カニの床屋さん「あっ……!!」
そう大声を上げたきり緑谷はスマホを見つめたまま固まってしまった。その顔がみるみる青ざめていくので何事かと心配になってくる。
「どうした」
「せ、せんせぇ……」
情けない声でこちらを見上げる緑谷はさながら捨てられた子犬のようで、そのふわふわした癖っ毛に吸い寄せられるように頭を撫でてしまっていた。確かに毛足が伸びている。ふわふわ加減が増して良い具合だがこれ以上伸びたら収集がつかなくなりそうだ。
「大丈夫か?」
「今お母さんから連絡があって……明日、床屋さんの予約を入れていたのをすっかり忘れていました……。す、すみませんっ、明日おでかけの予定、立ててくださっていたのに、」
しおしおと落ち込む緑谷は今にも泣き出してしまいそうだ。確かに明日は少し遠出でもしてみようかとふたりで計画を立てていた。緑谷も随分楽しみにしていたようだから余計に気落ちしているのだろう。
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