桜の花びらが落ちていた。それ自体は特筆すべきことではなかったのだけれど、姫鶴一文字は首をかしげずにはいられなかった。
「またあ? なんなんだろ、これ」
淡雪のようなそれを摘み上げ、姫鶴は眉間に皺を寄せた。
「また」というのは。これが彼にとって初めてのことではなかったからだ。最初に見たのは、およそ一年前。たった一度だけだ。そうして季節は巡り、また春が来て、二度三度。今日で四度目だった。
心当たりがないわけではないのだ。むしろあてしかない。脳裏に浮かんだあの一言多い男を振り払わないままで、姫鶴は小さな花弁を懐紙に挟んだ。
◇
後家兼光が、顕現初日から重傷で手入部屋に担ぎ込まれたらしい。そんな噂は当然姫鶴一文字の耳にも入っていた。当時から自身をあまり顧みず、真っ直ぐ突っ込んでいく男で、今ではすっかり手入部屋の常連だ。けれど流石に、初日はすうと血の気が引いたのを覚えている。
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