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    meei

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    リクエスト 幼なじみ  バレンタイン
    bllプラス 🐆 (チョコよりも)甘夢

    スピードスターも恋は慎重「あ、豹馬ー!」


    朝一番。学校へ向かう道中で俺の名前を呼びながら駆けてくるこいつは、俺の幼なじみ。



    「豹馬おはよう!」
    「おー」
    「あ、その言い方!また虎雪ちゃんに可愛くないって言われるよー?」



    虎雪は俺の姉ちゃんの名前だ。
    この幼なじみとは幼稚園からの所謂家族ぐるみの付き合いってやつで、俺の姉ちゃんとも仲が良い。この間も2人で手芸屋に買い物に行くとかなんとか言ってたし。





    「それでね、」


    登校中は、テストの範囲だとか部活だとか互いのクラスの出来事だとかの他愛のない話をする。

    別に、毎朝約束しているわけじゃない。
    ただなんとなくお互いが来るのを持つようになった。それだけだった。


    ちらりと横を見ると、楽しそうな声色で、昨日の授業中のことを話していた。


    「なんか変だなーって前の席の男子を見てたのね、そしたら急にガバッと立ち上がっちゃって」


    男子の話っつーのはなんとなく気に食わねーけど、楽しそうに話すこいつを見るのは嫌いじゃない。



    「それまで寝てたみたいでね?その後もずーっとぐわんぐわん揺れてるからもうおかしくっておかしくって…」



    そして、喉をくつくつ言わせながら笑う。笑い泣きした涙を拭う手には見慣れない少し大きめの紙袋が提げられていた。



    「なぁ、それなん…」
    「あ、もう校門!」



    豹馬と話してるとすぐ着くね〜なんて呑気なことを言いながら、自分の下駄箱へと向かう幼なじみ。
    聞きそびれた紙袋のことは…まぁ、あとで聞けば良いか、なんてぼんやり考えていると、ポケットに入れていたスマホが鳴った。




    "今日がんばってね!"
    "大変だったら私をだしに使って良いから!"



    今まで隣にいたあいつからLINEが送られてきていた。なんだ?と思って思わずあちらの下駄箱を見ると、遠くの方で親指を立てているのが見えた。



    「なんなんだよ…」



    と、小さく呟いて靴箱を開けた瞬間、靴箱には似つかわしくない大量の小箱が溢れ出して、先ほどのメッセージの意味を理解した。


    そうだ、今日はバレンタインデー。

    そういえば姉ちゃんが、チョコがどうのこうの言ってたな。



    一般的な男子にとっては浮足立つ一大イベントなんだろうが、俺としてサッカーの方が大事だから特になんとも思わない。

    ……つーか、好きなやついるし。


    だから毎年1つ貰えればそれで十分なのだ。



    ……ちなみにその好きなやつとは、先ほどまで横に並んで歩いていた幼なじみのことだ。

    ただ、あちらは全くと言っていいほどそんな素振りを見せないので、俺は幼い頃から培ってきたこの距離から抜け出せないでいた。

    けれど最近になって、俺がこのままプロのサッカー選手になったら、例えば付き合えてもパパラッチに追われてデートなんてゆっくりしてる暇はないのかもしれないと思うようになった。それなら、そろそろ一歩を踏み出して恋人らしいことをしてみたいとも思うようになっていた。
    そんな矢先の今日、願ったり叶ったりなイベントがやってきたのだ。


    告白するなら今日だな。



    そう静かに心を決めて、足元に散らばってしまった小箱を拾い集めた。




    —————
    ———





    "今日一緒に帰らないか?"


    その一言のために朝からあいつを探しているが、今日に限って全然捕まらない。


    向こうのクラスまで出向いて、周りの席やよく一緒にいる女友達に聞いても、その辺にいるんじゃないかなぁなんて曖昧な答えしか返ってこなかった。


    そうこうしているうちに、俺にも呼び出しがかかり、昼休みになった今、人気のない校舎の端でまさに告白されているところだ。



    顔を真っ赤にして好きだと言う目の前の相手は悪いが、俺の心はぴくりとも動かなかった。ごめんとありがとうを伝えると、その子は「こちらこそ聞いてくれてありがとう」と一礼してから、ろくに顔も見えないうちに教室の方へと走って行ってしまった。


    「はぁ……」


    顔も知らない子だった。
    一体俺のなにを見ているのだろう。顔だけか?なんて卑屈なことを思っていた頃が懐かしく思えるくらい、今では毎年の恒例行事として慣れたものだった。
    俺のこと知らないくせになんて言って断っていた頃に、気持ちは分かるけどもう少し優しく…と、あいつに諭されてからは幾分か柔らかい言い回しになったと思う。



    さて、あいつを探さねーと。


    ふと窓から下を見ると、校舎の陰に朝から探している人物を見つけた。

    上から声をかけようと窓に近づいた瞬間、後ろから一人の男子生徒が着いてくるのが見えた。

    そして、手に提げている袋から何かを取り出したあいつが、その男子生徒に渡していた。


    今日はバレンタインデー。
    つまり、そういうことなのだろう。



    殴られたような衝撃と共に頭の中が真っ白になって、呼吸をするのを忘れていた。

    毎朝一緒に登校して、互いの家を行き来して、部活の試合も欠かさず応援に来てくれる。そんな姿を見て、てっきり俺と同じ気持ちだと思っていたから、他のやつの可能性なんて考えたこともなかった。


    「あいつ、好きなやついたのか…」


    そう呟くと、相手が自分ではないことを余計に思い知らされて、胸が苦しくなった。





    そこからの記憶はほとんどなく、気づけば家のベッドに寝転んでいた。


    午後の授業も部活もあまり記憶がないが、胃の辺りにはなんとなく圧迫感を感じるのできっと夕飯は食べたのだろう。



    「……」


    ぼーっと天井を見つめてはため息をついて、昼間の光景を思い出しては自分の傷を抉っていた。
    あの時の嬉しそうに笑ったあいつの顔が頭から離れない。

    俺と一緒にいる時こそそんな話はしないが、あいつも所謂モテる方らしい。人当たりが良くて笑顔が可愛いんだからそりゃそうだろう。ま、たまに口煩いけどな、なんて心の中で取っていたマウントも、昼間のあの光景を見た今ではなんの意味もなくなっていた。


    「はぁ……」



    もう一度ため息を付くと、ピコンッとスマホが鳴った。

    確認する気力もないが、さらにピコンッピコンッと連投されるので仕方なく手を伸ばす。


    表示を見ると、今まさに俺をこんな状態にしている張本人からのメッセージだった。



    "豹馬〜!おつかれ!"
    "夕飯食べた?"
    "今から家に来れない?"
    "サッカーの練習してるとこごめんね!"



    好きなやつがいるのに、つーか彼氏が出来たかもしんねぇのに俺を呼ぶとか、警戒されていないにもほどがある。これまでの己の振る舞いがそうさせているのだろうが、一周回ってムカついてきた。


    相手がいようが構わない。俺は俺ために告白して、それで断られてすっきりしてしまおう。


    そう開き直ると、画面に指を滑らせて短く"行く"とだけ返信をして、身支度をした。






    —————
    ———



    「豹馬いらっしゃい!」
    「おう」
    「…なんか怒ってる?」
    「別に」
    「そ、そう?あ、サッカーの邪魔しちゃってごめんね」
    「それは別に」
    「…んー、とりあえず上がって!そんなに時間取らせないから」


    慣れたように俺を招き入れて2階の自分の部屋へと連れて行った。
    そういえば、部屋に入るのは小学生ぶりかもしれない。




    「えっと、どうぞ!」

    久々に入った部屋は、部屋の主の匂いで満たされていて目眩がしそうだった。勉強机にローテーブル、そしてベッド。俺だって健全な男子だ。ましてや好きな相手の部屋。この地獄とも天国とも取れる空間に悶々としている俺一人を残して、本人はリビングへと降りていった。

    ついベッドに目がいってしまうので、俺はそのフレームを背もたれにして丸いローテーブルの前に腰を下ろした。






    「お待たせ!」


    じゃーん!と持ってきたのは大きなチョコレートケーキ。


    「これね、実は私が作ったんだ」
    「へぇ凄いじゃん」
    「ありがと!ホールケーキだからまだ味見できてないけど、何回も試作したから大丈夫だと思う!」


    そう言って、いそいそとケーキを切り分けると俺の前にどうぞと差し出した。



    「…!美味い」
    「ほんと?!やった!」


    素直な感想が出た。俺好みの程良い甘さのチョコレートケーキはどれだけでも食べられそうだった。


    「よかったぁ、豹馬の好みならこれくらいかなって何度か作り直して研究した甲斐があったよ」


    そう言ってへらりと笑う姿を見て、思わず身体が動いた。


    「なあ、」


    左側に座るこいつに、ぐいっと身体を寄せる。


    「な、なに?」
    「このケーキ、どういう意味?」
    「どうって今日は、その、バレンタインだから、」
    「ふーん」
    「………」



    そして更に近づいて、床についている小さい手に俺の手を重ねる。



    「ひょう…ま?!」
    「俺、お前が好き」



    至近距離で顔を覗き込むようにして伝えると、えっ?!と驚いた後にみるみる顔が赤くなっていくのが可愛い。もうどうにでもなれ。



    「お前が好きだ」
    「ちょ、ちょっとまっ……」
    「待たねぇ。つかその顔可愛すぎかよ」
    「か、かかかわっ?!」
    「真っ赤になってんの、可愛い」
    「ひょっ…」



    重ねていた手をぎゅっと握る。そして一呼吸置いてから、なるべく落ち着いて話し始める。



    「お前のことずっと好きだった。ずっと見てきたつもりだったのに、今日お前に好きなやつがいるって初めて知った。だからこの告白は俺のエゴなんだ。」
    「豹馬…?」
    「悪りぃな困らせて」



    そこまで言うと、何か言いたそうな目でこっちを見てくる。嗚呼、ついに振られんだな俺。



    「豹馬、」
    「なんだよ」
    「私の、好きな人って、多分、そのなんか勘違いしてるみたいだけど、」
    「いや、俺昼休みに校舎の陰でチョコの箱渡してるの見たから。しかもでっかい箱。気ぃ遣うなよ」
    「……いや、それ御守りだよ!」
    「は…?だってチョコの箱だったろ」
    「それ、箱めっちゃ大きくなかった?!」



    言われてみると、確かに。離れた俺の位置からはっきりとチョコレートの箱だと分かったのだから相当な大きさだ。



    「……大きかった」
    「でしょ?!バレンタインだからチョコの箱に入れたけど、チョコじゃなくて御守りたくさん作ったの!」
    「………」
    「この間前の席の男子が面白すぎて笑ったって話したでしょ?それで、——」



    要は、笑いすぎたお返しにその男子が所属している部活の御守りを作ったらしい。マネージャーが手を怪我していて細かい作業ができないらしく、代わりに部員全員分を作ることになったそうだ。そしてバレンタインに配ることになった為、あえてチョコレートの箱に入れることにしたのだとか。



    「ね!だから違うって!」
    「なっ、」


    ……なんつー勘違い。
    恥ずかしいにも程がある。
    頭の中で先ほどの話を反芻していると、



    「けどあのさ、私、も、好きな人いて、」



    突然の告白に握っている手が強張った。



    「私好きな人が、その、、」
    「、俺が知ってるやつか?」


    言いづらそうな雰囲気を察して声を掛ける。



    「えっ、知って…、まぁ、それはそうなんだけど、」
    「俺に遠慮すんな、」
    「待ってまた勘違いしてる!」
    「?」
    「私が、す、好きなのは、豹馬!!」



    顔を真っ赤にして、俺の目を見て言う。



    「…………………まじ?」
    「そうだよ!好きじゃなきゃわざわざケーキなんて、っ、」



    気づいたら抱きしめていた。



    「豹馬?!」
    「はっ、最高だ」
    「ちょっと、くるし、」
    「よしよししてやるだけじゃ足んねぇから大人しくしてろ」



    ぎゅーっと抱きしめて大きく息を吸うと、こいつの匂いでいっぱいになって、両思いなのだという実感が湧く。



    「ひょーまー」
    「もうちょっと待ってろ」



    多分今離したらこの緩みきっているであろう顔を見られてしまう。それは避けたい。けど、そんなことよりも今こいつを離したくない。



    「今日から俺の彼女だな」
    「っ、うん」
    「はぁ、長かったー」
    「…いつから好きでいてくれたの?」
    「んー、お前は?」
    「私は5.6年生くらいかなぁ」
    「だから部屋に入れなくなったのか」
    「あ、そうかも…?で、豹馬はいつ?」
    「んー、」



    多分、出会ったその日に好きになったんだと思う。幼稚園から思い続けてたなんて、スピードが持ち味の俺がおかしな話だ。


    その後、お付き合いする上での約束として、
    「スピードはサッカーだけにして!また一人で勘違いされたら困る!」と釘を刺されることになるとは、まだ知る由もない。



    「また今度教えてやる」
    「なにそれ!?ずるっ!」
    「そんなことより、今は」


    よっ、と抱き上げると、優しくベッドに下ろす。



    「ちょ、ちょちょちょちょ豹馬?!?!なにしてんの?!?!!」
    「なにって?なんか変なこと考えてんの?」
    「いやっ、それは豹馬がっ!!!!」
    「俺は別に。ただ床だと痛いかなと思って」
    「痛いって…な、なにする気?!?!てか、急に覆いかぶさらないでよ!!?!」
    「…安心しろって。お前が嫌がることはしねぇ。つか、付き合ったばっかりでしねぇし」


    そして、ちゅっとおでこにキスをしてから、再び世界一大事な子を抱きしめた。








    『スピードスターも恋は慎重』



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