夢くらい超えてやる「ファーストキスはレモンの味だと聞いていたんだ」
突然の宣言に、手を止める。
そんな俺に、一彩はもう一度繰り返した。
「ファーストキスはレモンの味だと聞いていたんだ」
「いや、聞こえてっけど」
俺の返事に、弟は真面目な顔をして大きく頷く。いや、「ウム」じゃなくて。
おまえいまお兄ちゃんとキスしたって理解してる? それ、お兄ちゃんにとってもファーストキスなンだけど。
◆
弟とキスをした。恋人として初めて。
夕食後、風呂上がり。弟は食事のあとに「キスがしたい」と申し出た。俺もこの手の話題に精通はしていないが、なんとなく特殊な状況だとはわかる。念のため、キスだけでいいのかと訊ねたら、キスがしたいと返ってきた。それならばと思ったところで更に、風呂に入ってからにしたいと言い出した。歯磨きじゃなくて。やっぱりおまえはセックスがしたいんじゃないのか。それともおまえの言うキスにはセックスまで含まれるのか。言葉は尽きなかったがそのすべてを飲み込んだ。残念ながら、そんな器用な搦め手を使えるような弟じゃない。それは誰よりもよく知っている。たぶん。
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