怖いもの知らず「ねぇ、藤哉さん」
我慢はやめましょうよ、と目の下に隈が浮き脂汗をたらす頬に指を滑らせる。また少し痩せたようだ。肌がカサついている。
藤哉さんは、小隊長として辣腕を奮っていた姿から変わり果ててしまった。龍脈というのはそれほどまでに苛烈なモノらしい。少しの瑕疵も見当たらない、闊達とした物言い、素晴らしい祕術の腕前、部下や目下への公正な態度、時折見せる…鋭い龍の瞳。俺にとって龍守藤哉ーー藤哉さんは刺激的な存在で、いつか彼の人の指揮下で力を振るうのが夢だった。夢はあっさりと叶い、そして破れた。渡来口の封印が破れ司令部が討ち死にしたあの日、藤哉さんは俺たちに自分が死んだ後のことまで考えて動かなければならん、と言った。結界を解き、原子炉を守るその作戦は、これ以上なく現場に即したものであり、更に責任をも任されると請け負ってくれた。これだから堪らない。身を焼く様な興奮が体を駆け抜けて、だが気取られないよう微笑む。やるべき事を行う為その場から駆け出した俺は、後にどんな未来が自分たちに訪れるのかを考える暇がなかった。天を裂く光が禍獣たちを残さず焼き払う。まるで闇を裂く剣のような一閃、膠着した状況に放たれた清廉な矢の如し一撃だった。龍守術師が龍脈を使用、意識不明の重体。部下からの報を聞いた俺は、高揚していた体が急速に冷えるのを感じた。夢は果てを迎え、そして後には現実だけが残された。
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