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    友達以上恋人未満の2人

    映画よりももっともっと「蛭魔くんって阿含くんと仲良いよね」
    「あ?」
     そんな事を言い出したのは、同じゼミの女だった。
    「確かに!よく一緒にいるとこ見かけるし」
    「前に試合見に行った時、ハイタッチしたり肩組んだりしてたじゃん。私、阿含くんがあんな眩しい顔できるの知らなかった」
    「相合傘で帰ってた事もあったじゃん」
    「その後同じマンションに入ってったのを見たってうちの友達が言ってたよ」
    「よく泊まりあいっこしてるって噂だし」
    「一緒に出かけてるとこ見たって聞いた事あるよ」
    「この間、後ろから来た自転車避けるのに、蛭魔くんの腰に腕回して引き寄せたって」
    「キャー!ほんとに?」
    「ていうかボディタッチ多いよね」
    「やっぱり仲良しじゃん!」
     確かにどれも真実だ。試合後共に喜びあったり、傘が1つしかないので一緒に入って帰ったり、偵察のデータ整理や次の作戦を立てる為、互いの家に泊まりあったり。ボディタッチというほどではないが、腕を引かれたり、あいつが俺の肩を借りて昼寝したりはした。
    「ま、仲良いちゃ良いかもな」
    「やっぱりー!」
     キャーキャー騒ぐ女たちを横目に、キィと背もたれにもたれかかった。
     まあ、仲良いだけじゃないんだけどな。俺たちの関係はズバリ、「友達以上恋人未満」ってやつだ。
     最近の阿含は女といるより、俺と一緒にいる時間が長くなっていた。アメフトの為だけではない。飯を食いに行ったり、女から車借りて遊びに出かけたり、互いの家に泊まるのなんて日常茶飯事だ。そこで映画を見たり、眠くなったら相手の身体を枕にして寝転んだり、ふざけて一緒に風呂に入った事もある。ベッド取り合って喧嘩して、結局一緒に寝る。互いの家にはお互いの着替えが常備されているほどだ。
     一緒にいて1番気楽で、楽しい奴。それが阿含だ。試合での連携もバッチリ。相手の考えてる事が手に取るように分かる。
     これは誰がどう見ても「友達以上恋人未満」の関係と言えるだろう。この関係は充分に楽しんだ。だから、そろそろ次のステップへ行ってもいいかと思った。つまり、恋人に。

     そこではたと気づく。恋人になるには、告白しなくてはいけないのでは?
     脳内を映画のワンシーンが駆け巡る。ドラマチックな夜景に2人きり。男が女を後ろから抱きしめ、「好きだよ付き合ってくれ」と言う。女は目に涙を浮かべて「嬉しい、私も好き」と答えた。
     そんな事をやるのか?俺と阿含で??いや、ない。これはない。じゃあ他の告白方法を、と考えてみても、何も思いつかない。よくよく考えれば、俺は人生で告白などした事がなかった。圧倒的に足りないのだ。経験値が。
     このままではいけないと、恋愛映画や小説を片っ端から見た。が、どいつもこいつも知らぬ間にいい雰囲気になり、知らぬ間にセックスして、いつの間にやら恋人同士になってるものばかりだった。
     え、世間での恋愛ってそういうもんなのか?言葉は必要なく、それっぽい事して、それっぽい雰囲気を出してれば、恋人?
     ということはだ。俺たちは「友達以上恋人未満」の関係なんかじゃなくて、すでに「恋人」だったりするんじゃないか?阿含は俺の事、既に恋人と思って触れてる可能性があるって事だ。
     由々しき自体だ。お互いの認識に齟齬が発生していては、今後困るだろう。俺は居ても立っても居られず、阿含に電話した。ツーコールで繋がる電話。
    『こんな時間になんの用だよ』
    「俺ん家来い。今すぐ」
    『ハァ?何時だと思ってやがる!』
    「いいから来い!絶対な!」
     チッと舌打ちと共に電話が切られた。阿含は俺が呼び出せば、いつだって駆けつけてくれる。さっきもあんな事言っていたが、数十分後には俺ん家にくるだろう。
     案の定、阿含はすぐにやって来た。取り敢えずリビングへ通してお茶を出す。
    「こんな夜に呼び出して何だよ?なんかあったのか?」
    「いやな、あったというか、あったかもしれないというか、その……」
    「?何?具合でも悪いのか?……熱はねえな」
     阿含は額と額を合わせて、俺の体温を測る。恋人かもしれない相手にそんな近づかれて、ドキッと胸が鳴った。
    「顔が赤いな。やっぱ体調が……」
    「阿含!」
    「?なんだよ、急に大声出して」
    「せ、セックスはまだ無理だ」
    「は、はぁ??!」
     阿含は今まで見た中で1番間抜けな顔をして驚いていた。顔に書いてある。意味不明って。
    「あ?」
     なんか俺、間違った?

     事の顛末を聞いた阿含は爆笑していた。それをジト目で見る。バカにしやがって。こっちは必死に考えたんだぞ。
     それから阿含は優しく俺の頭を撫でた。
    「普段は頭のキレがいい癖に、事恋愛においては鈍いんだな」
    「……るせぇ」
    「確かに俺たちは『恋人以上恋人未満』の関係だな。……なぁヒル魔」
     阿含が俺の肩に両手を添える。自然と重なり合う視線。阿含の瞳に、熱が宿っているように思えた。
    「ヒル魔が好きだ。付き合ってくれ」
    「……俺も。俺も阿含が好き。付き合ってほしい」
     阿含が俺を大切そうに抱きしめる。俺も、今の気持ちをいっぱい乗せて抱きしめ返した。
     何の変哲もない1LDKのソファの上。ロマンチックな雰囲気など程遠いが、映画なんかよりもよっぽど美しい光景に違いないと、俺は思った。
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