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    ika_soomen

    @ika_soomen
    成人済。BL注意。現在ペルソナ4の足立透とデカダンスに関するネタ多め。
    長文はpixivに保管。
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    ika_soomen

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    過去に書いたななあだネタ(想定してる話から抜き出したワンシーン)
    小説機能のテストも兼ねて投稿
    17歳菜々子ちゃん捏造注意
    菜々子(17歳)→足立
    主人公→足立
    堂島←足立

    #ペルソナ4
    persona4
    #足立透
    adachiTurbine
    #堂島菜々子
    nanakoDojima
    #ななあだ
    colla

    ななあだ アナザーエンド※十年後設定。足立さん出所後。
    ※ななあだシリーズの分岐ルート。
    ※もう堂島家みんなで愛しちゃえばいいんじゃない?編


     足立さんをずっと目で追い続けていたから、だから、気付いてしまった。
     あの人が見ているものに。
     足立さんの視線の先にいる、人物に。

     あの人は表情を隠すのが上手だから、だから中々気付けなかった。
     でも、以前のように、お父さんに呼ばれてまた家にお酒を飲みに来る機会が増えて、
     酔いが回ったときにふと垣間見せる、その顔に気付いてしまった。

     お父さんを見ているときの足立さんは、表情が違う。
     どこかくすぐったげな笑みを浮かべて。
     でも、その瞳には、焦がれるような何かと、同時に諦めの色が宿ってて。
     私には、絶対に向けてくれない顔。

     だから解ってしまった。
     足立さんは、お父さんが好きなんだって。

     胸の奥が、ぎゅっと縮まった。
     その痛みがなんなのかは解らなくて、ただ息苦しくて。
     それでも、あの人から視線を外す事が出来なかった。
     気付いてしまった事に気付かれたくなくて、私は笑顔を浮かべる。

     ……こんな痛い笑顔があるなんて、知らなかった。
     ねえ、それなのに、どうして足立さんは笑えるの?
     お父さんの目の前で、どうしてそんな風に笑えるの?

     ――私は初めて、足立さんの心に触れた気がした。
     失恋と同時に、私は改めて、あの人に恋をした。
     お父さんを好きなあの人に、恋をした。



    *       *       *



    「……どうした、菜々子」

     久々に逢ったお兄ちゃんは、私の顔を見るなりそう言った。
     何時だって、お兄ちゃんには隠し事が出来ない。
     お父さんにだって、足立さんにだって気付かれてないのに。

     お兄ちゃんの顔を見て、気が緩んでしまったせいかもしれない。
     目の奥が熱くなって、じわりと視界が滲んで、慌てて瞬きする。

     私はきっと、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。

     お兄ちゃんは何も言わず頭を撫でてくれると、家に上がり、私のためにホットミルクを入れてくれた。
     ハチミツたっぷりの、子供の頃大好きだったホットミルク。
     お父さんに内緒で、たまに作ってくれたっけ。

     ソファに座って、お兄ちゃんからマグカップを受け取る。
     懐かしくて、暖かくて甘いミルクがじんわりお腹を温めてくれる。

     だから、思ったよりするりと言葉が出てきた。

    「お兄ちゃんは……足立さんが好きな人、知ってる?」

     お兄ちゃんは少しだけ目を瞠って、それから、優しい、労るような笑みを浮かべた。

    「……知ってるよ」

     それだけ言って、そっと私の頭を撫でる。

     ああ……そうか。お兄ちゃんは知ってたんだ。
     もうずっと前から。

    「……どうして?」

     聞きたい事が喉に痞えて、うまく言葉できない。
     どうして、教えてくれなかったの? どうして、止めなかったの?
     菜々子の事を応援するって言ってた、あれはどうして?

     声にならない言葉を、お兄ちゃんはちゃんと受け止めてくれた。

    「人を好きになる気持ちは、止められないだろう? 例え自分自身でも」

     お兄ちゃんの言葉に、お父さんを見る、足立さんの表情を思い出す。
     お兄ちゃんは私の隣に腰掛けると、そっと手を握ってくれた。

    「それに、菜々子の想いだってちゃんと足立さんに届いてる。
     足立さんも、菜々子の事は大事に思ってる。……それは解るだろう?」

    「……うん」

     お兄ちゃんの諭すような言葉に、素直に頷く。

     足立さんが私に愛情を向けてくれてるのは解ってた。
     それが恋とかじゃなく、ただの保護欲的なものだとしても……嘘じゃないのは解る。
     私を見るときの足立さんは、とても優しい顔をしてるから。

    「足立さんが誰を選ぶか、その時になってみないと解らない。
     だから、何も出来ないのは嫌だって言った菜々子を応援したかったんだ。
     ……後悔しないように」

     お兄ちゃんの力強い言葉が、励みになる。
     そうだ、ダメでもいいからぶつかりたいって言ったのは、私だった。

     揺らがないお兄ちゃんの瞳に、ふと不思議に思った事が口をつく。

    「お兄ちゃんは、何時から知ってたの?」

    「え? それは……」

     珍しく、お兄ちゃんが言いよどむ。
     じっと見つめて答えを待つと、観念したように苦笑して、口を開いた。

    「高校2年のときから、かな……」

     今度は、私が驚いて目を瞠る番だった。

    「俺と一緒に居る時の足立さんは、掴みどころが無い人で……
     笑ってるのにちっとも近づけた気がしなくて、その内に気付いたんだ。
     叔父さんや菜々子の居る前では、足立さんの表情が違う事。
     自然体って言うのかな……本当に楽しくて笑ってるんだなって、解った」

     お兄ちゃんの眼差しが、昔を懐かしむように遠くなる。

    「叔父さんも足立さんの前ではよく笑うし……
     菜々子も、俺には言わない我儘を言ったり、正直ちょっと、羨ましかった。
     俺の居場所が無くなるみたいで」

     驚いて、息を呑む。
     お兄ちゃんがそんな風に思ってるなんて、一度も思わなかった。
     だってお兄ちゃんはお兄ちゃんで、他の誰にも代われないのに。

    「でも足立さんの想いに気付いたのはもっと後になってからだった。
     あの人が俺に素顔を見せてくれたのは、全てが終わった後だったから……」

     静かに語るお兄ちゃんの瞳は、どこか痛みを孕んでいて。
     でも、同時に見せる切ない眼差しが、お父さんを見る足立さんの顔と不意に重なった。

    「もしかして……お兄ちゃんも、足立さんを見てたの?」

     お兄ちゃんの瞳が大きく見開かれる。
     長い長い沈黙のあと、お兄ちゃんはゆるゆると口の端に小さな笑みを浮かべた。

    「……ああ。ずっと、見てたよ」

     その声は、酷く痛くて。なのに、とても優しい笑顔で。
     何故だか胸がぎゅっと痛くなる。

     どうして? どうしてそんな風に笑えるの?
     足立さんも、お兄ちゃんも、辛いはずなのに、どうして笑えるの?

    「どうして……何も言わなかったの?
     お兄ちゃん、菜々子の事は応援してくれたのに、どうして……」

     色んな気持ちがぐるぐるして、上手に言葉に出来ない。
     お兄ちゃんは、私を宥めるように暖かい手で頭を撫でてくれて、静かな声で言った。

    「……好きだから、だよ」

    「……どうして……」

     解らない。
     解らないよ、お兄ちゃん。
     こんなに苦しいのに、お兄ちゃんの痛みが伝わってくるのに、
     どうしてそんな風に笑えるの。

    「俺はね、菜々子。あの人が幸せになってくれれば、それでいいんだ」

     お兄ちゃんの手が、頬に触れる。
     優しく拭われて、初めて泣いていた事に、私は気付いた。

    「俺には……出来ない。きっと、あの人の痛みを広げるだけだから」

     お兄ちゃんの言葉に、ぶんぶんと首を振る。
     お兄ちゃんは困ったように笑って菜々子の頭を撫でてくれた。

     違うよ、お兄ちゃん。
     確かに、足立さんはお兄ちゃんにちょっと意地悪だけど、
     でもお兄ちゃんの話をよくしてるの、菜々子知ってるよ。
     だってお父さんとお兄ちゃんの事ばかり話すから、ちょっと羨ましかったんだから。

     そう伝えたいのに、喉が詰まって言葉に出来ない。
     目の奥から溢れ出す涙が止まらなくて、目の前が見えなくなる。

    「だから、菜々子が足立さんにぶつかりたいって言ったとき、応援したくなったんだ。
     俺には出来なかった事を、菜々子はやろうとしたから」

     お兄ちゃんの言葉に、驚いて目を見開いた。
     涙でかすんだ視界の中に、お兄ちゃんの優しい笑顔が見える。

    「俺が怖くて出来なかった事を、菜々子は恐れずにやろうとした。
     いくら傷ついても、諦めずにあの人にぶつかった。
     菜々子なら、変えられるかもしれないと思った。足立さんを……」

     お兄ちゃんの目が、束の間遠くなる。ここに居ない誰かを見るように。

    「実際に、あの人は変わったよ。
     自分では気付いていないかもしれないけど……。
     足立さんが変わって行くのが嬉しい。
     少しずつ、あの人が世界を受け入れていくのが、嬉しい。
     ……だから、俺はそれでいいんだ」

     そう言うお兄ちゃんの瞳はすごく穏やかで、すごく優しかった。
     いつか見た、足立さんの顔と重なる。


    『大切な誰かが幸せならそれでいい。たとえ自分がそこに居なくても――
     そう思えるようになったのは、君のおかげだよ、菜々子ちゃん』


     ああ……そうか……
     あの時、足立さんが言ってた言葉……やっと、なんとなく解る事が出来た気がした。

     手の中のホットミルクを見下ろす。
     甘い甘い、ホットミルク。
     私はずっと、足立さんに甘くて温かくて幸せになれる物があるって教えたくて、ずっとそれを飲ませようとしてた。

     でも、もしかして。

     足立さんが欲しかったのは、これじゃなかったのかな。

     涙がぽとりと落ちて、カップの中に波紋を作る。

     足立さんがお父さんを見つめる瞳も、お兄ちゃんが足立さんを見つめる瞳も、
     きっと私が足立さんを見つめる瞳も、それぞれ全部違って、
     でも同じ人を好きになるって気持ちで。
     同じなのに、どうしてこんなに形が違うんだろう。

     手の中のホットミルクを、口に当てる。
     甘いはずのそれは、涙が混じって苦かった。
     でも、構わずぐっと飲み干す。

     最後まで飲みきって、底の方に溜まってた甘いハチミツの味を舌に感じながら、キッと前を向く。

    「決めた……菜々子、足立さんを幸せにする」

     その言葉に、お兄ちゃんが目を丸くした。

    「間違ってるって、思わない。
     だって、ちょっとぐらい苦くても、やっぱり甘くて温かくて幸せになれる物はあるもん」

     足立さんだって、知ってるはず。
     お父さんを見ていた足立さんは、確かにくすぐったげに笑ってたから。

     お兄ちゃんの手を握って、お兄ちゃんの顔を見返す。

    「それからね、お兄ちゃんも、幸せにする」

    「え……?」

     お兄ちゃんがぽかんと口を開けた。
     そんなお兄ちゃんを見るのは初めてだったから、思わずおかしくて笑ってしまう。

    「それでね、菜々子も幸せになるの。お父さんも一緒に、足立さんとみんなで、幸せになろ?」

     そう言って、お兄ちゃんに笑いかける。

     自分がどんな顔をしてたかなんて解らないけど、
     呆気に取られてたお兄ちゃんは、私を見て凄く優しい眼差しになった。
     そして、「菜々子には敵わないな」と言って笑った。
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