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    tobun_egg

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    タイムカプセルを掘り起こす阿ヒルのはなし

    過去も未来も「明日、公園行くぞ」
     こんな突拍子もない事を言う奴は、俺の知る限り1人しかいない。ヒル魔だ。
     現在30歳の俺たちは同棲中で、日本のアメフトプロリーグで、同じチームで活躍していた。ヒル魔がこんな事を言い出したのは、今日の練習も終わり、家でゆっくり夕飯を食っている時だ。
    「?公園なんて、そんな歳じゃねぇだろ」
    「昔、中学生の頃、タイムカプセルを埋めたのを覚えてるか?」
    「タイムカプセル?ー……そんな事もあったような……」
    「タイムカプセルを埋めた公園が地域開発とやらで取り壊しが決まったんだよ。だから、その前に回収に行くぞ」
     明日、アメフトの練習は休みだ。だからってこんな急に。俺にも都合というものがある。今晩は手加減せず、思いのままに抱けると思ったのに。しかし、ヒル魔は目を輝かせ、明日に思いを馳せている。「何出てくっかな?」「テメーは何入れたか覚えてるか?」なんて言いながら。
     その姿を目に納め、ふっと笑う。今日は手加減して抱いてやる事を決めた。



     翌日、俺らは件の公園に足を運んだ。懐かしの公園。どの遊具も錆び付いて、時の流れを感じる。一層目を引くのは大きな一本木。これだけはずっと変わらない。
    「埋めたのはこの木の下だったな」
     そう言いながら、ヒル魔がスコップを俺に渡した。
    「俺が掘るのかよ」
    「最善の選択だろ?」
    「そりゃそうだが……」
     些か不服ながらも、俺が掘った方が速いのは間違いないので、ザクザクと掘り進めていく。
     堀りながら考える。俺がすっかり忘れていたタイムカプセルの想い出を、ヒル魔は大切に胸の中にしまっていたのだろうか。とてもとても、長い間。
     カツン、とスコップの先端が缶のようなものに当たった。見つけた。土まみれのクッキー缶のタイムカプセル。それを多少強引に引っこ抜く。
     土埃をはらい、ゆっくりと缶の蓋を開けると、むあっと古びた匂いがした。ヒル魔が中身を1つずつ取り出していく。
     まずは、ふざけて撮ったプリクラ。ああ、そういえば1回だけ撮ったことがあったな。2人とも目のデカさに笑い合ったっけ。
     次に出てきたのは、互いに互いを撮り合った黄ばんだ写真。ピンでの写真ばかりだ。ヒル魔がカメラを買ってきて、俺を撮り始めたのが始まりだった。それを取り上げ、ヒル魔の写真もありったけ撮ってやった。写真を現像した時、「このカスめちゃくちゃブス」とか「この糞ドレッド、極悪すぎ」とか言いながら、頭を寄せ合ってはしゃいで写真を眺めたのだ。
     当時、揃いで買ったストラップ。確か、旅行先で買ったんだよな。2人っきりの旅行。ヒル魔が土産屋でクソダセェ龍のストラップを持ってきて、「スクールバッグにつけようぜ」と言ったのを覚えている。結局2人ともバッグにつける事はなかったが、タイムカプセルに入れる物を持ち寄った時、同じ物を取り出して笑い合った。
     レシート裏に書かれた、互いの顔を描いた似てない落書き。コンビニで買い食いして、物足りないからファミレスへ行った。そこで書いたものだ。ヒル魔は絵心が一切なく、「これ、糞ドレッド」と言いながら見せられた時は「テメーの目は節穴か?俺はもっとイケメンだろうが」って怒った。仕返しに、ヒル魔の顔をスッゲェブスに描いてやった。その落書きは、2枚ともヒル魔が持って帰った。その姿は、やたら嬉しそうに見えた。実際嬉しかったのだろう。タイムカプセルに入れるくらい。
     それから出てきたのはのは、俺の制服の第2ボタン。珍しくヒル魔と制服で会った時、喧嘩中に取れたものだ。ヒル魔がくれと言うので、くれてやった。代わりに得たものは、タイムカプセルに入っていた最後の物。ヒル魔の制服の第2ボタンだ。俺のをくれてやる代わりに、ちぎってやったんだったな。タイムカプセルに物を入れていく時に、こっそり忍ばせたボタンだった。なんとなく、大切に思っている物だったから。
    「俺の制服のボタンじゃねえか。テメー、こんなもん入れてたのか?」
    「……まあ、なんとなく?」
    「ふーん?」
     ヒル魔はニヤニヤと笑いながら俺の顔を覗き込む。ったく、性格の悪い奴だ。俺が照れているのを分かってて、わざとそんな事をする。
    「なあ、なんでくれてやるのが第2ボタンか知ってっか?」
    「?知るわけねーだろ」
    「心臓に1番近い位置にあるかららしい。阿含からボタンを貰った時から、阿含の心臓は俺のものだ」
    「それを言うなら、ヒル魔の心臓だって俺のだろ」
     ヒル魔は面を食らった顔をして、それからくふくふと笑った。ぎゅっと俺を抱きしめる。そして耳元で囁くのだ。
    「そうだよ。俺の心臓も、身体も、脳も、心も、全部阿含のものだ」
     俺はたまらなくなって、思いっきりヒル魔を抱きしめ返した。ここが外であることなんてすっかり忘れて。
    「俺も。俺の全部、ヒル魔に捧げてる」



     夕焼け空の下、手を握り合って帰路につく。
    「なあ、またタイムカプセル埋めねえか?次は還暦迎えたら開けるんだ」
    「いいなそれ!今度は忘れんなよ?」
    「ああ、忘れねぇよ。ヒル魔と過ごした一時一時全てな」
     ヒル魔の頬に赤みがさした。それを誤魔化すように、話しを続ける。全部バレてるっつうの。可愛い奴。
    「何入れっかなァ。互いに手紙を書くってのは?」
    「流石に恥ずすぎだろ」
    「そうか?俺は良いと思うけどな」
    「写真入れようぜ。今度は一緒に写ってるやつ」
    「賛成」
    「あとこの第2ボタン、また入れんのはどうだ?」
    「ケケケ、互いの心臓は握ったまま、ってか?嫌いじゃねえ考えだ」
    「つうかどこに埋めるよ?還暦まで潰れねえとこじゃねえと」
    「あー……新宿御苑とか?」
     2人で新しいタイムカプセルの事を話しながら、あたたかい家へ向かって帰って行くのだった。
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