Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    みずなら🥃

    @wtv_u_r

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 31

    みずなら🥃

    ☆quiet follow

    すぐ不機嫌になったりすぐ言い合いしたりする柑橘双子の小話。仲良くケンカしな。(ネタ元ツイートツリー https://onl.bz/iMGuWa3

    #🍊🍋

    Cranky Twins 今回の依頼は、明快・軽快・痛快の三拍子揃った気分のいい仕事だった。
     依頼主は、地元のギャング。依頼内容は、最近この辺りで幅を利かせている無許可の武器密売業者の一掃殲滅。“無許可の密売”ってのもおかしな言葉だが、要は『みかじめも払わないチンピラにうちのシマ荒らされちゃ黙ってらんねえ』って話だ。
     下手な小細工も不要、下準備も簡単。なんせ、外れの埠頭にある倉庫を襲って、全員殺っちまうってだけの話だ。その場にある武器の回収は依頼内容に含まれていない。ついでに奪って自分のところで捌けば一石二鳥になりそうなもんだが、どうやら商売敵の商品で儲けるのは矜持が許さねえらしい。今どき、利に走らない昔気質ってのも融通が効かねえもんだとは思ったが、個人的には嫌いじゃない。むしろ、好きだ。
     そういう相手だから当然交渉もスマートで、変な値踏みやひねくれた駆け引きもナシ。さほど大口の案件ってわけでもなかったが、事前準備から後始末までの手間や負担が極小であることを考えると、費用対効果コストベネフィットは破格の依頼だった。

    ***

     今日は、肉弾戦は極力避けること。そう自分に言い聞かせつつ、ピッタリとした手袋を両手に嵌める。隣ではレモンが同じ動作をして、「この張り付く感じ、好きじゃねえんだよな」なんてぼやいてる。
    「すぐ終わるからガマンしとけ」
     俺のその言葉を合図に、最低限の装備で、奇襲よろしく倉庫にぶち入る。
     人気のないこの埠頭の、余人には覗けないはずの堅牢な倉庫の中ですっかり油断してくつろいでいた連中が、一瞬で色めきたつ。ざっと、十から十二人ってとこか。思ってたより少ねえな。
     ヒュウ、とレモンの唇から軽妙な音が鳴った。
    「こりゃまた、圧巻だな」
     だだっ広い倉庫のあちこちに山を成す、不穏に黒光りする武器の数々。
    「改造まで請け負ってやがんのか」
     作業場めいた構えを見せている奥の一角へ視線を投げると、その近くでポーカーに興じていたらしい奴らが緊張をみなぎらせた目で睨んでめいめいに銃口を見せつけてきた。
     当然、そんなことで怯む俺たちじゃない。
     アイコンタクトの必要すらなく、呼吸を合わせて左右に割れる。手近な山から武器を取っては、敵さんに向かって試し撃ち・・・・、すぐに次の山に手を伸ばす。
    「なるほど、思ったより良質な商品扱ってんじゃねえか」
     弾切れもコストも考えず好き放題ぶっ放せるのは、愉快でたまらない。向こうで暴れてるレモンも、普段より楽しそうだ。
     初動で二、三人は仕留めていたが、相手もさすがに荒事を生業にしているだけあって対応慣れは早い。まだ数ではこちらが不利だ。あまり形勢を立て直す余裕を与えたくはないんだが──
     とそこで、ちょうど改造したばかりらしい武器の中に、小型の機関銃マシンガンを見つけて好奇心が疼く。
    「レモン!」
     注意を促すために声を張り上げ、そいつを掲げて見せる。一瞬目を見開いた直後、あいつはさっと身を屈めた。それを視界の端で確認すると同時、下半身に力を溜めて軸を安定させた状態で、上半身を捻れるだけ捻りながら弾を撒き散らす。想定していたよりも反動はライトで、しかし威力は十分。やっぱり質はいいこの場の武器をそのままふいにしちまうのは勿体ねえなあ、と一瞬思う。だが、下手にこっそり持ち出して後々バレたりなんかした日にゃあ、とんでもなく厄介なことは目に見えてる。せめてこの場で楽しめるだけ楽しんどこう、と、撃ち終えた軽機関銃を投げ捨ててまた別の獲物に手を伸ばす。と言っても、今ので半数は殺っちまったから、そこからは本当にあっけなかった。
     時間にして十分足らず。少々物足りなささえ覚えつつ、ポリスが駆けつける前にと車へ戻る──っと、その前に。
     その辺で倒れてた奴らの懐をまさぐって、見つけた金を多めにポーカーテーブルの上にばら撒いた。
     これで、“お遊びの賭け事でついアツくなって仲間割れ”の現場の完成だ。
     遠く響き始めたサイレンの気配がはっきりした形を取る前に、俺たちは宵闇に紛れてその場を離れた。

    ***

     首尾は上々だったってのに、助手席のレモンは浮かない顔をしている。
    「どうした。腹でも減ったか?」
     別に、と答えた声にはいよいよ不満げな色が滲んでいて、横顔はそっぽを向いてしまった。こっちはハンドルを握ってるからがっつりそっちを振り向くことはできない。ちらちら視線を送りつつ、原因不明のご機嫌ナナメの理由を探ろうと試みる。目に見える怪我はしてなさそうだし、どこか痛めたって感じでもない。
    「んだよ。感じ悪ィぞ」
    「俺はいつもこうだろ」
    「そりゃニコニコヘラヘラはしてねえけどよ。そんな風にぶんむくれてもねえだろうが」
    「んなことない」
    「いいや、ある」
     埒のあかない、水かけ論だ。俺たちの間で他愛のない言い合いはしょっちゅうだが、こういう奥歯に物の挟まったようなのは気分が良くない。
    「なんか言いたいことあるんだろ。言えよ」
     俺たちがなんだかんだ今まで上手くやってこられたのは、遠慮会釈のない付き合いだからだ。物心つくかつかねえかの頃から一緒に過ごしてきた兄弟ならではの仲。だからこそ、こういうのは捨て置けねえ。
     暗黙のうちに向こうもそれを察したのか、そっぽを向いてた頭がまた横顔に戻り、ぷっくりした唇が小さく動く。
    「……俺が……たかったのに」
    「あ? 何? 声が小っちゃくて聞こえねえよ」
     カーブを切った時にひときわ高くなったエンジン音が邪魔をして、本当に聞き取れなかった。
     俺がそう聞き返したのが気に食わなかったのか、レモンは一転、噛み付くように大声を上げて吠え立てる。
    「俺が! あのマシンガン使いたかった、って言ったんだよ!」
    「──はあ?!」
     お前そんなガキみたいな理由でむくれてたのかよ? と思った瞬間、つい吹き出してしまう。
    「ぶ、っっははは! おま、そんな……痛っで!!」
     容赦のない平手で横っ面を叩かれた。
    「危ねえだろうが! こっちは運転手様だぞ!」
    「うるせえな! これくらいで操作ミスるようなヘボドライバーが悪い」
    「てっめ、俺が手ェ離せないのをいいことに……!」
     喉の奥で呻きながら、ふと気づく。
     こいつが、こういうどうしようもなくガキくさい姿を見せるのは、俺の前でだけだ。
     あのクソ機関車の話をどこでもかしこでも始めちまうのと、同じくシールを常備しているってのは幼稚くさいが、実際はこいつは相当クールだ。どんな時もマイペースで、戦闘になっても冷静な判断を失わなくて、滅多なことじゃ笑わなくて。
     俺だけが知っている、こいつの姿。
    「いつまで笑ってんだよ。頭イカレたか?」
     助手席からの不機嫌なぼやきが、また俺の肩を小突く。ずいぶん低くはなったが、その声の響き方は小学生プライマリーのころとちっとも変わらない。
    「いや、別に? 気分良いなあと思ってよ」
    「俺は良くねえって言ってんだけどな」
     声にちょっと呆れが混じる。ああ、これは“お許し”の合図。俺たちはすぐ言い合いになるが、飽きるのも早い。
    「じゃあ一緒に気分良くなるか。角のあの店のグリルドチキンサンド。ホットポテト付き。どうだ?」
    「……チーズは増量ダブル?」
    「トリプルまでOK」
    「俺はコーラな」
    「“キュリオスティ”?」
    「当然だろ」
     こいつの機嫌の取り方も、好物だって知り尽くしてる。
    「アイアイサー」
     ふざけて船乗りの返事をして、俺は今日も俺たち二人の命運を乗っけたハンドルの舵を切る。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏😍😍😂💖🍊🍋💖💴💖💘💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works