそっちで撃つべきだったよなあ? と虚空に向かって問えば、『そんなとこで律儀に筋通してんじゃねえよ』と不服げにタンジェリンが答え、レモンは苦笑する。

    * * *

     あのヨハネスの野郎の言ってた通りだ。
     俺は、やっぱり、どっかおかしいのかもしれねえな。

     あいつは死んだ。
     でも、心は穏やかだ。
     あいつがいるから。
     姿は見えねえ。声も聞こえねえ。幽霊なんて代物でもねえ。
     でも、いる・・
     俺にはわかる、いまあいつが何を思い、何を言い、何をするのか。

    『おら、ぼさっとしてんじゃねえぞ! とっとと依頼片付けてこんな辛気臭いとこ出ようぜ。どうしたらいいか、分かってんだろうな? 言ってみろ、三単語スリーワードで』

     俺は笑う。ああそうだな。そんで、帰って、エールを飲もう。俺の肩に回される腕も、髪をかき混ぜる手もないから、俺はずっとレモンのまま、お前もずっとタンジェリンのまま、そうしてまた眠って、起きて、メシを食って歯を磨いて身支度をして仕事に行って、何度でも俺たちの家に帰ろう。
    「We Never Fail、だ」
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