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    竹D宮

    先にDもろたで、サボくん。

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    竹D宮

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    高2の夏
    オメガバースパロ 後日談①

    xxx feet underやり遂げたい事があるから、エースの部屋に行きたい。

    サボが突飛な事を言い出すのは今に始まったことじゃないし、詳しく話さないのもいつもの事だ。夏休み前に出された課題で怒られた。だから、おれの部屋に来たいと言う。
    課題とおれの部屋に来たがる理由がどう繋がっているのかは分からないが、サボが怒られるなんて珍しい事もあるもんだと、暑さに負けて座り込んでいるサボを見下ろした。
    駅から少し歩いただけで顔を真っ赤にするサボが心配になって、おれん家を目の前に、コンビニの陰で休むことにした。
     
    薬物の過剰摂取で体力が極端に落ちていて、歩くだけの何でもない運動でもぐったりする、と親父がサボについて説明をした。
    親父の言う事なんか信用ならねェと疑いの眼差しを向けていると、母さんが「エース座って。お父さん、今日は真剣に話してくれるから」と言った。親父が身体を小さくさせながら、「いつも真剣に話してるぞ」と主張したが母さんに無視されていた。
    サボが入院してから数日後の事だった。

    親父は言った。
    「どれだけクソったれでもサボにとっては親だった」
    賢いサボはチョーカーの下に注射針を刺していた。おかげで誰にも知られる事なく、サボは月に何本も摂取し続けていた。ベッドから起き上がれなくなっても発情期を拒んだサボ。
    そんなサボを裏切るように注射器の中身は発情期の抑制剤ではなく、オメガからアルファに性転換できると海外で問題になっている薬物だった。
    サボの親がどういう理由で打たせていたのかは考えなくても手に取るように分かる。性別を変えてしまおうだなんて神でもあるまい、そういうのは自分の意志でやるもんだ。
    それに、まだこの世界には第二の性を変える術はない。
    サボが打っていたその夢のような薬物は、オメガの機能を叩き潰すだけの、ただの毒だった。

    買ってきてやったソーダアイスを口に突っ込んで、噛むでも舐めるでもなく、ぼんやりしているサボを見る。汗だくの赤い顔はまるでチョーカーに首を締められているようで、苦しそうに見えて、眉間にしわが寄った。
    二年前に色違いで買ったチョッパーマンの白いTシャツに、中学の体操着だった黒いハーフパンツという無頓着なコーディネート。オメガになってもサボはサボのままだ。
    でも、そのTシャツがぶかぶかになっているのも、首に付いた黒いチョーカーも一年前のサボにはなかったものだ。少しでも目を離したら消えてしまいそうで、おれは今までみたいに接する事ができなくて悩んでいる。

    この暑さの中、外に出ている人間はおれとサボのふたりだけみたいだ。

    「サボ、食わねェと溶けて口ベタベタになるぞ」
    「ん……食えねェ」
    「は?」
    「エース、やる」
    突き出されたアイスを仕方なく口に含む。ねっとりとした甘い味が舌に広がって、なんとなくサボが食えない理由が分かった気がした。ソーダのイメージとは対照的な味。これはきっと胃の中まで甘くする。
    引き継いだそれをガリガリと噛み砕くと、サボがこちらを見ているのに気がついた。熱に潤んだ充血した目が、じっとおれを見ている。
    「どうした?」
    「……美味そうだなって」
    「はあ?じゃあ食えよ」
    「今は食えねェ」
    ごめんと独り言みたいにつぶやいて、プイっと道路の方に顔を向けたサボは気怠そうに立てた膝の上に頭を押し付ける。チョーカーの隙間から、赤らんだうなじが見えた。
    こんなところを噛むだけで番になれるというのだから不思議な話だ。穴にチンコを入れる方がよっぽど難しそうなのに、噛むだけでいいのかと拍子抜けする。
    「これ食ったらおれん家行くぞ」
    「うん」
    顔を上げて、少し嬉しそうにサボが笑ったのを見て、おれはぐっと身体に力が入るのを感じた。
    すっかり頭の真上にきた太陽の下を、おれたちは家まで歩いた。

    夏休みに入ってから付けっぱなしの冷房のおかげで、おれの部屋はキンキンに冷えていた。
    体温の高いおれにはこのくらいが丁度いいけれど、さすがの今日は廊下との温度差に顔面が引きつった。ふらふらのサボをこんなキンキンに冷えた部屋に招いて良いものか迷った。
    設定温度をいじくっているうちに、するりとサボは入り込んで、ぼふっとベッドに突っ伏すと動かなくなった。微動だにしないサボに冷や汗が背中を流れ落ちる。
    「え、嘘だろ、……おい!」
    死んだ!と思って慌ててベッドに駆け寄ると、「おやすみ」とボソリと言ってサボは寝てしまった。信じられない速度で眠りに落ちるサボに呆然と立ち尽くす。
    目の下に薄くクマができている事はずっと知っていた。眠れない原因が自分にあったのだろうという事も、なんとなく分かっているつもりだ。
    そうでなくても、おれの想像以上にサボは歩いてものすごく体力を消耗したのかもしれない。
    でも、まさかこんなスピード感で寝るなんて、おれは用意していたものがすべて台無しになって、がっくりと肩を落とした。
    サボと過ごすのは久しぶりだ。サボがおれの部屋に来たいと言い出してから、実はこっそりいろんなものを準備していた。話したい事も見せたいものもたくさんある。
    ベッドに沈む身体にタオルケットをかける。
    サボがこの部屋に来たのはオメガになってからは初めてだ。ここに呼べるようになるまでの間、おれはサボを悲しませていた。あんなに母さんからサボが寂しそうだと聞いていたのに、おれはおれのやるべき事を優先した。
    その結果がこれだ。
    毒が抜けてオメガの機能が戻るまで発情期を迎える事はもちろん、サボは番を作る事ができなくなった。フェロモンをまき散らさなくて済むなんてサボは笑っていたけれど、抑制剤で抑えているのとは訳が違う事くらい、おれにだって分かる。
    うつ伏せで眠るサボの顔を覗き込む。汗をかいた赤い顔は気持ち良さそうに緩み、小さく寝息を立てている。チョーカーが喉を押し潰しているように見えて、やっぱり気になって、鍵穴に舌をねじ込んで外してやった。起きる気配はまったくない。
    疲れていたのか、ろくに眠れていなかったのか、サボはしばらく寝返りすら打つことなくこんこんと眠っていた。

    七年前、サボはおれの目の前で車に跳ねられて、記憶を失った。
    サボの記憶はちぐはぐで、覚えている事もあれば、ごっそりと失われている事もあって、サボも周りも酷く混乱した。
    父親の顔は分かっても、母親の事は一切分からない。名前も分かるし実弟だという認知もあるのに、弟と過ごした日々が思い出せない。教師やクラスメイト、肉屋のおばちゃん、本屋の姉ちゃん、おれたちの弟、どの人物に関してもサボは一から十まで覚えていなかった。
    サボの中にあったデータブックは虫に食われたみたいに穴が開き、ボロボロになっていた。
    そして、おれの名前もデータブックから抜け落ちていた。おれが親友で兄弟である事は覚えているのに、一緒に遊んだ日々と共におれの名前の記憶は失われていた。
    辛かったのは名前を忘れられた事じゃない。父親に怒鳴られながら「忘れてしまってごめんなさい」と泣きじゃくるサボを、庇うことも守ることもできない事だった。
    サボの一番の友達で親友で、おれたちは兄弟なのに、おれは自分の名前とサボの誕生日を教える事しかできなかった。
    「近い将来、息子さんはオメガに転換します」
    そう宣告されたサボの両親は、サボを突き放すようになった。記憶喪失という大怪我はサボに変異するほどの衝撃と負担を与えたというのに、サボの両親は一向に手を差し伸べようとはしなかった。
    見かねたおれの親父は屋根のあるこの家を与え、母さんは二人目の息子みたいにサボを扱うようになった。おれは、おれにできる事を毎日考えた。
    そうして迎えた一月一日、おれの十歳の誕生日、おれは言った。
    「サボはおれの運命の番だ」
    ニッと笑ったおれを見て、サボは一瞬きょとんとして、つられたように笑って頷いた。
    記憶を失ってから初めて見たサボの笑顔だったから、親父はポカンと口を開けて固まって、母さんはびっくりして皿を落として割った。
    感情がストンと抜け落ちたような顔をしていたサボに、表情が戻ったのはこの日からだった。
    「運命の番なんて本の中にしか存在しねェぞ、エース」
    親父はどこか嬉しそうにそう言って、サボを抱き寄せた。
    「サボくん、すまない。おれたちには君がオメガになるのを止めてやる事ができない。君はこれから辛い思いをするかもしれないし、おれたちじゃ助ける事ができないかもしれない。でも、絶対に覚えていて欲しい。おれたちはどんな時も、君とエースの味方だ」
    母さんは泣きながら何度も頷いていた。おれも、痛いくらいに拳を握りしめた。
    おれとサボが大好きな本の中で、海賊たちが探している宝物の一つが「運命の番」だ。アルファの主人公が運命の相手であるオメガを手に入れて、これこそが探していた宝物、「運命の番」だったのだと気付き、ふたりは幸せに航海の旅を続けていく。どれだけ荒波に飲まれようと、ふたりを引き離そうと魔の手が忍び寄っても、「運命の番」の絆は繋がり続ける。
    番になれば自動的に、勝手に、物語のように絆はずっと繋がっているんだと思っていた。
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