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    ponpan_punpan

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    人外マシュレイ
    人間マが土地神さまのレ(九尾)と出会うところ
    マが迷ってるだけ
    レは最後ほんのちょっと

    マが色々あって人じゃなくなって、レと一緒になる予定

    続くかも

    勢いで書いたクオリティです

    人外マシュレイ薬草や山菜、木の実。キノコはひだの裏や模様をちゃんとよく見て、確実に食べられるものを。腰から下げた袋と手持ちの編みかごは、慣れた手つきで既にいっぱいになっていた。

    「〜〜、たいりょうたいりょう。さて、そろそろ帰りますかな」

    手を頭上で組んで、立ち上がり伸びをする。しゃがみ続けて縮こまっていた若々しい身体を、年寄りじみた唸りと共にマッシュは解した。今しがた採った葉物と家にある根菜で汁物でも作ろうか。昨日釣った魚も残っているし、塩でも振って焼けばばっちり。
    道端のゆすらごの実を拝借。口の中で果肉を弾けさせ、ぷっと種を吐き出しながら夕餉の算段を。瑞々しい甘酸っぱさが一仕事こなした身体に沁みれば、足取りも軽くなる。くるぶしくらいまで編まれた藁を履く足が向かうのは、一人暮らしの何の変哲もない我が家だ。

    「…………あり?」

    今いるのは住んでいる村の最南に位置する山。小さい頃からよく遊んでいて土地勘はしっかりあるし、方角を読む術も身に付けている。鹿とかヤマドリとか、たんぱく源を獲りに来たわけでもない。獲物を追って深入りもしてないし、手前の方で日々の糧を集めていた。なのに、何故か。マッシュは帰り道を迷っている。

    「お?さっきも通んなかったっけ?」

    苔むした石が四つ並んで危ない橋になっている小川、大人三人は座れるだろう、幾重にも幾重にも輪が刻み込まれた、大樹の切り株。小川はひとっ飛びして、右手に見えた立派な腰掛け代わりを見やり、「ひこばえがいっぱい生えてきたなー」なんて思った。それも、ついさっきだったはず。
    もう一度。同じように飛んで、同じものを見た。今度は少し進めそうで、そのまま野草達の低い茂みをどんどん降りていく。湿り気を多めに含む土と所々に集まって咲いている紫陽花がこの時期のこの土地の薫りを運んでくれるので、迷子の心はいくらか和んだ。傾斜が緩やかになってきたから、そろそろ。──ドンピシャ。平地になって馬車の幅、踏み均された草のない土の道。正面にまだ小さいが、二手に分かれたこの道と、分岐にあるそこそこ大きな樫の木を捉えた。赤いボロ布が幹に巻かれているから間違いない。道案内の木だ。それに近づくにつれ安心感は増していくが、金物の音が風に乗ってどこからか聞こえ始めた。誰かが鈴でもひっかけて忘れていったのだろうか。それなら届けてあげたいと思いきょろきょろするも、マッシュの視力をもってしてもそれは見つからない。村の女の子にでも伝えてあげれば心当たりのある人が、陽が高いうちにでも探しにくるだろう。ひとまず下山を優先して捜索は今、しないことに。もうすぐ出入り口、村の端にひっそりとある家はすぐ近くだ。樫の木の正面までやって来て、村の方へ、右に曲がろうと足先を向けた瞬間──シャン、と一つ。凛とした鈴のような音が頭の中に鳴り響いた。

    「…?ッ……!」

    澄みきった音が失せ、目を瞬く。時が止まったような、世界に空白があったような。けれど一瞬すぎて理解が全く追いつけないでいたら、目印の樫の木も忽然と消えていた。その代わり、目の前にあったのは常緑樹の間をまっすぐに上へと伸びる道だった。今、自身が立っているのはあの細道ではないし、下方に感じ始めていた村の生活音もまるきり聞こえない。いよいよおかしい、そろそろ戻らなくては日も暮れてしまう。夜の山は危険が増える。不穏な空気を肌で感じるも、ざああと道を覆う木々がざわめいて。──誘われるように、マッシュは足を踏み入れる。枝葉が激しく擦れ合う音に、他に進める道はないと彼の頭は思い込んだ。

    「おぉ、すげぇ──」

    獣道かもと警戒して歩を進めていけば、紫陽花が道の両端を色とりどりに飾っていた。シライトソウや矢車草もちらほら、よく見ると雨粒で透けたサンカヨウなんかも咲いていた。綺麗だなあ、こんなに花が咲いているところが近くにあったっけ?なんて状況にそぐわず呑気に坂道を観光していたら、森の音が無くなっているのに気が付かなかった。虫の羽音や鳥のさえずりどころか、土や砂利を踏む藁靴の音さえしなくなり、耳が拾うのはひとり言だけ。分かっていたのは、何となく空気が綺麗ということ。村の祭事前に穢れを祓い清めた時みたいな、厳かさ。それが登れば登るほど、純度を増していき胸を圧迫する。自分の足なのに立ち止まれなくて、自分の意思では止められなくなっていた。あ、これは僕……人が来てはいけない所かもしれない。ようやくよぎった刹那、聞こえなくなっていたざわめきが再び起こって、強く背中を押されて登りきってしまった。

    「っとと……」

    珍しく、たたらを踏んだ。日はもう暮れるところだ。森が終わり一気に開けた視界と地面。今までの山道と違い、白っぽく乾いた土。そこに立つのは剥げも塗りムラもない立派な朱色の鳥居と、これまた立派な屋敷だった。
    檜皮葺きの優美な曲線の屋根を被る殿が大小、いくつもある。中心の一番大きいそれは渡り廊下で各所と繋がっているようだが、複雑でぱっと見では把握しきれない。庭には橋がかかった池と、盛りを過ぎた緑の桜の木。村長の何倍も豪奢な邸宅、都人や村長以上に身分の高い人物が、こんな小高い奥まりに住んでいただろうか?

    「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?道に迷ってしまって」

    引き返すにはもう手遅れな明るさだ。あいにく、明かりをつくる道具は持ってきていない。寝床を提供してほしいとか、飯を食わせてほしいなどと贅沢は言わないから、夜明けまで庭に寝かせてもらえないか頼んでみよう。身体は異様に頑丈なので一晩の野宿くらいへっちゃらだ。事情を話して下の村の者だと伝えれば多分大丈夫な気がする。お礼に力仕事や雑用をしてから降りてもいい。それにここに住んでいるなら武人ではないだろうし、斬り殺されたりはしないはず。これほど立派なお屋敷なのだ、下女の一人や二人は必ずいるから話を聴いてもらおう。あれこれ思案し、やることをまとめ終える。人の領域では無いという直感は、頭の片隅に追いやられていた。広すぎる庭に呼びかけながら、マッシュはとうとう鳥居をくぐってしまったのだ。

    「?」

    鳥居より内に踏み入った瞬間、全身に初めての感覚が走る。けれどそれは一瞬で、違和感の正体は分からなかった。なんだろうか?とりあえず変わったところはなさそうだけど。それより玄関や入り口はどこだろう?下女はうろうろしていないだろうか?首を左右に振って誰かいませんかを繰り返し、向こう見ずにズカズカ入っていくマッシュ。何度目かの右を向いた顔が正面に戻った時だった。一番大きな殿から西へと続く外回廊に目が留まる。遠いのと建物の壁で身体の大部分は遮られているが、人だ。横を向いているようだが、柱と顔の位置から自身と大差ない背格好であることは察せられる。

    「突然すみません、どうしてか迷ってしまったんです。怪しい者ではないので、外でかまいません。夜明けまでいさせ、て、もら…えな……」

    声をかけながら駆け寄るのと、人物が渡り廊下のへりにやって来たのは同時で。

    「ッ!」

    目線だけ寄越された。近くで見上げたら満月の色をした瞳で、不躾にも凝視してしまった。都の貴人が纏うもの以上に上等で滑らかな絹、それを幾重にも重ねて裾は床に擦っている。鳥居と同じ朱色の括り紐は村の巫女に近い装いだが、同色の腰紐で剣を携え、続く声も、釘づけになってしまったかんばせも、若い人間の男のそれではあって。しかし、否定できる要素が壁から露わになった。身体の後ろ、腰の辺りから雄孔雀の羽のごとく広がり、身の丈と同等か、もしかしたらそれより長いかもしれない。ふわりふわりと動いていたのは髪色と同じ、大きな大きな筆のような──金と黒の豊かな毛に覆われた、九本の尻尾。

    「………………人の子か」

    瞳と揃いの耳飾りが揺れている。人間の耳の方で。天に突き出ているもう一方は獣……もう少し具体的に表すならば、おそらくは狐の。穴を開けたり装飾はしていないが、人では聞き得ない何かを拾うのか、ぴくぴくと動いている。

    日が落ちた。庭に置かれたかがり火台全てに、独りでに火が灯る。落としたままだった編みかごから転がり落ちた、山の恵みの輪郭は朧げだ。

    ここは、神様のおわすところ。
    ──人が来ては、いけない世界だった。
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