尊敬していた人が予想以上に以外だった件 とある昼下がりのこと。
特にするべく事もなく、夕方頃まで城下を見回ろうかと一氏は支度を整え、いざ城門を抜けようとしたその時であった。
「待って、一氏くん!」
呼ばれた声に反応はするものの、一氏はその場を振り向くこと無く相手の動向に身を委ねた。
忍たるもの背後を易々と取られるとはと思うのだが、自分の腰に手を回し抱きついてくるその人が、自分にとって敬愛すべき人物とあれば話は別だ。
「どうしました?軍師」
自分に抱きついている軍師こと、半兵衛の方を振り向きながら一氏は声をかけた。
「君に手伝って欲しい事があるんだ…だめかな?」
互いの背の関係から、少し上目遣いになって見つめてくるその瞳はまるで子鹿の様にも見えてしまい、これを見ても断ろうものならとんだ冷血漢だなと、そう思いつつ一氏も主君である秀吉の様に、つい半兵衛を甘やかしてしまう事を自覚し、一つしかない返事を返した。
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