Now, let's talk about justice.「これから正義の話をしよう」
ぴたりと銃口を相手の眉間めがけて構え、タンジェリンは静かにそう告げる。
その表情は微笑めいても見えるが、感情は読み取れない。
淡々と、言い含めるように続く声は、いつもの彼の饒舌とは雰囲気を異にしている。
「たぶん聞いたことあるだろ。簡単な思考実験だ。俺がこれからする質問に、二十秒以内に答えろ」
銃口を向けられ、命運を握られた男は、殴られて床に倒れ込んだ体勢を立て直すこともできないまま、呆然とタンジェリンを見つめている。死角から人外めいた力で吹き飛ばされ、事態がまだ把握しきれていないのかもしれない。あるいは、脳震盪でも起こしているのか。
「ここに線路があるとしよう。お前はそこで、暴走したトロッコに乗ってる。すぐ先には分岐が待ってる。右に行けば一人を跳ね飛ばす。左に行けば十人を跳ね飛ばす。てめえにトロッコを止めることはできねえ。できるのは、分岐レバーを右か左に倒すことだけだ。さあどうする?」
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