片目に傷を負った時、一時的に視力が低下して殆ど何も視えなくなった。そのうち回復すると言われたので周囲も俺自身も特に気にしていなかったが、時折酷い頭痛を伴って傷が疼き出す事があった。
その日も突然の酷い痛みに襲われて、城の廊下に蹲って痛みが引くのを耐え忍んでいると「大丈夫ですか?」と、背後から声がかかった。若い男の声だった。
「医務室にまで連れて行きます」そう言われ、半ば無理やり手を引かれた。薄ぼんやりとした視界で男の背中を見る。使用人に、こんな服装の者が居ただろうか?手を引かれているうちにだんだんと違和感は増していく。城に仕える者にしては薄汚れた上着。握られた手の爪には黒い汚れのようなものがこびりついている。そんな事を考えていると長い廊下の突き当たりにまで来ていた。男は少し迷う素振りを見せた後、俺の手を引いて医務室とは全く違う方向に進み出した。
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