今年の夏は9月も終わりに近づいた日の午後、ウララギはBAR夜風でゆっくりと開店準備を行っていた。
店内の掃除を終えて、外の掃き掃除をしようと箒とちり取りを手に、出入り口のドアを開く。
外に出た瞬間、涼しい風に頬を撫でられて、ウララギは驚いて顔をあげる。
ウララギの視線の先には、夕暮れの街並が広がっていた。
ついこの間までは、この時間でもまだまだ外は明るかったはずだ。
夏が終わり秋になったのだと、ウララギは茜色に染まる空を見上げながら実感する。
(もう、すっかり秋なんですね……)
ここ最近はまた少し暑い日が続いていたから、季節を忘れそうになっていた。
ずっと前から、ウララギは夏が嫌いだった。
気温の高さも、湿気のせいで髪がうねるのも苦手だったが、何より夜の短さを一番疎んでいた。
遅い日の入りと早い日の出で、あっという間に終わってしまう夏の夜と、明るく長い夏の昼間は、闇の中でしか生きられない自分の居場所がなくなってしまうような錯覚を覚えて、いつもはやく夏が終わってほしいと願っていたのだが。
その夏が終わった事を、今のウララギは生まれて初めてさみしいと感じていた。
胸に沸き上がる寂寥感に自分でも驚いたウララギだったが、そのさみしさの原因にすぐに思い当たって、納得する。
今年の夏は、Yokazenohorizonの仲間と過ごす時間が多かった。
4人で海に行って柄にもないような大声で海に向かって叫んだり、ジャロップに浴衣を着付けてもらって、夏祭りにも繰り出した。
浴衣の着付けから、ジャロップは仲間達を着飾ることに味を占めたらしい。
ジャロップにおねだりをされて、普段ではまず着ないようなカラフルな服を、リカオとクースカと共にジャロップのトータルコーディネートで身につけて、オープンカーに乗ってドライブする、なんて遊びまでしてしまった。
誰かと一緒に過ごして、こんなにもはしゃいだ夏は初めてで、楽しかったその季節が終わってしまうのが名残惜しい。
嫌いだったはずの季節も、大切な仲間と過ごして思い出ができれば、こんなにも愛おしいものになる。
その気持ちに気付いたウララギは、自分の心境の変化に驚きと喜びを感じて、思わずくすりと笑みをこぼしてしまう。
当初は8月いっぱいの提供と言っていた特製かき氷を「まだ暑い日が続くから」と9月になっても続けていたのも、夏が終わるのを惜しんでいたからなのかも知れない。
さすがにもう肌寒さを感じはじめる秋になってしまったので、かき氷の出番は終了だろう。
名残惜しいが、夏は思い出を胸に見送って、もう訪れていた秋に思いをはせる。
(次の特製スイーツは、何にしましょうか……)
栗やさつまいもを使ったお菓子に、リカオがソワソワしていたのを思い出す。
ジャロップとクースカも、今年の秋や冬のレジャーやトレンドについて話をしていた。
きっとこの先の季節も、彼らと一緒に居ればかけがえのないものになって、季節が変わる度に名残惜しく思うようになるのだろう。
それは幸せなことだろうなと、ウララギは店の前の掃き掃除をしながら、この先に待つ楽しい日々を想像して胸を踊らせた。