最近、気温の乱高下が激しい。つい数日前は二十度まで上がって「季節はずれの陽気」などとニュースで騒いでいたのに、今日は最高気温が八度までしか上がらず、聞けば札幌よりも寒かったという。
日々の服装や体調に気を使う季節の変わり目。伊織と立香も例に漏れず、急速に冬支度を始めたところだった。
「立香?そろそろ寝るぞ?」
時刻は午前零時を過ぎた頃。寝室の暖房をつけてリビングへと戻ってきた伊織は、どこかにいるはずの恋人に声を掛けた。「はぁい」と返事が聞こえた方へ向かうと、声の主はキッチンにいた。余程寒いのかパジャマの上に薄茶色のボアブルゾンを着込んでいる。モコモコと膨らんだシルエットはテディベアのようだ。
コンロの火で暖を取りながらお湯を沸かしている立香を見て、『寝る前にホットココアでも淹れるのだろうか』と考えた伊織は、食器棚からコップを取り出そうとした。
1961