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    tobun_egg

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    初恋と2人のはなし

    タイトルは邦楽の曲名より

    爪痕 今日も今日とて、阿含と連んで悪事を働いていた。阿含が不良どもをぶちのめすのを、少し後ろで俺は眺めている。
     長い手足に、しなやかな筋肉。バランスの取れた最高の肉体から放たれる、パフォーマンスじみた大ぶりの暴力。なびくドレッドヘアーから除く、整ったオスの顔。俺はそれを食い入るように見ていた。
     不良全員を地面に沈めた阿含がふっと笑ってこちらを振り返る。そこから見える形の良い歯。目と目が合った瞬間に、ドキンと胸が高鳴った。自分でも分かった。この瞬間、俺は恋に落ちてしまったのだ。

     性悪なところもすごく好きだ。素の姿を隠そうともしない、その姿勢。それに、たまに見せる年相応の幼い顔。俺の住処のホテルで無防備に過ごす姿。そのどれもが大好きで、どんどん深みハマっていく。
     最近の阿含は俺の住処で過ごす事が多く、内心緊張と喜びとでいっぱいだった。そんな事はおくびにもださずに、阿含と軽口を叩き合う。ポンポンと紡がれる会話を、俺も阿含も楽しんでいた。心地よい時間だ。
    「ー腹減ったから、飯食いに行くぞ」
    「ルームサービス頼めばいいだろ」
    「もっとジャンキーな物が食いてえ気分なんだよ。ほら行くぞ」
     そう言って阿含は俺の肩に腕を回した。心臓の鼓動が速くなり、血が熱く燃え上がるのを感じる。阿含の方を見ると、阿含も俺を見つめていた。間近にある顔に、心臓が跳ね上がる。
    「……なんだよ」
    「いや、別に?」
     それからチェーンのハンバーガーショップで飯を食い、阿含は家へ帰って行った。阿含に触れられた肩に手を添える。思い出すだけで、その部分が熱を持つ気がした。笑い出しそうになる口元を押さえ、俺は上機嫌で住処へ帰って行った。
     その日以降、阿含からのボディタッチが増えた。しょっちゅう肩を組むし、頭をくしゃくしゃに撫で回す時もあった。ピアスを物珍しそうに弄っていた時もある。その度にバクバクと鳴る心臓を、見抜かれないように必死に押さえつけた。触れられた喜びと、少しの期待。阿含のテリトリーに入れてもらえたようで、有頂天になっていた。

     いつものように悪事を働き、共に飯を食う。いつも通りの光景。
     ちょっと違ったのはその後の事。阿含が何か言い淀むように、ソワソワしていた。
    「どうかしたか?」
    「ー……」
     阿含の右手が、俺の腰を引き寄せた。至近距離で目と目がが合う。それから、ゆっくりと近づいてくる顔。キスされる、と思ってぎゅっと目を閉じた。
    「……ゴミ、着いてる」
    「あ、ああ、サンキュ」
     阿含の手には一本の糸屑。勝手に勘違いして、恥ずかしい。頬に熱が集まるのを感じた。今が夜でよかった。この暗さのおかげで、赤くなった頬に気づかれずに済むから。
    「……それだけ。またな」
    「ああ、また」

     この「また」が訪れるた時、全てが終わった。
    「いらねーよ、テメーらなんか」
     阿含とはそれっきりだ。大きく膨らんでしまった恋心は胸の奥の奥にしまって置く事にした。これからは、アメフトの事だけ考える。感傷に浸っている暇などない。それでも、痛む胸をどうする事もできなかった。







     蛭魔妖一とは不思議な男だ。男にしては華奢な身体で、周りを威嚇するかのような派手な金髪にダメ押しのピアス。フィジカルはカスだが、頭の回転はかなり速い。
     中学生の頃、俺はヒル魔と連んで悪事を働いていた。暴力の限りをつくして振り返ると、ヒル魔は決まって嬉しそうな顔をする。
     こいつとの軽口の応酬も好きだった。特に考えもせず、素の言葉が出てくる。あいつの前では、無防備でいられた。
     俺は、ヒル魔に惹かれていた。ヒル魔から向けられる熱い眼差しや、楽しそうな笑顔、ちょっと触れるだけで一瞬ビクッとする身体。1番はやはり、居心地の良さ。こんなに一緒にいるのに、さっぱり飽きない。
     これが恋心というやつか。その言葉が自分の気持ちを表すのに1番しっくりきた。そんな気持ちを持つ事ができた事を、少し嬉しく感じる。
     一度だけ、マジにキスしそうになった事がある。飯を食った帰りだった。喧嘩後の熱に浮かされて、ヒル魔の腰を引いた。お互いの息遣いが分かるほどに近づく顔。熱い視線が混じり合う。ぎゅっとヒル魔が目を閉じたので、ヒル魔もキスを望んでいると思った。だから、ゆっくり顔を近づけて、そこでハッとする。
     ここでキスをしたら、俺たちの関係はどう変化するのだろう。さっきまでと同じじゃいられない。他の女たちと同列になってしまうようで、それは何となく嫌だ。
    「……ゴミ、着いてる」
    「あ、ああ、サンキュ」
     結局俺は日和って、キスしなかった。後日、その判断が正しかった事を知る。

     フェンス越しに見たヒル魔は、俺といる時より充実して見えた。カスの癖に、一丁前に夢なんざ見てやがる。途端に冷えていく心。
    「いらねーよ、テメーらなんか」
     バカげた恋心は、ドブに捨ててやった。



     つもりだった。しかしそいつはずっと自分の中に鳴りを潜めていた。捨てようとして、捨てきれなかった恋心。深い爪痕のようなそれは、心に刺さったままだ。世界戦後、そいつがザワザワと身体を侵食していく。ずっと使ってなかった電話番号を呼び出し、ヒル魔の進路を聞き出すほどに。

     大学生になったヒル魔からは、昔のような熱い視線は感じなかった。そりゃそうか。あんな事があったんだ。いや、俺がしでかした事だが。
     時を経て、より一層粘着質になった俺の恋心は、止まる事を知らない。一緒にアメフトやってる時なんか、楽しいやら嬉しいやら恋しいやらで、俺の心は忙しかった。飲み会の時はいつも隣をキープして、帰りも一緒に帰った。というより送ってやったという方が正しい。なぜなら俺の家はヒル魔の家と真逆にあるのだから。
     それでも、なんとしてでも2人の距離を縮めたかった。今度こそ、逃したくなかった。
    「なあ」
     部活の帰り道、そんな事を考えていたら隣を歩くヒル魔が口を開いた。
    「なんだよ」
    「ずっと思ってたんだけどよ、テメーなんで遠回りして帰ってんだ?テメーん家逆だろ?」
    「……知ってたのか?」
    「たりめーだろ」
     これはかなり恥ずい。しかも言い訳が一切思いつかないときた。
    「これは、ーその……」
    「しかも、飲み会の時、絶対に俺の横に座るだろ?あれ、なんで?」
     それもバレていた。大学に入ってから、俺たちの距離感は中学の時ほど縮まっていない。今、告白した場合の勝率は?そもそも、今更どの面下げて好きだなんて……。
     チラリとヒル魔を見ると、思ったよりも間近に奴の顔があった。いつかの、飯食った後の帰り道を思い出す。ヒル魔の瞳はどこまでも真っ直ぐで、澄み切っていて、「ああ、すきだ」と思った。すると、自然と口から言葉が溢れでた。
    「ヒル魔が好きだ」
     何も着飾らない、心そのままの言葉。取り繕う余裕なんてなかった。それにヒル魔はふっと笑うと、俺の首の後ろに腕を回した。
    「俺も、阿含が好き。中学の時からずっと。長い事、心の奥底にしまって置いたんだ。それなのに、阿含があまりにも分かりやすいアプローチしてくっから、表面に浮き出てきちまったじゃねえか」
    「ヒル魔……お、れも……俺も、中学の時から好きだった。あんな事しでかしたのに、捨てきれなかった」
    「ケケケ、随分と長い遠回りだったな」
    「ああ、そうだな」
     ヒル魔の腰に腕を回す。
    「今度は日和んなよ」
    「ありえねぇよ」
     瞳を閉じて、ゆっくりと顔を近づける。それから、唇の感触を確かめるように、優しく口付けた。
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