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    misuhaya

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    misuhaya

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    webオンリーお疲れ様でした!
    両片思いでもだもだしてるアルカヴェ
    後日おまけもセットで支部に掲載予定です

    いつか君に名前をつけるなら カーヴェは愛を平等に分け与えるくせに、受け取ることが心底下手だった。いや、故意的にしなかったのかもしれない。天才だと持て囃された教令院時代それはもう好意を向けられることが多く、純粋に彼を好きだと言う者や彼の容姿に惹かれた者、将来の安定を狙う者とさまざまだ。そんな奴らにもカーヴェは平等に愛を分け与えた。幼い子どもでも無駄だとわかることをカーヴェは行い続けた。
     告白の場面は何度も目にした。カーヴェの優しさについつけ上がって距離感を誤った奴らの末路だ。今日もほら、図書室から駆け抜けていく女生徒と、申し訳なさそうにも嫌悪を抱いているようにも見られる丸い背中。なぜもっと誰も寄りつかない場所を選ばないのかと毎度鉢合わせてしまう俺は一つ溜め息をつけばその背中に声を掛けた。

    「こんにちは先輩、寝てるんですか」
    「……こんにちはアルハイゼン。ちゃんと起きてるよ。今日の質問は?」
    「この本の…」
    「僕の専門外じゃないか!あ、でも専攻で齧ったことあるぞ。えっと」

     丸かった背中はすっと直線に伸びるとすっかりいつもの雰囲気に戻り、ひっそりと安堵の息を吐く。そうだ、彼はこうでなくては。愛だの恋だのに振り回されることなく、好きなことを好きなだけ、周りも見えないほどまっすぐ進んでいくほうがカーヴェには合っている。思わず上がりそうになる口角を掌で隠し、くるんと上を向くまつ毛が生み出す影に身を潜める赤い瞳を見つめた。黙っていると教令院の中でもかなり整った顔をしていると思う。そのうえ専門外だと文句を垂れながらも真剣に脳内を回転させる彼の優しさに勘違いする者が出てくるんだろう。だからといってカーヴェはその行為を止めたりしない。そもそも行為を止めるという思考に至らないらしい。いっそ嘘でもいいから特定の相手を作ればこうはならないだろうに、それもまた不誠実だと首を横に振る姿は安易に想像できた。とことん生きづらい性格をしているなと思った。
     数ヶ月後。じとりと汗ばむ暑さに思わず顔を顰めてしまうほどの湿度の高い雨の日。カーヴェはここ最近背中を丸くすることはなかった。どうやら振った中の1人が相当自分に自信があったらしく、女を弄びたいが故の上辺だけの優しさだ、内心馬鹿にして笑っているんだ、なんならあいつは建築にしか興味がないと根も歯もない噂を(まぁ後者はあながち間違いではないが)振られた腹いせにばら撒いたらしく、それを肯定も否定もしないカーヴェに果敢に挑む者はかなり減ったらしい。随分熱しやすく冷めやすい恋心をお持ちだ。

    「機嫌いいですね」
    「わかるか?」
    「それは、まぁ。色恋沙汰に巻き込まれないからですか?」
    「え!?あぁ、まぁそれもあるけど……」

     ほら。とカーヴェが窓の外を指差す。苛立ちの種になっていた雨足はいつのまにか緩やかだ。

    「僕雨上がりの空が好きなんだよ。ほら、もう雨の終わりがみられる。きっと目も奪われるような空が広がるよ。君もわかるだろ?」

     空なんてどれも同じでしょう?そう言いたかったのに、言葉に詰まった。タイミングをはかったように雲の隙間から溢れる夕陽の赤さが窓を抜けカーヴェを照らす。そのさまに先程まで感じていた不快な湿気なんて頭から抜け落ち、思わず息をのんだ。祝福のように照らす光を眩しげに、けれどどこか愛おしげに瞳を細めみつめるカーヴェの姿は脳内の辞書をどれだけめくっても当てはまる言葉が浮かばないほどで、瞬間、息の仕方もわからなくなるほど見惚れていた。細いまつ毛に反射する光でさえ見逃したくないほど、夢中で。

    「ほら、綺麗だろ?アルハイゼン」

    「…………、綺麗だ」

     返答を考える余裕すらなく、カーヴェの言葉を繰り返す。綺麗。そんな言葉さえ陳腐だと思えてしまうほどだ。と、同時に気付いてしまった。誰もが踵を返したタイミングに、細く弱々しくも簡単に剥がせない蜘蛛の糸のような執着を抱いている自分に。そうか、これが。今まで自分がカーヴェにやけに声をかけていたのは同じ思考を持つ人間だったからだと思っていた。勿論そこも否定はできないが、まさかこんな浅はかな気持ちを抱いていたなんて。それが、あいつらと同じように本人の美しさで知ることになるなんて。
     カーヴェは数回の瞬きの後ゆっくり弧を描いた。

    「やっぱりこの空がすきだよ。だって君と同じ気持ちになれた」

     同じなものか。友愛をまっすぐ向けてくれるカーヴェに上辺だけでも応えるかのようにゆるりと目を細める。こんな言葉誰にでも言うような男なのに、無知な奴らと同じように心臓を跳ねさせて何度もカーヴェの言葉を脳内で繰り返し流す。

    (最悪だ)

     散々見てきたじゃないか、愛を受け取れないカーヴェが人を振るさまを。その都度背中を丸くして、なのに彼は変わらず笑みを浮かべて接するさまを。俺もあの大衆の中の1となってしまうのか、そう考えるだけで吐き気がした。ならばこの熱をさっさと消してしまえばよかったものの、何度息を吹きかけようとしてもあの顔が脳裏を過ぎる。一時の感情にうつつを抜かし本のページをめくる手を止めてしまうのなんて馬鹿馬鹿しいと思っていた時の俺に戻してほしい。そんな非現実的なことさえも浮かんだ。
     それからまもなく、共同制作の話が持ち上がった。





    「アルハイゼン?珍しい、寝てるのか?」
    「……少し考え事をしていただけだ。君と違って睡眠は決まった時間に十分とっているからな」
    「君ってやつは…。まぁいい、夕食にするぞ。残念ながら今日はスープがあるから大好きな本は置いておけ」

     あの日と同じような雨だからか、懐かしい夢を見た。燻った想いをひた隠しにしながら挑んだ共同制作。そして『友達』ではなくなった時、自分の言葉が持つ刃の鋭さに何度も後悔し、同時にこの想いは顔を見なければ忘れられると心底安堵した。にもかかわらず気付けば路頭に迷う彼の手を引いていた。未練がましくて笑えてくる。
     いざ一緒に生活すると教令院にいたころとは違った面を多く目にすることが増え喧嘩も増えた。だがそんなことさえ優越感に浸る材料となり、嫌悪感で耳を塞いだ。綺麗なままでいてほしいと願う気持ちはそのままに、夜は空想上の彼を何度も汚した。どの彼も俺の背中に手を回して好意を受け入れていて、非現実的で都合のいい妄想なのに喪失感も満足感もそれなりにあった。矛盾だらけのこの感情はおそらく今まで彼が向けられてきたどの愛よりも歪だ。蔑んでいた俺自身が1番よくわかっていた。

    「あ!みろ、アルハイゼン!雨が止んだぞ」
    「………あぁ」
    「夕陽だ、雨上がりの夕陽。やっぱりすきだな」

     そんなこと知りもしないカーヴェは屈託のない明るい声をあげる。雨の終わりを告げる夕陽が雲の隙間から溢れ、カーヴェは眩しげに目を細めた。なんたってこんなタイミングで、夢と重なるような空になるのか。あの日とは違う場所で、あの日より大人びた顔で。
     そして。

    「ほら、綺麗だろ?アルハイゼン」

     どうして、あの日と同じことを言うんだ。
     想いを堰き止めていた蓋は音を立てて落ちた。容量を超えた熱はまるで沸騰した湯のように激しく音を立てながらこぼれ落ちていく。

    「カーヴェ」
    「そういえば今日の夕食は最高の出来なんだ!スープは特に自信作で、君の好みの味に仕上げてやったぞ!」
    「カーヴェ」
    「なんだ?スープが嫌なんて苦情は」
    「カーヴェ先輩」

     ひゅ、と息を呑む音が耳に届く。まっすぐ向けられていた赤い瞳が今度は落ち着く場所を見つけられずうろうろと動いている。差し込む橙に照らされ輝く黄金を指で掬い上げると、人懐こいカーヴェの表情は途端に曇った。あぁ、君もか。そう言いたげに。
     そうか。隠し通せていると思い込んでいたが、気付いていたんだな。

    「アルハイゼン、……用事を思い出した。悪いが食事は1人で」
    「察しているのだろう」
    「…何の話だ」
    「直接言われるのをご所望か?」
    「うるさい…」
    「俺が君を」
    「っやめろ!」

     誰よりも大切に扱わなくてはいけない左手が俺の右手をはらい、今にも決壊しそうなほど赤い瞳が揺れる。いっそ決壊してしまえばまた触れる理由ができるのに、と考えてしまうのは拗らせてしまった末路か、はたまた。すらりと伸びた指が震えて、そのまま顔を覆っている。それでもカーヴェの愛した夕焼け空は彼をやさしく照らし、そのさまさえも美しいと思った。

    「いやだ…アルハイゼン、いい子だから言わないでくれ」
    「なぜ」
    「僕にはそれを受け取る資格がない。受け取ったところでどうしたらいいかわからないんだ」
    「わからないならひとつずつ知っていけばいい。探究心の強い君のことだ、すぐ受け入れられる」
    「っ簡単に言ってくれるな…」

     かなり強引に事を進めようとしている自覚はある。けれど今まで見たこともないほど心が揺れ動くカーヴェを見てこれ以上は可哀想だ止めておこうと口を紡げるほど出来た人間ではなかった。あぁ、カーヴェ。どうして君は自分から荊道に進んでしまうんだ。そこで「君もきてくれ」と言ってくれれば、俺は喜んでその手を取るのに。

    「……どうか、いつもみたいに気の迷いだと言ってくれ…」

     縋るような姿に出掛かっていた言葉が一瞬詰まる。君が絆されてしまえばハッピーエンドになるのに、彼がそれを許さない。

    「その割には表情が合っていないようだが」
    「……アルハイゼンが、僕に向ける視線には気付いていた…けどそれを気付かないフリをしていた。っでも、君が何もアクションを起こさないからこのまま甘えてしまおうと」
    「本気で言っているのか?」

     えっ、とカーヴェの口から音が漏れる。このまま甘えてしまおうかと?冗談はやめろ、その行為によって一番傷付いているような奴が言う言葉じゃない。
     深く息を吐けばカーヴェの肩は面白いぐらい跳ねた。これからくる怒りの言葉に身構えているのだろう。それを宥めるかのように細い指に自分の指を絡ませる。たったそれだけの接触で体温が上がる感覚を、気の迷いなんかにできるわけがない。君が同じ気持ちを抱いてくれているのなら、尚更だ。

    「君が勝手に引いた線を越えていい許可がでたら俺は今すぐにでもその体を暴きたいとまで思っている」
    「へ……え!?あ、暴き…!?」
    「恋愛を避けてきた先輩には難しかったか?君を組み敷いてその体に」
    「わかる!わかるからやめろ!生々しい表現をするな!」
    「だが君の許可がないのなら俺は薄汚れた視線を向けることしかできないんだ」

     絡んだ指に力が入る。カーヴェの指からは力が抜けていった。

    「そこに付け込んで甘えてくれたってかまわない。だが君が知ってしまった以上、いつでも噛み付く準備ができているとだけ言っておく」
    「……君本当に僕のこと想っているのか?恋愛ってもっとこう」
    「好きだよ」

     カーヴェの目が見開かれる。自ら振っておきながら先程堰き止めた言葉がすり抜けてくるとは思っていなかったのだろう。けれど先程と違うのは、彼がわかりやすく頬を染めていることだった。なるほど言葉にするとすとんと心が軽くなる感覚になる。汚いだの罪悪感だのとレッテルを貼り付けてベタベタになった想いが言葉ひとつで元の姿になるなんて、おそらく彼に出会わなければ知ることもなかった。

    「あの日」
    「……?」
    「あの日も雨上がりだった。雨上がりの空が好きだと言う君に目を奪われ、夕陽に照らされる姿に言葉を失った。あの日は君の言葉に同意したが、俺が綺麗だと言ったのは後にも先にも君だけだ、カーヴェ」
    「え、………!?き、君そんな前から…!?」

     というかあの言葉、空じゃなくて僕に言ったのか…!?でも確かにあの時…とブツブツ記憶を辿っていくカーヴェの頬をするりと撫でる。不摂生で不規則な生活をしている彼のものとは思えないほど陶器のようにさらりとしていた。どうやらその行動が決定打となったのか、カーヴェは数回唸るとようやく赤い目の中に俺を入れた。

    「返事は、…しなきゃダメだよな」
    「いや、かまわない。知られた以上イエス以外聞き入れない予定だ」
    「はぁ!?こういうのは振られたら潔く諦めるものじゃないのか!?」
    「そう簡単に諦められるならもう何年も前に消している」

     今度はカーヴェの言葉が詰まった。年数の重みと、その間自分達の間にあったことが過ぎったのだろう。

    「……僕は、好意の裏をみて失望したくない」
    「君は俺の好意に裏があると想っているのか?」
    「そんなのわからないだろ…少なくとも今までの人はそうだった」
    「他の奴と一緒にするのか。心外だな」
    「どの口が…いや、君ほど素直な男もそういないか……」
    「なら一度試してみるといい。俺の好意の裏とやらもいやと言うほどわかるだろう」
    「どれだけ自信があるんだ……はぁ、全く」

     意地でも離さないという意思がようやく伝わったのか、カーヴェは絡まった指にそっと力を入れる。困ったように下がる眉は今までの告白の時のような苦悩は含まれておらず、俺のよく知る彼そのものだった。

    「僕はなんてやつに惚れられたんだ…」
    「そっくりそのままお返ししますよ、先輩」

     カーヴェは笑った。あの日と同じ笑顔で、あの日と同じ夕陽を浴びている彼に当てはまる言葉はやはり見つからなかった。


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    Replies from the creator

    misuhaya

    DONEタル鍾webオンリー開催おめでとうございます!
    タルが自分のお誕生日にり〜ゆえに戻ってくるおはなし。ほのぼの
    とりあえずさっきの続きといこうか からりとした日差しが照り付ける。先日いたドラゴンスパインでは冬国育ちだからか特に寒さに凍えることもなかったが、その分暑さには弱く額にはじわりと汗が滲む。同乗している者は暑いと口にはするものの表情は涼しげで今の暑さはまだ序の口だと言うことに気付かされた。ぐいと乱暴に拭えば、視界に広がった鮮やかな街並み。半日ほどの距離だったものの今すぐにでも船を降りたい衝動に駆られる。離れる時はもう帰ってこないかもよなんて飄々としていたが、いざ長く離れてみるとホームシック…とまではいかないがどこか落ち着かなかったことは内緒だ。
     ようやく会える。手紙も出したけれど読んでもらえただろうか。徐々にスピードを落としていく船は港で手を振る者たちの側で止まった。肩に掛けていた上着を手に取り、まってましたと言わんばかりに足早に船を降りる。きょろ、とあたりを見渡せば、目的の人物がゆるやかに手を振っていた。尾のように長くグラデーションがかった髪、切長の目を彩る石珀色、璃月人の中でもすらりと伸びた手足は久しぶりにみた姿にこくりと喉が鳴った。
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