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    neo_gzl

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    遙か5風花記、高杉×ゆき
    閉鎖済みのサイトに置いてあったものを拾ってきました。イチャイチャを書きたかっただけなので話にオチなんてない。高ゆきは永遠にイチャコラしていてほしい。

    「甘い雨のなかで」





     外は雨が降っていて、雨音と蛙の声がしている。
     部屋には舶来品のランプが置かれており、文机の前には男が腰を下ろして何かの書状を読んでいた。
     ゆきはつと視線を外から部屋の中に向け、その男――高杉の背中へと移す。
     すると途端に胸の鼓動が跳ね上がり頬が熱くなって、ゆきはまた慌てて外の方を向いた。

     ゆきがこちらの世界に残ることを決め、高杉と二人だけで行動するようになり暫くが過ぎた。二人は今、江戸を発ち、高杉の故郷である長州へと向かう旅程の中にある。
     京や江戸では八葉たちと一緒の騒々しいとも言える毎日だったが、二人きりの今は静か過ぎる程に静かだ。
     最初はそれを寂しくも思えたし、今でも時折不意にそう思うこともあるが、長州への道中も中ほどまで来て、二人でいることにも随分と慣れた。
     ――でも。
     とゆきは所在なさげに膝を抱え直しながら心の中で呟く。
     ――流石にお宿のお部屋まで一緒なんて……。
     そこまで考えてゆきは思考を止めた。それ以上は恥ずかしくて考えていられなかったのだ。
     夕刻になり雨が降り出して、二人は街道沿いの宿場町で宿を取ったのだが、折り悪く一部屋しか空いておらず、ゆきは他の女性との相部屋を勧められた。しかしそれならば高杉は自分とゆきとを相部屋にすると言ったのだった。
     二人だけで移動を始めるようになって、それでも高杉はいつも宿に入ると部屋を二つ取り、ゆきと寝所を分けていた。だから、こうやって、一つの部屋を二人で泊まるのは初めてのことだった。――否。正確に言えば、最初から部屋を一つしか取らなかったのが初めてと言うだけだ。
     二人で同じ部屋で過ごすこと自体が初めてと云う訳ではなかった。
     時に高杉の部屋で、そして時にはゆきの部屋で。
     二人で朝まで共にしたことなら既に何度かあったのだ。
     ――だからこそ、困るのに……。
     そうだ。だからこそゆきは困っているのだ。
     こうやって、特に、その「いわゆるそういった雰囲気」ではなく、改めて普通に夜、同じ部屋でいると、どんな顔をしていいのか、どんな風に振る舞っていいのが全く分からなかった。――否、どうせ、「そういった雰囲気」の時もどう振る舞っていいのか、ゆきはいまだに全く分かっていないのだが――。
     兎に角、ゆきは妙に意識してしまって息一つするのでさえ緊張していた。
     散歩を口実に庭に出るにも外は生憎の雨で、夜もとうに更けている。どう考えてもここに居るしかない。しかし眠るにはまだ早い。
     ――普通にしていよう。
     ゆきはそう自分に言い聞かせて小さく頷く。
     しかしそう考えた途端に、不意に高杉の影が衣擦れの音と共に動いて、ゆきはびくりと肩を震わせた。急いで目を向けたが、何ということはなく、高杉はただ傍らにあった書状を手に取ろうとしていただけであった。
     しかし、ゆきはそれを見てしまったことを後悔した。
     高杉が着ていたのは部屋着の着物だ。
     伸ばした腕が袖から覗き、衣越しにも分かる、肩と背の線がランプの光に照らされてしなやかな陰影を作っている。
     ――綺麗。……男の人に綺麗って変なのかな。でも、高杉さんは綺麗……。
     目を奪われて息が詰まる。同時に、寄り添ってあの腕の中に身体を預けたいと思ってしまった。
     ――わ、私、何てことを……。
     ゆきは恥ずかしくなって手の中に顔を伏せた。
     だが、目を閉じれば尚更に実際にあの身体に触れた時の感覚を思い出してしまう。
     温かくて、そして筋肉質な胸や腕はゆきが寄りかかってもびくともしない。抱き締められると守られているみたいで安心するし、胸に顔を埋めると男の人らしい匂いがして、頭がくらくらして――……。
     ――ううん、だめ。
     ゆきは思考を振り切るように首を振った。
     小さい頃から両親や都、祟と手を繋いで歩いたり抱き合ったりすることが多かったせいか、ゆきは人の温もりに触れるのが好きな方だ。だからこんな静かな雨の夜に、ただ人の温もりを恋しく思ってしまっただけに違いない。
     それを高杉に求めるのはやっぱり違うのだろう。以前「お父さんみたい」と言ってしまい、彼の何かのスイッチのようなもの(だと思うのだが、ゆきには何だかよく分からない)を入れてしまったこともあった。またそんなことを言ったら、今度こそ本当に子供みたいだと呆れられてしまうかもしれない。
     ――だけど。
     とゆきは心の中で呟いた。
     ――だけど、今は、都や祟くんや誰か他の家族じゃなくて、高杉さんに抱き締めてほしい。
     ――そう思うのも、やっぱり間違っているのかな。
     そこまで考えて、しかしそもそも、家族ではない異性に軽々しく抱き締められたいと思うこと自体がはしたない発想なのではないだろうかと思い至る。
     ――そうなのかもしれない。だけど、でも……。
     一度考え始めると、その感覚が思い出されて仕方がない。胸の奧が締め付けられるみたいに微かに痛くて切なくて苦しくて。
     ――こんな風に思うのは高杉さんだけ。

     ううんと首を傾げ、高杉の広い背中を見つめてから、ゆきはそっとその背に近付いた。
     抱き締めて貰いたいなら、素直にそうお願いしてみようと思ったのだ。
     子供みたいだと呆れられたらその時は謝るし、嫌だと言われたら大人しく諦めればいい、ゆきの発想がおかしいのならば、高杉がちゃんと諭してくれる、――と思う、それは多分だが――、そう考えた。
     高杉は書面に集中していて、ゆきの方には気を留めていないらしかった。視線は手元に落とされたままだ。
     近付くと、その存在を更に意識してしまい顔が勝手に熱くなる。自分が何かとんでもなく恥ずかしいことをしようとしているみたいだ。
    「――っ、あの、高杉、さん」
     意を決して出した声は少し詰まっていた。
     高杉が振り返る。切れ長の瞳がゆきを捕らえた。男性らしい喉元が動いて、ゆきはそれに目を奪われる。低くてよく通る声が身体に響く。
    「ゆき、どうした?」
    「……あ、ええと」
     ゆきはその瞬間に言葉を失った。改めて何と言えばいいのか分からなくなってしまったのだ。それに、もしかしなくてもやっぱり、これって凄く恥ずかしいことなような気がする――。今更になって気付いた。
     しかし、呼び掛けてしまった以上何か言わねばなるまい。高杉が何か用かと、こちらを見ている。
     ゆきは唇を震わせた。
    「高杉さん、あの…、だ………」
    「……だ?」
     高杉はゆきが口を開くのを待って首を傾げた。
     ――あっ、ど、どうしよう。
     頭の中が真っ白になる。唇が空回りする。
    「だ、」

    「抱き締めてください」

     結局、そう告げるしかなくゆきはそう言った。
    「……藪から棒に、何を言い出すかと思えば」
     高杉は相変わらず突拍子のないゆきの台詞に多少面食らった様子だったが、すぐに意図を諒解したらしい。ゆきの方に向き直ると、「分かった」と軽く腕を広げて構えた。来い、ということなのだろう。
     案外すんなり許して貰えたが、ゆきが気にするほどおかしなことではなかったのだろうか。
    「………あの、お邪魔……します……?」
    「遠慮など無用だ」
     高杉が軽く笑い、ゆきはおずおずと手を伸ばしてその腕の中に収まった。収まると同時に背中に腕が回されて、望んだ通りに抱き締められる。
     そっと頭を胸に預けてみる。着物越しに、高杉の体温と筋肉質な胸の厚みを感じた。温かくて安心する。
     息を吸い込むと、洗ったばかりの木綿の匂いがして、それから、――。
     ――高杉さんの匂いがする。
     どんな匂い、とは上手く言い表せない。男の人の匂いなのだと思う。強いて言うならばお酒の匂いに似ている気もするが、矢張り違う。吸い込むと頭がくらくらするところだけは似ているかもしれない。
     きゅっと着物を掴むと、背中に回された腕に力が籠められて少し息苦しかった。でも、それが心地良くて、もう少し強く抱き締めてくれてもいいのにと思った。
    「……高杉さん」
     思わず零れた声は思った以上に甘く掠れていた。まるで、自分の声じゃないみたいだ。ゆきは恥ずかしさに目を伏せて胸に顔をうずめた。
     雨の音が、人の気配や物音を消していてとても静かだ。高杉の息遣いだけが間近に聞こえる。
     ふと高杉が笑う気配がして、ゆきは顔を上げた。が、高杉の手がゆきの頭を胸へと押し戻す。
    「ん……」
     髪を撫でられながら、ゆきは視線だけで高杉の表情を伺った。口元しか見えないが、悪い表情ではなさそうだ。くつくつと高杉が笑っている。
    「高杉さん?」
    「いや……、感慨深いものだと思っただけだ」
    「感慨……?」
     一体何の感慨なのか。不思議そうにしていると高杉が続けた。
    「漸く、お前の方から抱擁を求められる程度には甘えてくれるようになったのかと思っていた」
    「甘えて……?」
     高杉の言葉を反芻してみたものの、言われている意味がよく分からない。
    「……私はずっと前から高杉さんに甘えてばかりですよ?」
     高杉が覚えていない過去からずっと、高杉が優しいのをいいことにその力に頼ってばかりだった。
    「そうでもないぞ。お前は、ここと言う時には、絶対に甘えてこなかっただろうに」
    「――そう……でしょうか」
     自覚はないが、高杉が言うのならばそうなのかもしれない。あの時はとにかく不安で、どうにかしなければという気持ちが強く、人に甘えるだとか甘えないだとか、そんなことを考えている余裕がなかった。
    「でも……今は高杉さんに凄く甘えてますよ」
     ゆきの返答に高杉は「そうか?」と短く笑った。
    「俺としてはもっと甘えるようになってくれた方が嬉しいのだがな」
    「もっと……ですか?」
     ゆきは首を傾げた。これ以上、どうやって甘えればいいのだろうか。高杉は何処へ行くでもゆきを連れて行ってくれるし、長州までのこの道すがらも、いちいちゆきを気遣ってくれている。これ以上に甘えようなどないと思う。
     ――今だって、こうやって抱き締めて貰ってるし……。
     そんな風にゆきが悩んでいると高杉が微苦笑を浮かべた。
    「難しいか? まあ、お前のそういう所が気に入っているのだが……。では、俺が教えてやろう」
    「高杉さんが? 甘え方をですか……?」
     ああ、と頷いて高杉はゆきの肩を掴んだ。
    「教えてほしいか?」
     至近距離に高杉の顔がある。何となく楽しそうな顔をしているのは気のせいだろうか。
    「……お願いします」
     頷くと、高杉は嬉しそうに目を眇めた。
    「いいだろう。ゆき、俺の目を見ろ」
    「――はい」
     この体勢だと、少し上目遣いになってしまうが仕方がない。言われた通りにゆきは高杉の目を見上げた。
    「よし、そのまま心の中でゆっくり五つ数えてから目を閉じろ」
     ――これが甘え方とどう繋がるのだろう。
     不思議に思いながらも言われるがままに従った。切れ長の高杉の目がこちらを見つめている。
     ――ええと、いち、に、さん、し、ご……、目を閉じる……。
     ゆきはそっと目を閉じた。
    「――初めてにしては上出来だ」
     高杉がそう囁く低い声がして、それから少し衣擦れの音がして、それから瞼越しのランプの影が揺れて、それから――唇に温かい……、温かい……?
    「……っ!」
     キスをされたのだと気付くのに幾らもかからなかった。ゆきは慌てて高杉の胸を押し返した。
    「高杉さん……っ」
     赤くなって唇を押さえるゆきに、高杉がくつくつと笑いながら言う。
    「分かったか? 口付けをねだる時はそうしろ」
    「く、ちづけ……をねだる……? ……っ!」
     恥ずかしくなったゆきは、急いで高杉から離れようとしたが、それよりも早く腕を掴まれてしまう。
    「あっ……」
     短い悲鳴を上げる間に抱き竦められて身動きが取れない。
    「お前、さっきから、俺の方を見ていただろう?」
     耳元で囁かれると力が抜けていく。
    「――知っていたんですか?」
     聞いてから後悔する。これでは、高杉の方をずっと見ていたのだと告白しているのと同じだ。
     矢張り、とでも言いたそうに高杉が笑った。
    「そう言えば、最初から部屋が一緒だったのは初めてだったな。これはちょうどいい機会だ」
     するりと高杉の手のひらがゆきの身体の上を滑る。耳の傍で高杉の甘い声がした。ゆきを甘やかす時にだけの、特別に甘い声。
    「――来い。もっと他の甘え方も教えてやる。一晩かけて、じっくり、な……」
    「あっ、やっ……、高杉さんっ」
     か細いゆきの悲鳴は、雨音の中に掻き消されてしまった。



    終(2012.3.29更新)
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