男さにわ×一文字則宗が成立したあとの一幕 手合わせの休憩時間に加州清光がひょっこりと顔を出した。稽古を見てやっていた若い連中が気を利かせてすっと離れてゆくのがいささか面映ゆい。坊主の眉間のしわを見る限り、あまり良い知らせではなさそうだからなおさらだ。
「あんたさー、主に何やったわけ?」
「ん?」
開口一番問い詰められてもまだ何もしていない。今のところは話をしたにとどまっているしお互い実力行使に出たおぼえはない。そもそも主に対して、何をやったと問い詰められるような狼藉をはたらく刀剣男士があるものか。
首を傾げていると加州は縁側にしゃがみ込み、耳元に顔を寄せてくる。そこまで周りに聞かせたくない話題など、自分と主のあいだにあっただろうか。
「このあいだは顔が近すぎて大変だったって。
則宗くんはもちろん脅してるわけじゃないに決まってるし、それに色仕掛けのつもりでもないだろうし、あまりにもまっすぐに見つめてくるから照れたら申し訳ないと思って一生懸命こっちもまじめな顔してたけど、かっこよすぎて頭がどうにかなりそうだったとか言われてるんだよね」
「……う、うん?」
まるで心当たりがない。視線を逃さぬよう間近で語りかけたのは事実だが、脅すつもりもなかったし色気で籠絡しようなどとは夢にも思っていなかった。中身についてはいささか艶っぽい話がなかったとは言わないが、当人同士はいたって真剣だった。
何かの間違いだろう、と答えかけて思い出す。今代の主は、内心を隠すことにかけては刀剣男士に劣らぬ手練れであったと。
「まつげが触れあいそうだったって泣き付かれたんだけど、正直これ惚気話だし勘弁してほしいんだよねー。毎朝こんなの聞かされるとか冗談じゃないっての」
恨めしげな加州の瞳を扇子で遮る。主と坊主に申し訳ないなどと、心にもない反省を口にするのも気が引ける。
「うははは、お前さんだって本丸が始まったばかりの惚気話をさんざん聞かせてくれたろう。それでおあいこだ、おあいこ」