If we were married couple... 俺たちは間違いなく好相性の二人だ。そいつはこれまでの人生が証明してる。
だが、気が合うってことは、似た者な部分もあるってことで、“同族嫌悪”って知ってるか? 自分に似た奴に、人間は──なのか動物は、なのか知らねえが、とにかく反発しちまうらしい。
お互い我の強いところのある男同士、一度ケンカ腰になっちまえば、おいそれと引くわけにはいかない。気の置けない仲で居続けたいからこそ、どっちかが弱腰になってあっさり折れて済ます、なんてのは頂けない。
そういう訳で謝罪のタイミングをいつも逃しては、今みたいにビミョーな空気の部屋でテーブルを差し挟んで二人むっつり押し黙る羽目になる。
でも、実はそれほど深刻には捉えてない。これもまた似た者同士ってやつで、俺たちは互いへの怒りをそんなに長続きさせられない。どうせあと小一時間もすれば、何事もなかったかのように晩飯の相談なんてしてるんだろう。
──そこまで分かってるのに、どうしていっつもこうなっちまうかなあ。
盛大に溜息を吐けば、明後日の方を向いてた兄弟兼相棒が振り返る。ほらな。仏頂面だけど、目は怒ってねえもんな。
静かで深い、ビターチョコレート色の眼。一見真っ黒に思えるが、よほど近くで見ないとその本当の色は分からねえ。もしかしたら、あいつ自身と俺しか知らないかも。
「なんだよ」
向こうも、俺の眼を見て、もうさっきまでのいがみ合いは終わったのを察したんだろう。不思議そうな、というよりは怪訝そうな顔で訊いてくる。
「なあ、思ったんだけどよ。俺たち、どっちかが女だったらもっとうまくいったのかね?」
「あ? 話が読めねえよ」
「どっちかが女で、兄弟じゃなくて、例えば恋人だとか、夫婦だとかよ。そういうんだったら、こんな意地の張り合いで無駄な時間使うことも少なかったんじゃねえか、ってな」
はあ? と素っ頓狂な声をあげつつ、それでも一応考えてはみてるらしい。
「──いや、それはねえだろ。夫婦だったらとっくに離婚してる」
考えた末、俺の仮説はにべもなく却下された。
「離婚っておま……え、ちょっと待てよ。お前、今まで俺とコンビ解消してえな~とか考えたこともしかして……ねえ、よな……?」
正直、辛気くさい部屋ん中の空気を変えるためのジョークのつもりだったのに、迷いなくきっぱりそう言われて、急に胸ん中がざわつき出す。
嘘だろ、なあ、お前涼しい顔してそんなこと考えてたのか? 違うって言えよ、ケンカなんてガキの頃からしょっちゅうしてるだろ、どこだ、いつどこでそんなこと考えた? 今からでも謝る、正真正銘ちゃんと謝るから頼むからそんなこと──
「いや。だとしたらそれこそ、とっくにここにはいねえよ」
“ここ”と言いながら、俺たちが腕を乗せてるテーブルを叩くピンクの爪。その指がそのまま上に向かってって、奴が頬杖をつく。
押し上げられた頬のせいで、にんまり笑ってるみたいになる。そのツラは知ってるぜ。お前が悪戯仕掛けるときの顔だ。俺が驚くのを期待してる、そんな顔。
何をしやがる気だ、と内心構えてる俺の目の前で、ぽってりした唇がゆっくり開く。
「だから、俺は、お前と兄弟で本当に良かったと思ってるぜ?」